湯崎に言い当てられ、しかも確信されてしまった。
このことはあまり知られたくないんだが。どうしよう。
「で、五十嵐ちゃんはあんたのこと好きなの?」
「知らん」
「じゃあ逆にあんたは?」
「……ノーコメントで」
「気になってはいるんだ」
「…………」
くつ、確かにその通りだから言い返せねぇ。湯崎はジーっと俺の目を見つめてくる。
「ほら、図星なんでしょ? 言っちゃいなよ。秘密は守るから、さ。恋愛マスターの名に懸けて」
……この部屋は完全防音。そしてこの場にいる他人は湯崎ただ一人。しかも本人は秘密を厳守すると言っている。一応放送設備を確認する……電源はついていないから、誤って全校生徒に放送されることもない。
あーもう、言っちゃおう。自称恋愛マスターだからきっと何かの役には立ってくれるだろうし。それにここで意固地になって否定してもかえって疑惑が深まるだけだ。頭ではそんな言い訳を考えていたが、俺は投げやりになっていた。
「……あーはいはい、その通りだ」
「おおー! やっぱり!」
湯崎は手を叩いて喜ぶ。どうして俺の学年ってこうも人の恋愛話が好きな人が多いんだろう?
「それで、あんたは五十嵐ちゃんが気になっているわけ?」
「んまあ、そうだ」
嘘ではない。一緒に暮らしている以上、意識せざるを得ない。
「じゃあ、早く恋人になっちゃいなよ! たぶんだけど、あんたの許嫁も五十嵐ちゃんなんでしょ?」
「……はい」
どうやら湯崎は許嫁の件を知っているらしい。おのれ姉ちゃんめ……。
「五十嵐ちゃんはあんたと一緒にいるとき嫌な顔とかしない?」
「しねえな。むしろ、楽しそうにしている……かな」
「絶対あんたのこと気になってるじゃん!」
……そうなのか? そういうものなのか? 女心はそんなに単純なのか?
もっとこう、表ではこうだけど、実は裏ではこう思っているとかないの? 初対面がアレだったから、どうしても不信感が拭いきれないんだが。
湯崎は一旦言葉を切ると、落ち着いた様子でゆっくりと俺に語りかける。
「いい? あんたと五十嵐ちゃんは、両想いだよ。だから、告ったら絶対恋人になれるって」
「そ、そうなのか……?」
「うん。私はあんたを応援してる、頑張って」
湯崎はそう言って、ポンと肩に手を置いてきた。
やっぱり相談してよかった。流石恋愛マスター。ちょっと気が楽になった。
だが湯崎は一つ誤解している。
彼女は、俺と五十嵐が互いに付き合おうとしている前提で話をしているが、俺は自分の気持ちに決着がつかない限り、五十嵐のことを完全に好きにはなれないし、付き合う気もない。
それでも、五十嵐が今、俺のことをどう思っているのか、そして俺も五十嵐のことをどう思っているのか、もう一度整理できた。そこは感謝している。
「ありがとな」
「どういたしまして……っと、五時間目まで時間ないね。私が片付けておくから先に行っていいよ」
「おう、サンキュ」
俺は食べ終わった弁当を片付けると、足早に教室に向かう。
互いに互いのことを気になっている可能性が出てきたから、恥ずかしくて五十嵐とどう顔を合わせればいいのか分からんな……。
悶々とした気持ちを抱えながら教室のドアをガラガラと開けると、そこにはもっちー。
彼は俺の肩に手を置くと。
「頑張れよ」
「……!」
俺は何故かものすごく嫌な予感がして、さっと自分の席を見る。
そこに座っている五十嵐は、顔を真っ赤にして伏せていた。そして、一瞬だけ顔を上げて俺と目が合うと、慌ててわざとらしく再び伏せた。
……明らかに様子がおかしい。その状況と、もっちーの『頑張れよ』という意味深長な言葉が脳内で結びついていく。
さてはあんのもっちー、五十嵐に俺についてあらぬことでも吹き込んだなぁ⁉