現在の研究テーマ
(1)DNA脱メチル化に着目した、エピジェネティックな機構と植物ゲノムの共進化
(2)交配によるゲノム・ショックとエピアレルの生成
(3)アブラナ科植物ハタザオの新規ゲノム解析
(4)サンショウ属樹木のトランスクリプトームと分子進化的研究
大学Webページでの紹介(一般向け)
「よそ者」を受け入れるか抑制するか。植物ゲノムの進化の秘密に迫る
※ Yoshida et al. (2019) Sci. Rep. 9:2060 についての紹介記事です。
これまでの研究テーマ
平成23年度〜現在: ゲノムインプリンティングの進化
エピジェネティックな機構は遺伝子やゲノムの進化に多大な影響を及ぼしていると予想されるが、その実態はほとんど解明されていない。ゲノムインプリンティングは、特定の遺伝子座において、父親か母親のどちらか一方から由来した対立遺伝子のみが発現する現象である。シロイヌナズナおよびその近縁種を用いたこれまでの研究から、ゲノムインプリンティング、その制御を受ける遺伝子の重複数、および遺伝子の分子進化速度の三者の間に正の相関関係があることをみいだした。この結果から、遺伝子重複を中心としたゲノムインプリンティングの新しい進化モデルが示唆された。またアブラナ科栽培植物Brassica rapaを用いて、系統間の交配実験と大規模シークエンスを用いたインプリント遺伝子の網羅的解析をおこなった。胚乳でのRNA-Seq解析からインプリント候補遺伝子を検出し、分子進化的に解析した。
平成24年度〜現在: エピジェネティックな機構による植物のゲノム防御機構
真核生物のオルガネラは、共生関係の成立過程において、多くの遺伝子が核ゲノムへと移行したことが知られている。このようなオルガネラDNA断片の移行は、共生の成立過程にとどまらず現在でも継続的に起きていることが明らかにされている。核ゲノムに存在するオルガネラ様DNA配列をNUPT及びNUMT (Nucleotide Plastid/Mitochondrial DNA) という。核ゲノムに存在するオルガネラ様配列の量や移行領域の一般的な傾向を明らかにするために、核と葉緑体両方のゲノム情報が利用可能な17の植物種において、核内のNUPTの存在様式を解析した。また、最近に核ゲノムに移行したDNA断片はシトシンからチミン、グアニンからアデニンへの塩基置換が多く起こることがシロイヌナズナとイネの移行断片の解析から知られている。このようなバイアスは、移行DNA配列の高DNAメチル化と脱アミノ化反応により生じると考えられ、オルガネラ様配列に対してエピジェネティックな修飾機構が作用していることが示唆される。私は、植物17種のゲノム情報や、シロイヌナズナとイネのメチローム情報を用いて、DNAメチル化の影響を解析した。また、エピジェネティックな修飾機構に関与する遺伝子変異体のメチローム情報を解析し、オルガネラ様配列のメチル化に関与している原因遺伝子を推定した。これらの結果から、オルガネラ様配列を外来DNAとして認識し、ゲノムを防御するためにDNAメチル化する機構の存在が示唆された。
平成27年度〜現在:交配によるDNAメチル化状態の多様化
上記のオルガネラ様配列を解析する中で、特定のDNA配列のDNAメチル化レベルが異なる系統を交配すると、F1、F2集団においてその領域のDNAメチル化状態が多様化する現象がみられた。この効果について定量的に検証するため、F1、F2集団を用いたMiSeqシークエンサーによるアンプリコン・シークエンスをおこなった。その結果、特定のオルガネラ様配列においては染色体間の効果により後代のメチル化レベルが多様化することが示唆された。
平成27年度〜現在: アブラナ科植物ハタザオのゲノム進化と遺伝子の分子進化
ハタザオ(Turritis glabra)に生じたゲノム再編成が、ハタザオの遺伝子進化に与える影響を解明するため、ハタザオの全ゲノム配列決定を開始した。これまでに、PacBio ロングリードDNAシークエンシングをおこない、新規ゲノムアッセンブルをおこなった(Yoshida & Kawabe, 未発表)。
博士課程在学中の研究: 樹木の自然集団内にみられる遺伝的変異
常緑広葉樹林帯に生育する樹木カラスザンショウについて、分子集団遺伝学的な研究をおこなった。集団遺伝学や分子進化学等の進化生物学について知識や解析手法を習得した。