宇核連
宇宙核物理セミナー
UKAKUREN
Nuclear Astrophysics Seminar
UKAKUREN
Nuclear Astrophysics Seminar
これまでの記録 (past talks) (概要や発表ファイル等)
第29回:5月7日(水)15:00開始:木戸 英治(東京大学・宇宙線研究所)
第30回:6月10日(火)15:00開始:片渕 竜也(東京科学大学)
第31回:6月26日(木)10:30開始:藤本 裕輔(会津大学)
第32回:11月21日(金)14:00開始:佐藤 寿紀(明治大学)
第33回:2月19日(木)13:30開始:平居 悠(東北公益文科大学)
第32回:2026年2月19日(木)13:30開始 (Zoom)
講演者:平居 悠(東北公益分科大学)
タイトル:「(TBA)」
発表スライド(PDFファイル)
概要:(TBA)
第32回:2025年11月21日(金)14:00開始 (Zoom)
講演者:佐藤 寿紀(明治大学)
タイトル:「超新星残骸のX線観測を使った大質量星最期の元素合成過程の検証」
発表スライド(PDFファイル)
概要:大質量星の内部では、連続的にさまざまな原子核反応が進行し、複雑な内部進化が起こっている。しかし、観測によって得られる情報は星の表面に限られるため、その内部進化を直接調べることは難しい。これまで、この問題に対しては主に恒星進化シミュレーションによる理論的アプローチが用いられてきた。 本講演では、大質量星の死後に残る「超新星残骸」の元素組成を手がかりに、恒星の最期の内部構造を観測的に探る研究について議論する。特に、進化後期の炭素燃焼過程によって形成される酸素層は、超新星爆発時の爆発的元素合成の影響を比較的受けにくく、恒星進化期の情報をよく保持している。この酸素層に含まれる元素組成比(例:Ne/O、Mg/O、Si/O)は、恒星内部の対流構造や 12C(a,g)16O 反応率、さらには連星相互作用や恒星の回転など、多様な要因に影響されるものの、その観測的議論は難しかった。そこで我々は、超新星残骸中に非対称に広がる爆発噴出物の空間分布に着目し、その中から酸素層由来の元素組成を抽出・分析することで、恒星最期の内部進化を観測的に明らかにすることを目指してきた。近年の我々の研究を紹介しながら、現在活躍中のXRISM 衛星によるX線精密分光によって見えはじめる希少元素がどのように恒星内部や超新星爆発における元素合成過程の理解を助けるかも議論したい。
第31回:2025年6月26日(木)10:30開始 (Zoom)
講演者:藤本 裕輔(会津大学)
タイトル:「短寿命放射性核種と銀河シミュレーションで探る太陽系の形成環境」
発表スライド(PDFファイル)
概要:太陽系の誕生環境を理解するための有力な手がかりのひとつが、初期太陽系に存在した短寿命放射性核種(Short-Lived Radionuclides, SLRs)である。これらの核種は半減期が数百万年程度と短く、すでに崩壊して地球上には残っていないが、隕石中の同位体比分析から存在が確認されている。特に 26Al、60Fe、10Be などは太陽系形成の初期段階に存在し、一部は微惑星の加熱源として機能した。本研究では、隕石同位体データの解析に加え、銀河スケールの流体力学シミュレーションを用いることで、これらSLRsの起源と太陽系の形成場所を検討した。まず隕石分析では、SLRsが太陽系ガス全体に一様に存在していたこと(homogeneity)を示す初期同位体比が、多数のCAI(カルシウム・アルミニウム包有物)から得られている。これに対し、SLRsが後から注入されたとする「注入説」や、太陽高エネルギー粒子(SEP)による「照射説」は、10Beや26Alに対しては空間的不均質を予測するが、観測とは一致しない。特に照射説に基づく数値モデルは、観測値から有意に逸脱しており、SLRsの生成源としては困難であると示唆される。一方、銀河シミュレーションを通じて、26Alや60Feが大質量星の星風・超新星によって渦状腕の高SFR(星形成率)領域に広範に存在する様子が再現された。さらに、10Beの空間分布も、現在の太陽系周辺の銀河宇宙線(GCR)量では太陽系の初期同位体比を説明できないが、太陽系が銀河の高SFR領域(渦状腕など)で形成されたと仮定することで整合的に説明できる。また、太陽系は当初銀河中心側にあり、のちに外側へ移動したとする「動径移動シナリオ(radial migration)」とも整合する。以上の結果は、太陽系に存在したSLRsの起源として「分子雲からの継承(inheritance)」がもっとも整合的であり、太陽系は銀河渦状腕のような星形成活動の盛んな領域で形成されたことを強く示唆している。
第30回:2025年6月10日(火)15:00開始 (Zoom)
講演者:片渕 竜也(東京科学大学)
