イントロダクション
あの子にとって「見られること」は何を意味するのだろうか?
実在する町を舞台にほぼオールロケで撮影した本作。
その土地の持つ魅力を甘美な映像で捉えながら、主演の三人をまるでその町で実際に生活する十代かのように映し出し、自分の思いを口に出せず孤独にもがく不器用な年頃の複雑な心情を細やかに表現。
最低限まで削られたセリフがその繊細な心の機微を際立たせている。
またその一方で、視線を受ける側と送る側の相互理解の難しさに切り込んだ内容は、その先にあるかすかな希望を映し出し、現代社会において視線を受ける人々に対する周囲の見方が本当に正しいものであるのか、これまでになかった切り口から世の中へ問いかけている。
天狗伝説の残る不思議な林へと誘われていく主人公、結衣を演じたのはデビュー作『アイスと雨音』(松居大悟監督)で注目を集め、本作が長編映画の初主演作となった田中なつ(本作の撮影当時「田中怜子」)。
結衣の妹・佳世役を『ソワレ』(外山文治監督)や『ひらいて』(首藤凛監督)などで知られ、吉田監督のデビュー作『ひとひら』から続けての出演となった芋生悠(本作では題字も担当)。
姉妹を見守る少年・進役を、本作が長編映画デビュー作となり、のちに『裸足で鳴らしてみせろ』(工藤梨穂監督)で初主演を務めた諏訪珠理が演じた。
監督は初監督作『ひとひら』で、The 5th Asia University Film Festival 審査員特別賞受賞、そのほか多数映画祭受賞の実績を残した吉田奈津美。神秘的な林と、閉塞的な田舎の町で生きる二人の姉妹、そして二人を見守る少年。それぞれが抱えている葛藤や苦しみを、丁寧に見つめる眼差しはスクリーンへと反映され、観客を魅了している。
あらすじ
かつて、木々が鬱蒼と生茂る大きな森に囲まれていた町。
そこには古くから伝わる天狗の神隠し伝説があった。
主人公の結衣は、町に残る最後の林が伐採されることをきっかけに、
十一年前、神聖な森だったその林で年子の妹である佳世が神隠しにあっていたことを思い出す。
「あの日、佳世の隣には私もいたのに、自分は選んでもらえなかった」
風に揺れる木々に誘われるかの様に、伐採前の林へと足を踏み入れていく結衣。
一方姉妹と幼馴染みの進は、そんな結衣の行動に苛立ちを見せるのだった。
キャスト
田中なつ、芋生悠、諏訪珠理
三坂知絵子、中原潤、小野孝弘、新津ちせ、竹下かおり、手嶋啓子、山岡竜弘、稀、高畑保弘
スタッフ
監督・脚本・編集:吉田奈津美 撮影:杉山綾 照明:林大智 録音:小川賢人、道上哲弘
助監督:森雄大、町田梨華、羽蚋拓未、甲斐力哉 スチール・ポスターデザイン:山田涼香
配給・宣伝:MOEWE
2021年/日本/85分/DCP/カラー/アメリカンビスタ