「話は変わるけど、結局二人とも文理選択はどっちにしたのかしら?」
「「へ?」」
話が変わりすぎて、俺たちは二人とも間抜けな声を出してしまった。
……ああ、文理選択か。あまりにも突然だったから、理解するのに数秒かかってしまった。
「そういえば、あの期限っていつだったっけ?」
「……明日だ」
そーだった! すっかり忘れていたが、明日が文理選択のプリントの提出日だった!
ということは、俺と五十嵐は今、人生の岐路に立っているのでは……?
これは呑気にバイトの話をしている場合じゃねえな!
……まあ、俺の意向はほぼ決まっているから大丈夫だ。問題は俺ではない。
「俺は理系にする」
「そう。ま、慧はどっちを選んでも大丈夫そうだしね……ひかりちゃんは決まった?」
「うーん、実はまだ、迷い中で……」
そう、五十嵐だ。彼女は神がインプットし忘れたかなんとかかんとかで数学が苦手だが、その他の教科はよくできる。普通なら数学が苦手だから、ということで文系に行きそうなのだが……。
「大丈夫よ、文系を選んだからと言って、必ず慧とクラスが別になるわけじゃないわよ」
「でも、理系と文系はそれぞれ同じクラスに集まりやすいんですよね?」
「それはそうだけど……。私たちの高校は八クラスあるから、理系を選んだとしても、慧と別のクラスになってしまうことはありえるわ。それに、クラス単位じゃなくて、理系か文系かで授業が分かれることが増えるから、そもそもクラス分けの意味も怪しいわね」
「そうなんですね……」
うーんと、二人とも唸りながら悩む。
姉ちゃんが五十嵐のことを真剣に考えてくれるのはとてもありがたいことだし、それに俺のことまで考慮に入れてくれているのはなんだか嬉しいような気恥しいような……。
俺は五十嵐には彼女にとっての最善の選択をして欲しいと思っている。というか、『俺と一緒にいたいから』という理由で理系を選んで、成績が悪くなって留年とか退学とかになってしまったら、罪悪感と責任を感じてしまう。そんなこと起こらないとは思うが。
「まあ、五十嵐が理系でも文系でも俺は別にいいんだが……」
「「よくない!」」
「ソウデスカ……」
正直、五十嵐が文系でも理系でも、同じクラスになれないことはあるし、もし同じクラスになれなくても、放課後とか昼休みとか、それに家とかでいつでも会えるから、関係性はあまり変わらないと思う。
数分間、五十嵐は考えると、ガタンと席を立つ。
「今晩じっくり考えます」
「……後悔の無いようにね」
ごちそうさま、と彼女は食器を片付けて、階段を上っていった。
五十嵐にとって、最善の選択が出ることを願うばかりだ。