タイトル:「東京科学大学における中性子核データ測定」
発表スライド(PDFファイル)
概要:本発表では、宇宙の元素合成研究に不可欠な中性子核データ、特に中性子捕獲断面積の測定に関する、東京科学大学(旧東京工業大学)での取り組みを報告する。宇宙における鉄より重い様々な元素は、s過程やr過程と呼ばれる中性子捕獲反応によって生成されると考えられている。これらの元素合成過程を詳細に理解するには、反応に関わる原子核の中性子捕獲断面積データが必須である。
東京科学大学では、主に学内のペレトロン加速器を用いた中性子核データ測定を精力的に行っている。この加速器はターミナル電圧最大3 MVでp, d, αなどのイオンを加速でき、リチウム標的への陽子ビーム照射による7Li(p,n)7Be反応を用いて、数keVから数百keVの中性子を発生させている。中性子捕獲断面積の測定手法としては、中性子のエネルギー依存性を測定できる飛行時間法(TOF法)と、低バックグラウンドで微量試料の測定も可能な放射化法の二つを主に用いている。TOF法では即発ガンマ線を、放射化法では中性子照射後の残留核の崩壊ガンマ線を測定する。また、J-PARC(大強度陽子加速器施設)の中性子核データ測定用ビームラインANNRIを利用した実験も実施している。J-PARCでは飛行時間法を用いてmeVからkeV領域までの広いエネルギー範囲について中性子核データを測定している。
これまで、s過程の中性子魔法数N=82近傍核種(142Nd, 141Pr, 140Ce, 139La, 138Ba)やN=50近傍核種(88Sr, 89Y)、そしてr過程に関連する宇宙核時計として重要な185Reなど、様々な核種の中性子捕獲断面積測定を進めてきた。発表では、東京科学大学における中性子核データ測定の実験手法とこれまでに得られた研究成果について紹介する。
第29回:2025年5月7日(水)15:00 開始(Zoom)
講演者:木戸 英治(東大・宇宙線研)
タイトル:「超高エネルギー宇宙線原子核組成測定の進展」
発表スライド(PDFファイル)
概要:超高エネルギー宇宙線の起源は、現在も未解明の謎の一つである。その解明を目的として、テレスコープアレイ実験や、ピエールオージェ実験など、大規模な観測が進められている。超高エネルギー宇宙線は、エネルギーが高くなるにつれて伝播距離が短くなり、磁場による偏向角が小さくなるという特徴を持つ。このため、高エネルギー宇宙線の起源は比較的近傍に限定され、到来方向と宇宙線源の方向の対応関係が明瞭になることが期待される。一方で、宇宙線を構成する原子核種によってその伝播特性は大きく異なる。具体的には、伝播距離は質量数に依存して長くなり、偏向角は電荷に依存して大きくなる。このため、宇宙線の原子核組成の情報は、起源を特定する上で極めて重要である。ピエールオージェ実験においては、2 EeV以上の高エネルギー領域において、エネルギーが増加するにつれて原子核組成がより重くなる傾向が観測されている。この観測結果は、希少な高エネルギー宇宙線において原子核種の同定がますます重要になっていることを示唆している。このような背景から、近年では従来の大気蛍光望遠鏡に加え、稼働率の高い地表検出器や電波検出器を用いた、原子核組成感度の向上を目的とする研究が活発に行われている。本セミナーでは、超高エネルギー宇宙線における原子核組成観測の現状と今後の展望について概観する。その上で、私達が取り組むデータ解析の二つのアプローチを紹介する。第一に、単一宇宙線源に起因する到来方向パターンの探索、第二に、鉄よりも重い原子核成分の存在を探る解析である。これらの解析結果の現状を報告し、今後の課題と展望について議論する。
2025年3月6日(金)15:00 開始(Zoom)
講演者:住吉 光介(理化学研究所)
タイトル:「ニュートリノ・核物理で探る超新星と高密度天体誕生」
発表スライド(PDFファイル)
概要:超新星爆発は重い星の最期に起こる重力崩壊による華々しい天体現象であり、中性子星やブラックホールの誕生にもつながる。この現象では高温高密度物質やニュートリノが天体ダイナミクスにおいて重要な役割を果たしている。本講演ではニュートリノ・原子核の物理過程の観点から超新星爆発メカニズム、高密度天体の誕生、ニュートリノ放出における現状の理解と課題についてお話ししたい。
2025年1月17日(金)13:30 開始(Zoom)
講演者:三原 建弘(理化学研究所)
タイトル:「MAXI新星の発見、中性子星新星の現れ方」
発表スライド(PDFファイル)
