「さて、今日は何の日でしょう?」
地元デートから何日か経ったある日。何事もない夕食の席で、突然姉ちゃんが俺たちにクイズを出してきた。
いったい突然何なんだよ……。
「何の話だ?」
「いいからいいから。今日は何の日?」
「大岡越前の日だろ」
「……え? おお、おかえちぜんの日?」
「ああ」
確かWik●pediaにはそう載っていたはずだが。
「うーん……そうなのかもしれないけど、私が言いたいのはそうじゃなくて……ほら、もっとこう、有名なのがあるじゃない!」
「有名なの……?」
「あ! ハイハイ! 分かりました!」
「はい、ひかりちゃん!」
「チェナーゼの血浴が起こった日ですよね!」
「ちぇ、ちぇなーぜ?」
なんだそれ。俺も知らない。言葉の響きからして、キリスト教に関係する出来事なのだろうか? 後で調べてみよう。
「あ、もしかして」
「はいっ! 慧!」
姉ちゃんヤケになっているなぁ……と思いつつも、俺は答える。
「学年末試験四週間前だろ?」
「ぎゃー! テストの話はしないでぇ~!」
俺がそう言うなり、姉ちゃんは耳を塞ぐ。どんだけテストのことを考えたくないんだよ……。
数秒後、ハッと元に戻ると、姉ちゃんははぁ~とため息をついた。
「も~、どうしてみんな分からないの~」
「姉ちゃんにその台詞を言われるとムカつく」
「そう? でもこればっかりは、慧やひかりちゃんの思いつきが足りないわ!」
そして、姉ちゃんはビシッと俺たちを指さすと。
「本日、二月三日は、節分です!」
「あー確かに~」
「ホントに今まで忘れてたの⁉」
姉ちゃんが呆れたような声を出す。
確かに、今日は節分だったな……。それに、立春でもある。全然春らしくないがな。
そういえば去年もこういうやり取りがあった気がする。俺や母さんは忘れていて、姉ちゃんだけが覚えている状態だったな。
すると、向かい側に座っている五十嵐が身を乗り出して、小声で俺に尋ねてくる。
「ねえねえ慧、節分ってナニ?」
「お前、それも知らないのか……」
時々発動される五十嵐の無知っぷりには驚かされる。
「えーっと、節分ってのは、簡単に言うと、昔の暦で新年の始まりに当たる日だ。豆をまいて鬼を追い払ったり、年齢の数だけ豆を食べたりする行事がある」
「ふーん……日本の行事って不思議なものが多いね」
俺たちからすると当たり前に見える行事でも、五十嵐からするとそんな風に見えるのかもな。
俺たちがそんなことを話している間に、姉ちゃんが台所からある物を取って戻って来た。
「というわけで、じゃ~ん。恵方巻を買ってきておきましたー!」
「姉ちゃんにしては珍しく気の利いたことをするな」
「『いつも』でしょ!」
「はいはい」
それでも、恵方巻を買ってきてくれた姉ちゃんには感謝である。