安定同位体分析や数理モデルを利用し、古人骨や現生霊長類の授乳・離乳パターンを明らかにして、それが繁殖戦略や人口動態にどのような影響を与えてきたかを調べてきました (Tsutaya & Yoneda 2015 Yearb Phys Anthropol)。博士課程からポスドクの初期まで中心的に取り組んできた研究です。例えば、縄文時代 (Tsutaya et al. 2016 J Archaeol Sci) や江戸時代 (Tsutaya et al. 2014 Am J Phys Anthropol; 2019 Am J Phys Anthropol) の古人骨集団の離乳パターンから当時の人口動態の一端を明らかにしました。また、現代の授乳・離乳にみられる社会問題を人類進化の視点から解き明かすような試みもしています (Tsutaya & Mizushima 2023 Yearb Biol Anthropol)。
日本オランウータン・リサーチセンターの共同研究者とともに、ボルネオ島のダナムバレイという調査地で野生のオランウータンの生態学的研究を継続しています。私自身はオランウータンの食性や子育てに興味があり、安定同位体分析の有用性を確かめる研究 (Tsutaya et al. 2022 Am J Biol Anthropol) などをこれまでに実施しています。動物園などの飼育個体を対象にした基礎的研究も行なっています (Tsutaya et al. 2017 Rapid Commun Mass Spectrom; 2021 Primates)。
また、オランウータンのほかにも、チンパンジーやボノボなどの大型類人猿についても安定同位体分析やプロテオミクスを応用した研究を実施しています。
質量分析によるタンパク質の高効率かつ網羅的な分析を、考古学、生態学、古生物学に応用しています (古代プロテオミクスなど)。現在もっとも力を入れている研究です。これまでに、ヒトと口腔内細菌の相互作用を過去にさかのぼって復元したり (Uchida-Fukuhara et al. 2024 Sci Rep)、考古学的過去の動物の死亡時点の状況を明らかにしたり (Tsutaya et al. 2019 Sci Rep) しています。また、陸上哺乳類の糞のプロテオミクスによって行動や生理状態を復元する新たな手法を開発し (Tsutaya et al. 2021 Mol Ecol Resour)、応用を進めています。
現在進行中の研究として、化石人類の進化系統の推定 (Tsutaya et al. 2025 Science)、日本列島の動物相の形成史の復元、ZooMSによる破片骨の大規模な分類群同定、現生霊長類の生活史の復元、古代環境プロテオミクスの開発などがあります。
共同研究グループ「フィールドワークとハラスメント (HiF)」の一員として、フィールドワーク研究者の遭遇する性暴力やセクシュアルハラスメントに関する実態調査を進めています。
考古学や古生物学の知見を現代の保全生態学に活かす保全古生物的な応用にも興味があります (Tsutaya et al. 2022 Quat Int)。
研究成果をわかりやすく解説したものとして、以下のようなプレスリリースや解説記事を出しています。
台湾からデニソワ人—台湾最古の人類化石はデニソワ人男性の下顎骨だった— | 総合研究大学院大学
果実をよく食べる食肉目ジャコウネコ科の4種が同じ場所で生息できる理由~同じ果実を食べても動物食性の強さが異なっていた~ | 総合研究大学院大学
古代タンパク質が明かす秘密: 歯石から読み解く過去の歯周病原因子 | 総合研究大学院大学
江戸時代の食の均質性はどのくらい? | 総合研究大学院大学
授乳・離乳の社会現象を人類進化の視点から解きほぐす | 総合研究大学院大学
魚の骨から復元する過去の漁撈活動と気候変動 | 総合研究大学院大学
ウンチは宝の山:生態学研究の新手法「糞プロテオミクス分析」 | 総合研究大学院大学
江戸時代の子育ては育児書の推奨に従っていたか?—遺跡から出土した骨の安定同位体分析でわかること— | academist Journal
仔犬の骨はおっぱいの夢を見るか?—古代プロテオミクス分析による1000年前の乳タンパク質の検出— | academist Journal
ゆりかごから墓場まで — 生物考古学が明らかにする江戸時代のあるおばあさんの一生 | academist Journal
縄文時代の離乳年齢 —離乳食の利用は離乳を早めたか?— | 京都大学