概要:全天X線監視装置MAXIは、2009年8月以来、全天モニタを続けている。15年で36個のX線新星を発見した。そのうち17個は中性子星連星であった。うち4個はX線連星パルサーで、残り13個は、いわゆる低質量X線連星(NS-LMXB)である。NS-LMXBは、中性子星と恒星の近接連星系で、多くは晩期型の恒星がロッシュローブを満たし、L1点から恒星大気がNS側へと流入する。流入ガスはNSに対し角運動量を持っているので、NSの周りを回転し、降着円盤を形成する。降着円盤はただケプラー回転しているだけでは安定で、何も起こらない。ガス密度が増えるとある時、ガスの差動回転とダイナモによる磁場により内から外へ角運動量の移送が行われるようになり、円盤は不安定になり、ガスはどさっとNSへ落ち始める。そして、重力エネルギーの開放で熱せられX線を発するようになる。我々はこれをX線新星として観測する。この降着サイクルは、星により長短で、長いものは100年以上である。つまり、X線天文学60年の歴史では、前例がない、初、となり、新星として、発見装置の名前が付けられる。この出現だが、このように降着で輝き始めるものもあるが、MAXIなどが観測してくるとそうはないものもでてきた。2012年12月25日にX線バーストを起こしたGRB121225A (GRBを冠してMAXIは報告したがGRBではなかった)、その後、降着活動を始めSwift J1741.5−6548として再発見された(Negoro 2016)。スーパーバーストが発見された球状星団Terzan 5 中のEXO 1745-248では、5日後に降着活動が始まった(Serino 2012)。2024年11月に発見されたスーパーバーストMAXI J1752-457は、8月に、EP240809Aとして、暗い降着活動が発見されていた。これらの例を紹介する。元素合成に関しては、X線バーストで重元素が合成されても、NSの重力が強いためX線バーストではNS外に放出されることはない。また、MAXIが見ているNS-X線連星は、伴星が低質量恒星であるがゆえにNS-NS連星のプロジェニターにはなりえない。つまり宇宙の元素汚染はできないことは付記しておく。
2024年12月16日(月)10:30 開始(Zoom)
講演者:茂山 俊和(東京大学・RESCEU)
タイトル:「大質量星からの大規模質量放出機構の解明に向けて」
発表スライド(PDFファイル)
概要:最近の超新星発見を目的とする観測は,多くの銀河を数日に一度広視野望遠鏡でモニターすることで行われている。その結果,超新星爆発を起こす数年前から星の明るさが大きく変動しているものがあることがわかってきた。そのような超新星は大量の物質を周辺に持ち,爆発した星はその星周物質との衝突で光る。初期のスペクトルにはゆっくりと運動する星周物質由来の幅の細いHα輝線などのバルマー系列の輝線が見え,星周物質が衝突によって加速されることで輝線幅が増加している様子が観測されてきた。このような幅の細いHα輝線をスペクトルにもつ超新星はIIn型と分類され,その数は大質量星由来の超新星のたかだか10%を占める。私の研究室では,このような星周物質の形成機構を解明すべく,数値輻射流体計算を用いて星周物質の形成機構と星周物質の分布の関係やIIn型超新星の光度曲線やHα輝線スペクトルの形状から読み取れる情報などを議論してきた。また,大質量星の進化計算を非常に細かい時間刻みで計算することで,進化の最後の数十年で起きる炭素殻燃焼によって引き起こされる水素外層の不安定性を発見した。特に,どのような核融合反応が重要になりそうかに焦点を当てながら,これらの研究成果を紹介したい。
2024年8月28日(火)16:00 開始(Zoom)
講演者:古野 達也(大阪大学)
タイトル:「爆発環境下における元素合成」
発表スライド(PDFファイル)
概要:ビッグバンや超新星爆発といった過程で生成 された元素は、次の世代の恒星や惑星を形成する材料となる。元素合成過程を詳らかにすることは、太陽系、ひいては人類の起源を明らかにする上で必要不可欠である。 我々は爆発環境下における元素合成を解明するために原子核実験を推し進めている。12C原子核は、トリプルアルファ反応によって合成された共鳴状態 (ホイル状態)が基底状態へ崩壊することで合成される。したがって、ホイル状態の崩壊確率は12Cの合成速度を直接支配する物理量である。これまではガンマ崩壊のみが考慮されてきた。しかし、超新星爆発の高密度環境下では、背景中性子との発熱散乱によって基底状態への崩壊が数十倍も増大されることが近年指摘されている [1]。我々は中性子とホイル状態の散乱断面積を決定するために、MAIKo+アクティブ標的 [2]と東北大学CYRICにおける準単色中性子ビームを用いた測定を来年初めに計画している。本セミナーでは12C原子核合成に関する近年の研究を議論しつつ、MAIKo+を用いたテスト実験や今後の見通しを紹介する。更に、近年新たなプロジェクトとしてX線バーストにおける重要な原子核反応59Cu+p反応に関わる共鳴状態の探索を始動した。RCNPで行った測定の解析結果も紹介したい。
[1] M. Beard et al., PRL 119, 112701 (2017).
