「じゃあなー」
「さらばだ! いつかまた逢う日まで」
「おう」
「さようなら」
「ばいばーい!」
水無瀬ともっちーを見送ると、急に家の中が静かになった。何だか、さっきまで五人でワイワイ騒いでいたのが嘘みたいだ。
俺は、食器を洗ったりゴミを捨てたりしながら今日の夕食の献立を考える。
クリスマスケーキをたくさん食べたのでお腹はあまり減っていないだろう。なら今日は少なめにしておくか。確か母さんは夕食はいらないと言っていたから、三人分でいいのか。今日はクリスマスイブだというのに仕事か……お疲れ様です。
「ねえ慧」
「ん? どした?」
そんなことを考えていると、横から五十嵐に声をかけられる。相変わらずステルス性能が高い。だが、突然声をかけられてももう驚かないぞ。
すると、五十嵐は後ろに手を回してもじもじし始めた。
「実はね……渡したいものがあるの」
「お、おう。そうか。実は俺もだな……」
そういえば、アレを渡すのをすっかり忘れていた。クリスマスパーティーが終わってからどこかのタイミングで渡そうと思っていたが、なるべく早い方がいいよな。俺はズボンのポケットに入れておいたソレを掴む。
「じゃ、じゃあ慧からでいいよ」
「いやいや、先に五十嵐からどうぞ」
「そう? じゃあ……これ、私からのプレゼント。受け取って」
そう言って、五十嵐が顔を赤らめながら背中の後ろから取り出したのは、
……一振りの包丁だった。
五十嵐はそれを胸の前で握りしめる。
おいおい、俺の危険レーダーが超反応しているんだが。そう感じた次の瞬間、俺は後退りしながらストップをかけていた。
「ウェイウェイ! ちょちょ、ちょっと待てーい! 俺を刺し殺す気かー⁉」
俺のその一言に、五十嵐は、え? と意味が理解できていない様子でしばし固まると、
「……包丁じゃ、ダメだった?」
「いやいや、それはありがたいんだけど! 俺がずっと欲しかった包丁だけど! 今の体勢じゃ、俺を刺し殺そうとしているように見えるから、一旦包丁を下ろそうか!」
「う、うん」
五十嵐は俺の言った通りに、素直に包丁を下ろす。
「殺されるかと思った……」
「わたしはそんなことしないって言ったでしょ?」
「ま、まあそうだけど」
あの姿勢からだったら、意を決して俺を殺そうとしているようにしか見えないんだけど!
「それじゃあ、改めまして……。わたしからのクリスマスプレゼントです」
「あ、ありがとう」
五十嵐は包丁を横に持ち替えて、俺の方に差し出す。俺はありがたく受け取った。
この包丁、前から欲しかったんだよなー! 最近何だか切れ味が悪くなっていたし、ちょうどいい。
「それにしても、よく俺が包丁が欲しいなんて分かったな……」
「えへへ~、だって慧、デパートに行った時、変質者みたいにいっつも包丁ばっかり見ていたじゃん」
「へ⁉ それは変質者だな俺!」
どうやら俺は無意識のうちに変質者コースを歩んでいたらしい……。