そこにいたのは、俺のクラスメイト、水無瀬菫だった。
やはり絶賛中二病を発症中で、眼帯はもちろん外していない。しかし、今日は珍しく普通の服装をしているから違和感が半端ない! まるで、眼帯をしたはいいものの、急いで家を出なくちゃいけないからクローゼットから適当な服を取って着た、みたいな感じだ。
「こんにちは、水無瀬さん」
「こ、こんにちは……」
そして、五十嵐には普通の挨拶。ねえ、この差って何ですか⁉ 水無瀬は五十嵐を敬っているのか⁉
「それにしても、このような日に二人きりで外出……『地元デート』というやつか?」
「……」
「……そう、だね」
改めて言われると恥ずかしいな……。
それに、五十嵐さんよ、何故いまさら気づいたように、『そう、だね』と赤面しているんですかね。言い出しっぺはお前だろう? なーにが地元案内だよ、『地元デート』と認めているじゃないか!
そんな俺たちの様子を見て、水無瀬は若干ニヤニヤしている。
一刻も早くこの話題から逃れたいので、俺は逆に水無瀬に質問をし返す。
「ところで、水無瀬はこんなところで何してるんだ? こんなところに一人で来るなんて、いったいどこへ行こうとしているんだ?」
「う……それは……」
今度は水無瀬が言葉に詰まる。
ははぁ……この反応は……。
「さては、これから人には知られたくないイベントに参加しようとしているんだろう⁉」
「違う!」
違ったか……。てっきり、同じような中二病患者で構成された闇の秘密結社の会合にでも参加するのかと思ったのだが。それだったらもっと中二病っぽい服装になるはずだし、それはあり得ないか。
水無瀬の家は、俺たちが住んでいる場所とは中学校を挟んで反対側にある。電車の駅で言うと、二駅分くらい離れているのだ。そもそも、彼女は日中ほとんど外出をしないと、本人が度々口にしている。だからこそ、この辺まで来ているのには何か理由があるはずだ。
「だったら、何故こんなところにいるんだ?」
「うぅ、それは……」
さっきの繰り返しだ。水無瀬はなかなか口を割ろうとしない。
なんだかかわいそうになってきた……。
「ま、無理して言うことじゃないよな。話しにくい事情なんだろう? 問い詰めて悪かったな」
「う、うん……」
「じゃ、俺たちは行くぞ。お前もどこに行くのかは知らんが気をつけろよ」
「あ、う、その……」
さ、行くぞ、と傍らの五十嵐に声を掛けて、俺は中学校方面へと歩みを進めようとした。
……のだが。
「待て! ここから先は通さぬ!」
俺たちの前に、RPGの中ボスっぽい台詞を吐きながら、水無瀬が立ちふさがった!