[2] T. Furuno et al., NIMA 908, 215 (2018).
2024年7月9日(火)17:00 開始(Zoom)
講演者:藤林 翔(東北大学)
タイトル:「Mass ejection and nucleosynthesis in binary neutron star mergers: dependence on binary mass ratio and lifetime of remnant neutron star」
発表スライド(PDFファイル)
概要:We investigated the properties of ejecta in dynamical and post-merger phases of binary neutron star mergers for a various binary mass ratio and neutron star equations of state. The dynamical mass ejection is investigated in three-dimensional simulations. The post-merger mass ejection is then explored in two-dimensional axisymmetric simulations with viscosity using the three-dimensional post-merger systems as the initial conditions. In this talk, I will present the current understanding of the mass ejection and nucleosynthesis from binary neutron star mergers based on recent numerical simulations.
2024年7月2日(火)13:00 開始(Zoom)
講演者:江幡 修一郎(埼玉大学)
タイトル:「原子核物質の状態方程式への機械学習アプローチ ~ ガウス過程回帰を用いて ~」
発表スライド(PDFファイル)
概要:機械学習を用いた物理現象への手法開発が試みられている。 中性子星を対象にした核物質の状態方程式(EoS)の研究に、機械学習の手法であるディープニューラルネットワークが利用され、これまでの実観測データから最も可能性が高いEoSが推定されています。本講演では、別の機械学習の方法であるガウス過程回帰を用いてEoS研究にアプローチする方法を説明します。 機械学習の手法を分析し、統計的な処理に"物理"を載せる方法の可能性を提示します。 また実際に簡単な系でその可能性について紹介します。
2024年5月23日(木)16:30開始(Zoom)
講演者:高橋 亘(国立天文台)
タイトル:「Large-scale magnetic fields embedded inside stars」
発表スライド(PDFファイル)
2024年2月5日(月)13:30開始(Zoom)
講演者:吉田 賢市(大阪大学RCNP)
タイトル:Nuclear Energy-Density Functional Approach to Bridging Neutron-Rich Nuclei and Neutron Stars
発表スライド(PDFファイル)
概要:Understanding the properties of neutron-rich nuclei has been a central subject in low-energy nuclear physics. The great interest lies not only in the pursuit of a variety of structures and the elucidation of the mechanisms of their occurrence but also in obtaining insights into the structure of the inner crust of neutron stars. With advances in neutron-star observation techniques, the structure of neutron stars has been becoming better understood. The data accumulated from these observations unveil properties of neutron-rich matter that are otherwise inaccessible through terrestrial experiments.
In this talk, I will introduce an attempt to construct a nuclear energy-density functional (EDF) inspired by the observations and then demonstrate its applicability to nuclear structure problems, including mass and deformation. One intriguing aspect of neutron stars is the emergence of superfluidity, especially the occurrence of spin-triplet pairing. I will discuss the unconventional pairing in nuclei within the nuclear EDF framework and give perspectives on the study of the phase diagram of the superfluidity in neutron stars.
