恵方巻を無言で食べ終わった後は、豆まきが待ち構えている。
「それじゃあ豆まきをするわよ!」
「そうだな」
「……ん゛、はい゛」
姉ちゃんの声で、俺たちは豆まきを始めるべく、席を立つ。
五十嵐はワサビに慣れていないのか、鼻がツーンとするのに耐えられないようで、鼻の頭を押さえている。まあ、最初はキツイよな、ワサビ。
そんな五十嵐だが、俺の横に来ると、服をちょいちょいと引っ張った。
「慧……豆まきってなに?」
「豆まきってのは、『鬼はー外、福はー内』って言いながら、乾いた大豆を家の外に放り投げて、厄を払って福を家の中に招き入れる行事のことだ。恵方巻と並ぶ節分のメインイベントだな」
「ふーん……なるほどね」
「あ、慧とひかりちゃん、ここから適当に豆を取ってね」
俺たち二人は、姉ちゃんが差し出した大豆の袋から、一掴みの大豆を取り出した。そして、姉ちゃんを加えた俺たち三人は、階段を上って二階の各部屋から豆まきを開始する。何故二階から大豆を撒くのか、それには特に意味はない。
「鬼はー外!」
「福はー内!」
「鬼はそとー福はうちー」
「慧、そんなんじゃ鬼も追い払えないし福も入ってこないわよ! もっと元気よくばらまかなきゃ!」
「そうだよ慧!」
「へーい」
でもなあ……。個人的には、食品である大豆を外に撒いて食べられなくするのに、なんかこう、抵抗感があるんだよな……。分かってくれる人、いないかな?
「よし、二階は終わったわね?」
「はい!」
「では次は一階に行くわよ!」
「レッツゴー!」
テンション高めの女子二人組は、ドンドンと下りていった。あの二人には食べ物を大切にする心は無いのか? それとも俺が敏感すぎるだけか?
まあ、手に持った豆は半分くらい撒いたし、後は食べればいいか。数えてみると、ちょうど俺の年齢の分だけ残っているので都合もいい。
「鬼はー外!」
「福はー内!」
二階からでも、下の階で二人が豆まきをしている声が聞こえる。どうやら大盛り上がりしているようで声がだいぶデカい。もう少し声を抑えないと、近所迷惑で訴えられてしまいそうだ。
そんなことを考えながら、豆をボリボリ食べながら階段を下る。声の方向から、二人とも今はリビングにいるようだ。
俺は、そんな二人に注意しようと、廊下を歩いていると……。
ガタンッ‼ バンッ!
うおっ! 何だ何だ⁉
思わず、けたたましい音がした方向を見る。
その方向にあるのは、玄関のドア。見ると、玄関のドアが勢いよく開け放たれていた。
まず目についたのは、その特徴的な金色の髪。そして端正な顔立ち。
間違いない、金髪ツンデレ系天使のアリスだ。アリスなのだが……。
彼女が纏っているのは、緑系の斑模様がプリントされた長袖の服。帽子も同じ柄の物を被っている。
そして、最も目を引くのは、その手に抱えている黒光りする細長い物体。
機関銃だった。
そして、それをこちらに向けると、
「セラフィリ―! 鬼から助けに来たよー‼」
ダダダダと乱射してきた!