俺の通っていた小学校と中学校は、同じ地域の名前を冠している。もちろん、距離も近い。二、三百メートル程度しか離れていないのだ。
俺たちは、さらに東へと歩みを進める。
この辺まで来ると、道の両脇には個人経営の小さな店や、コンビニが立ち並んでいる。中学生の頃は、校則を破って友達と一緒に買い食いしていたっけなぁ……。
「あれ?」
「どうした?」
「あの店って、前はLAWS●Nじゃなかったっけ?」
「……ああ、ほんとだ」
今は同じコンビニでも、『ブンブン』になっている。一年見ないうちにいつの間にか店舗が変わっていたのだ。ロゴだけを変えて、建物をそっくりそのまま活用している。
「というか、何故あの店が前にLAWS●Nだったことを知っているんだ? この辺に来たこと無かったんじゃなかったか?」
「あれ……? うーん、なんでだろう、確かにそうなんだけど……」
五十嵐は首を捻る。
「まあ、俺の身辺を調べたときに知ったんじゃねえの? それが、学校で友達から聞いたとか」
「……うーん、そうなのかなぁ?」
いわゆる既視感というやつだろうか? まあ、こんな変化、いまどき家から出なくたって誰でも知れるようになった時代だから、何かの拍子で知ったのだろう。
それにしても、中学校か……。
思えば、卒業してからは避けるようにして近づかなかった。その存在を無意識的に排除していたのかもしれない。あの事件があったから。そして、中学校へ向かう途中には、必ずあの事件が起こった場所を通るから……。
だが、俺は過去を乗り越えなければならない。いつかは必ず。絶対に。
もしかしたら、これは神からの試練なのかもしれない。五十嵐が俺を『地元デート』に誘う形をとって、俺に乗り越えられるかを試しているのかもしれない。
はぁ……胸が苦しくなっていく。
本当に大丈夫だろうか……。
不安になっている間も、俺たちの歩みは止まらない。表面上は、五十嵐と話して明るく振舞っているが、心臓の鼓動は速まるばかりだ。
そして、遂に中学校へ行くには曲がらなければならない交差点に辿り着いた。ここを曲がり、さらに通りを二本渡ったところが、二年前、あの事件が起こった現場である。もう、ここから見えるほど近い。俺は思わず下を向く。
大通りの信号が赤になり、目の前の歩行者用信号が青になる。
俺たちは信号を渡り、そのまま足早に先に進もうとすると。
「あっ」
ドン、と誰かにぶつかってしまった。
幸いにもどちらも転ばなかったが、俯いて歩いていた俺が明らかに悪い。
俺はぶつかってしまった人に慌てて声をかけ……かけて思わず驚きの声を出してしまった。
「だ、大丈夫で……何故お前がこんなところに⁉」
「フフフ……奇遇だな、レーゲンパラストよ!」
そこに立っていたのは、今日も絶賛中二病な水無瀬だった。