2022年10月28日(金)17:00開始(Zoom)
講演者:奈良 寧(国際教養大学)
タイトル:「高エネルギー核反応のシミュレーション」
発表スライド(PDFファイル)
概要:重イオン衝突実験、宇宙線の空気シャワーなど様々な分野において、高エネルギー原子核衝突の反応機構の理解が必要とされています。このために、系の時空発展を記述する微視的輸送模型を基に、衝突の全過程をシミュレートするイベントジェネレータが用いられてきました。本講演では、最近の原子核衝突を扱う微視的輸送理論の発展を解説し、高エネルギー原子核衝突のためのイベントジェネレータとして、最新のJAM2 ( https://gitlab.com/transportmodel/jam2.git ) について紹介します。
2022年7月6日(水)17:00開始(Zoom)
講演者:青木 和光(国立天文台)
タイトル:「TMTのサイエンスと計画の進捗」
発表スライド(PDFファイル)
概要:30メートル光赤外線望遠鏡TMT計画は、日本を含む5カ国協力で進められており、これにより従来の望遠鏡に比べ解像度で3倍以上、点光源については感度で100倍以上の観測が可能となります。これは太陽系外惑星の直接撮像や分光観測による大気組成の研究、遠方銀河に初代星の光を探る研究で飛躍をもたらすとともに、重力波・ニュートリノの検出に引き続く電磁波天体の同定や重元素合成の解明、銀河系・近傍銀河の化学進化の研究を進め、宇宙核物理にも大きく貢献すると期待できます。計画では、建設地ハワイでの地元との協議が課題となっておりますが、昨年来、地元での対話やハワイ州としての取り組みに大きな進展があります。また、米国コミュニティでの検討をとりまとめたAstro2020でも高い評価を受け、米国NSFの正式参加に向けた動きも進んでいます。今後の見通しを含めて、計画の進捗をご紹介します。
2022年12月2日(金)10:00開始(Zoom)
講演者:関口 雄一郎(東邦大学)
タイトル:「rプロセス元素の起源と連星中性子星合体」
発表スライド(PDFファイル)
概要:2017年8月に観測された、史上初の中性子星合体からの重力波イベントGW170817の光学追観測において、rプロセスで生成される中性子過剰核の崩壊熱を起源とする突発的天体現象(キロノバ:kilonova)が同定され、rプロセス元素の起源天体が少なくともその一部において連星中性子星合体であることが明らかとなった。しかしながら、連星中性子星合体に付随するキロノバが観測されたのはこの一例のみであり、太陽系のrプロセス組成との整合性など、将来の観測で明らかにしていかなければならない点も残されている。本発表では、rプロセス元素の起源と連星中性子星合体の関連について、理論サイドから行っている我々の最近の研究成果について紹介する。
2023年1月13日(金)13:30開始(Zoom)
講演者:河野 俊彦(ロスアラモス国立研究所)
タイトル:「Recent advances in compound nuclear reaction theory and its applications」
発表スライド(PDFファイル)
概要:Despite its rather old-fashioned appearance, the statistical theory for a compound nuclear reaction still plays an important role in calculating nucleon-nucleus interaction in the keV to MeV energy region, and indeed improvement for better predictive capabilities is one of the active research areas. In this talk we present a few topics regarding the recent progress in the statistical nuclear reaction theory, which consists of the unification of the coupled-channels formalism and the Hauser-Feshbach theory, inclusion of the nuclear structure ingredients, and some applications to the post-fission and beta-delayed observable calculations. (LA-UR-22-32058)
RIBFセミナー(理化学研究所・仁科加速器科学研究センター)との共催
2023年1月31日(火)17:00開始(Zoom)
講演者:民井 淳(大阪大学RCNP)
タイトル:「Photo-nuclear reactions below a mass of A = 60」
発表スライド(PDFファイル)
概要:Photo-nuclear reactions of light nuclei below a mass of A = 60 are planned to be studied under the PANDORA (Photo-Absorption of Nuclei and Decay Observation for Reactions in Astrophysics) project. Two experimental methods, virtual-photon excitation by proton scattering and real photo-absorption by a high-brilliance gamma-ray beam produced by laser Compton scattering, will be applied to measure the photo-absorption cross sections and the decay branching ratio of each decay channel as a function of the photon energy. The primary motivation of the project is to describe the inter-galactic propagation of ultra-high-energy cosmic-ray (UHECR) nuclei. I plan to introduce the experimental technique of virtual-photon excitation by proton scattering, a few achievements at RCNP, and an overview of the PANDORA project in relation to the physics of UHECRs.
