わたしは慧が放送に行った後、慧の席に座って机をくっつけて、望月君と水無瀬さんの三人でお弁当を広げる。
今日は慧と一緒に食べようと思ったんだけどなぁ……。残念。
お弁当を食べ始めてからほどなくして、教室の前方に備え付けられているスピーカーから慧の声が流れてきた。
『これからお昼の放送を始めます。今日の担当は湯崎と雨宮です』
『よろしくお願いしまーす』
お弁当を食べている間も、放送は軽快に進んでいく。そういえば、お昼時になるといつもこんな感じの放送が流れていたなぁ、とわたしは今更ながら思い出す。
すると、目の前の望月君が何の脈絡も無しに、小声で爆弾を投下してきた。
「そういえば、五十嵐さんって慧と付き合っているの?」
「えっ⁉」
「ぶっ⁉ ……ゲホゲホッ」
わたしの顔は瞬時に自分でも分かるくらい熱くなっていく。こういう恋愛事は苦手だなぁ……。
そんな顔とは裏腹に、思考は何とか冷静を保っていた。
慧と付き合っているか。答えは否。わたしたちは恋人ではない。さらに言えば、許嫁というのも神から与えられた設定に過ぎない。
だからわたしは否定する。
「違うよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
望月君はわたしの返事を聞いて、ニヤニヤしだす。
なんだかものすごく嫌な予感がするなぁ……。
『それでは恒例の大人気・お便りコーナーです。本校のSNS特設ページへの投稿を読み上げています。本日は予告通り、恋愛がテーマです』
再び慧の声がスピーカーから流れて来た。それと同時に、むせている状態からいつの間にか復活した水無瀬さんが、ものすごい勢いでスマホを弄りだす。
数秒間指を画面にシュパパパと走らせ、すぐにまた何事も無かったかのように食べ始める。
『まず初めにペンネーム……う゛ぁいおれんと・うぉーたーれすしゃろう、さん』
「水無瀬さん⁉」
慌てて水無瀬さんの方を向くと、彼女はモグモグと口を動かしながらサムズアップ。えっと、何がいいのか分からないんだけど……。
しかし、その意味は、投稿が読み上げられた瞬間分かった。
『『我が質問に答えよ。即ち一つ屋根の下で許嫁同士が生活するのは普通か?』』
「⁉ ゲホゲホッ」
今度はわたしがむせる番だった。これってわたしと慧のことだよね⁉ そうだよね⁉
しかもスピーカーの向こうで誰かが吹き出す音が聞こえた。もしかして、慧も吹き出しているの⁉
『これについてどう思います? 雨宮君』
『いや~どうなんだろう~、難しい質問ですね~アハハ……』
そんな問いに対して、なんとか持ち直したらしい慧は有耶無耶な答えを返してスルーした。質問に答えないことにガッカリする人はいるかもしれないけど、わたしたちの関係がうっかりバレるよりかは遥かにマシだ。
でも、正面で望月君がスマホを弄っているのを見て、わたしはまた嫌な予感に襲われるのだった。