- 森林利用学
森林利用学は林業工学とも呼ばれており、森林の木を伐採して運び出すという造林や育林に続く林業の最終ステージを主として研究する分野です。最近はこの分野で森林バイオマスのエネルギー利用に関する研究も盛んに行われるようになってきました。なぜ木を伐採して運び出す研究分野が存在しているのかというと、大きくて重い木を人間が利用するために山から運び出すことは非常に危険で難しい作業だからです。このような作業をいかに効率よく安全に行うかを研究するのが森林利用学です。森林利用学の中にもいろいろな領域があり、林道、林業機械、森林作業、労働科学と森林バイオマスといった分野に細分化されています。日本では人間が木材を利用するために作った人工林が利用されていないことが問題になっていますが、世界的に見れば森林の過剰伐採によって貴重な熱帯林が破壊されるといった問題が起こっています。このような人間による森林の伐採と自然環境の保全をいかに両立させて森林の持続的利用を実現するかが大きな課題になっています。
林業は中山間地域の主要な社会経済基盤であり、木材供給のみならず二酸化炭素の吸収やバイオマス資源の供給面でも社会に貢献しています。しかし、住宅需要や木材価格の低下により我が国の林業は長期にわたって低迷を続けており、それによって間伐などの手入れが行き届かなくなった森林が増えて水源林としての機能低下にもつながっています。 このような状況を脱却するには「低い林業の収益性→山村の過疎化→未間伐放置林の増加→人工林の形質・環境の悪化→低い林業の収益性」という悪循環を、「林業の収益性向上→山村の活性化→間伐など森林管理の推進→人工林の形質・環境の改善→林業の収益性の向上」という好循環へ変化させることが必要だと考えています。つまり、林業の収益性を向上することが放置人工林の問題解決 や我が国の荒廃した森林環境の回復にもつながります。
この問題を模式図で示したのが図-1です。問題の根源である「低い林業の生産性」というレバレッジポイント(「てこ」の作用のように、一点を強化すれば全体の大きなパワーアップにつながるようなポイント)をてこ入れすることで、現在の山村が抱えている悪循環が好循環に変わることを示しています。林業の収益性の向上は林業の生産性の向上によって実現されるものであり、新たな集材作業システムの開発・導入によって生産性を向上させることが問題解決の鍵になると考えています。オーストリアでは日本と同じような地形条件にもかかわらず、図-2のようなプロセッサ一体型タワーヤーダ を用いることで高い生産性を実現していますが、これは世界最低レベルにある日本林業の生産性を改善するためのお手本になるものです。 林業先進国オーストリアに負けないよう日本の架線系集材の生産性を高める新たな生産システムの開発を行い、米国MITで開発されたシステムダイナミクスモデルを用いたシミュレーション(図-3)により生産性の評価を行っています。