2023年2月17日(金)17:00開始(Zoom)
講演者:横山 哲也(東京工業大学)
タイトル:「小惑星リュウグウ帰還試料にみられる核合成起源同位体異常」」
発表スライド(PDFファイル)
概要:JAXAの探査機「はやぶさ2」は、水と有機物を含むC型小惑星「リュウグウ」に着陸・試料採取することを目的とし、2014年に打ち上げられた。2019年に2回の着陸と試料採取を行い、2020年末、想定を上回る5.4グラムもの試料を地球に送り届けた。発表者の横山はリュウグウ試料初期分析Chemistry Teamの副リーダーとして湿式化学分析を統括し、元素存在度および同位体分析を行ってきた。分析の結果、リュウグウにはCr, Ti, Znなどに関して原子核合成に由来する同位体異常が見つかった。本セミナーでは、特に同位体異常の結果を中心に発表し、初期分析から得られたリュウグウ試料の起源について、概説する。
2023年4月27日(木)17:00開始(Zoom)
講演者:大内 正己(国立天文台/東京大学)
タイトル:「宇宙の化学進化ービッグバン元素合成から重元素合成まで」
発表スライド(PDFファイル)
概要:138億年の宇宙の歴史において、宇宙における元素は、熱いビッグバンで軽元素が合成され、その後に形成された星の中における核融合で重元素の大半が合成されたと考えられている。軽元素合成はビッグバン宇宙論を支える3つの観測証拠のうちの1つとなっているが、測定精度が十分に高くないため、熱いビッグバンにおける素粒子の性質を深く理解するまでには至っていない。さらに、その後の恒星内部の核融合による重元素合成に至っては、どの時代にどのような元素が作られてきたかについては明らかにされておらず、銀河における恒星と元素組成進化は未解明である。本発表では、最初に分野外の方向けに、銀河の中の元素組成をどのように測定および推定するかについて解説する。その上で、ビッグバンによる軽元素組成のうち大きな課題として残されているヘリウム組成の探索の最新状況について紹介する。その後、最新のジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって徐々に明らかになってきた宇宙の初期の重元素合成の統計的性質について説明し、残された課題について議論したい。
HDSセミナー(国立天文台)との共催
2023年5月30日(火)17:00開始(Zoom)
講演者:富樫 甫(大邱大学)
タイトル:「核物質状態方程式の現状と残された課題」
発表スライド(PDFファイル)
概要:核物質の状態方程式は、原子核の大局的な性質を支配するとともに、超新星爆発や中性子星などの高密度天体の研究においても重要な役割を演じる。ただし、中性子星の中心部は通常の原子核密度の数倍以上にも及ぶ極限状態であるため、原子核の地上実験からその状態方程式を決定することは難しい。そのため、原子核・ハドロン物理に基づく様々な理論計算によって、これまで多岐にわたる中性子星状態方程式が提案されてきた。さらに近年では、低エネルギー原子核実験の進展と重力波やNICERなどによる中性子星観測により、実験と観測の両面から、状態方程式に対して厳しい制限を与えられつつある。このような現状を踏まえ、本講演では、近年の中性子星状態方程式に対する研究の進展と残された課題を紹介する。特に、原子核物理の基本となる核力から出発した微視的多体理論に基づく核物質状態方程式を主軸に議論を行い、静的な中性子星構造だけでなく、重力崩壊型超新星爆発等の動的な高密度天体現象における状態方程式の影響についても紹介したい。
2023年6月19日(月)17:00開始(Zoom)
講演者:小野 勝臣(ASIAA)
タイトル:「超新星爆発から超新星残骸までの3次元流体数値計算で探る爆発メカニズム、親星、中性子星の性質と分子形成」
発表スライド(PDFファイル)
概要:近傍の超新星残骸、例えば超新星1987A (SN 1987A) は爆発から30年余り経ち、放出物質の中心部が種々の観測によって空間的に解像されるようになった。一例として、ALMA の SN 1987A の放出物質の観測から CO, SiO 分子からの回転遷移線の3次元的空間分布が捉えられ、非球対称で複雑な構造を持つことが分かった。ALMA の追観測によるダスト放射からは、未発見である SN 1987A の中性子星 (NS 1987A) によって温められたと考えられる blob の存在も確認された。加えて、つい最近の JWST による観測から SN 1987A の鉄輝線 [Fe I] でトレースされた放出物質が非対称な双極子様な形状を持つことも確認された。これら放出物質の非球対称な空間分布は、爆発メカニズムが何であったかを知る手掛かりとなり得ると考えられるが、超新星残骸へと進化する過程では流体不安定性などによる物質混合の影響も考えられる。この様な空間的に解像された超新星残骸の観測から、爆発メカニズやその他、親星や中性子星の性質と関連づけて議論するには、爆発から超新星残骸までの3次元流体数値計算による現実的な理論モデルが不可欠である。これらを背景として、講演者らは SN 1987A および超新星残骸 Cassiopeia A (Cas A) を対象として、3次元流体数値計算を行ってきた。本講演では、これまでに SN 1987A と Cas A について得られたいくつかの成果を紹介する。例えば、SN 1987A の親星が伴星進化によって形成された可能性が高いこと、3次元モデルを利用したX線観測のスペクトルフィットから、NS 1987A が非熱的放射をしている可能性が高いことなどが分かった。また、 上記の ALMA による分子観測にも動機付けられ、超新星爆発の放出物質中で起こる分子形成、特にその物質混合に対する影響を調べた。その結果の一部を紹介する。
2023年7月21日(金)17:00開始(Zoom)
講演者:郡司 卓(東京大学)
タイトル:「高エネルギー原子核衝突によるクォーク・グルーオンプラズマ研究の最前線と今後」
発表スライド(PDFファイル)
概要:高エネルギー原子核衝突によってクォーク・グルーオンプラズマを生成し、その性質と時空発展を理解することは、クォークの閉じ込めやカイラル対称性の回復などQCDがもつ非摂動領域における基本的な性質のみならず、宇宙開闢後の初期宇宙における物質の創成、とくにハドロン生成機構やその後の軽元素合成過程や、中性子星内部の高密度物質の理解に重要である。また、高エネルギー原子核衝突におけるクォーク・グルーオンプラズマの熱化や流体化の問題は、インフレーション直後の宇宙の再熱化とも深く関連する。さらに、クォーク・グルーオンプラズマの時空発展を記述する相対論的流体計算や、例えば、ジェットとクォーク・グルーオンプラズマの相互作用による共進化の記述は、超新星爆発の計算にも重要と考えられている。このように、クォーク・グルーオンプラズマの研究は、宇核連・宇宙核物理と非常に大きな共通性がある。このセミナーでは、高エネルギー原子核衝突にて研究されてきたクォーク・グルーオンプラズマに関する現状の理解と課題をまとめ高エネルギー原子核衝突の物理に関する将来を展望する。そして、個人的には、宇核連・宇宙核物理分野との今後の連携を深める契機にしたい。
2023年7月27日(木)10:30開始(Zoom)
講演者:西尾 勝久(日本原子力開発研究機構)
タイトル:「JAEAタンデム加速器での研究と将来計画」
発表スライド(PDFファイル)
概要:JAEAタンデム加速器施設は、高濃縮ウランやプルトニウムなど、様々な核燃料やRI標的を重イオン照射できる世界的にもユニークな実験施設である。また、反跳生成核分離装置やオンライン同位体分離装置など特徴ある実験装置を有している。セミナーではタンデム加速器で得られた核分裂などいくつかの成果を紹介する。また、天体核反応の実験も進めており、s-プロセスやrp-プロセスの理解に資する実験を計画している。原子力機構は、タンデム加速器の後継機となる超伝導線形加速器の構築を目指しており、文科省ロードマップ2023を提出した。この計画についても紹介する。
2023年9月14日(木)16:00開始(Zoom)
講演者:関澤 一之(東京工業大学)
タイトル:「中性子星クラスト物質の微視的記述:最近の進展」
発表スライド(PDFファイル)
概要:密度汎関数法(Density Functional Theory: DFT)は,核図表の全領域にわたる原子核の構造から核物質の性質に至るまでの微視的かつ統一的な記述を与える,強力な枠組みである.その時間依存拡張版である時間依存密度汎関数法(Time-Dependent DFT: TDDFT)は,原子核の励起・応答・反応など,様々な原子核ダイナミクスの記述に用いられてきた.最近では,中性子星内殻の核物質や超流動中性子の量子渦のダイナミクスの記述にも応用されている.中性子星内殻は,中性子過剰な原子核のクーロン格子が超流動中性子の海に浸されているような状況にあり,固体物理学と密接に関係する.固体物理学の分野では,結晶構造中の電子状態に見られるバンド構造が千差万別の物性を特徴付けることがよく知られているが,(TD)DFTに基づく完全自己無撞着な中性子星内殻のバンド理論計算が実現されたのは,実はつい最近のことである.本セミナーでは,TDDFTに基づく中性子星内殻の微視的記述,特に超流動ダイナミクスやバンド構造効果に焦点を当て,最近の進展を紹介したい.
2023年10月18日(水)14:30開始(Zoom)
講演者:久徳 浩太郎(京都大学)
タイトル:「Toward inferring the equation of state from gravitational-wave astronomy」
発表スライド(PDFファイル)
概要:The property of supranuclear-density matter is an important question to be answered in QCD. One promising avenue is to study neutron stars with astronomical observations. For this purpose, gravitational waves have become an important tool after GW170817 that delivered information about the matter at a few times the saturation density. If future detectors improve the sensitivity at high frequency, we may be able to investigate the phase structure at further higher density via observations of postmerger gravitational waves or the absence thereof. In this talk, I will review the current understanding of the neutron-star equation of state and then discuss possible future directions based on our binary merger simulations.
理研 iTHEMS(GW-EOSワーキンググループ)との共催。
2023年11月10日(金)15:00開始(Zoom)
講演者:Thomas Rauscher (University of Basel)
タイトル:「The Molybdenum Puzzle」
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概要:The creation of the chemical elements in various astrophysical sites is reviewed by example of the element Molybdenum. Its stable isotopes originate from different nucleosynthesis processes, which are not known equally well. Especially the explanation of the origin of the light Mo isotopes proves difficult. To fully understand the abundance of Mo on Earth and in stars it is necessary to combine many puzzle pieces, comprising astrophysical simulations as well as improvements in nuclear physics treatments. An overview of the nucleosynthesis processes as well as the required knowledge of nuclear reaction physics is given.
九州大学理学部物理学科、理研 iTHEMSとの共催。
2023年11月17日(金)13:30開始(Zoom)
講演者:Carla Frölich (North Carolina State University)
タイトル:「Nucleosynthesis yields (and other messengers) from core-collapse supernovae」
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概要:Core-collapse supernovae are the explosive death of massive stars. They are key drivers of the chemical enrichment of galaxies, they form compact objects in their aftermath, and they are a source of neutrinos and gravitational waves. Due to their extreme conditions, they also represent fascinating laboratories of nuclear matter at high densities. Studying the various messengers from core-collapse supernovae provides insight into workings of the explosion and the conditions deep inside the supernova. In this talk, I will present recent work on core-collapse supernovae, with a particular focus on the nucleosynthesis and the nuclear equation of state. I will show how the nuclear yields are sensitive to the progenitor star and the nuclear equation of state, and where improvements are the most needed. Additionally, I will discuss what we can learn from applying machine learning tools to a thousand supernova simulations.
IReNA、理研 ABBL-iTHEMS Seminar との共催。
2023年11月20日(月)16:00開始(Zoom)
講演者:永田 夏海(東京大学)
タイトル:「超新星・中性子星冷却を用いたアクシオン探索」
発表スライド(PDFファイル)
概要:素粒子標準模型を超える理論において,標準模型粒子ととても弱く相互作用を行う軽い新粒子の存在がしばしば予言される.なかでも,標準模型のstrong CP problemを解決するために提唱されたPeccei-Quinn機構において予言される新粒子アクシオンはその存在が非常に有望視されていて,精力的に探索されてきた.とりわけ天文観測を用いることは,アクシオン探索の非常に強力な手法であることが知られている.本講演では,Peccei-Quinn機構およびアクシオンについてはじめにレビューを行ったのちに,超新星や中性子星の冷却にアクシオンがどのような影響を与えるか解説し,これらの観測を通じたアクシオン模型への制限の現状・今後の展望を議論する.
宇核連セミナー運営委員: 石垣 美歩(国立天文台)、田中 純貴(大阪大学RCNP)、谷口 億宇(福山大学)、内藤 智也(東京大学)、森 寛治(慶應大学)、西村 信哉(工学院大学、取りまとめ)
運営委員(卒業): 石塚 知香子(東京工業大学)、磯部 忠昭(理化学研究所)、銭廣 十三(京都大学)、玉川 徹(理化学研究所)、早川 勢也(東京大学・CNS)