[台本]東西東西・噺屋:天犬 大火の興行 ─第九幕・椛ノ断片:死神は告げる、終焉の始まりを─
登場人物
〇死神系魔王少女アンゴル★モア
17歳、女性
大鎌を携えた紅の魔法少女。
おとなしい性格で消極的だが、正義感は人一倍強い。
今代において最強の魔法少女であり、擬似的な終焉の魔王。
本名は朱間宮 椛(あかまみや もみじ)。
〇カリオストロ伯爵/ジュゼちゃん
年齢不詳、男性
稀代の詐欺師であり錬金術師であり変装の名手であり吸血鬼……だったドッペルゲンガー。
異端である不死者でありながら、表社会でも顔が広い。
妙に傲慢で上からな印象な物言いが多いが、根はとても良いヤツで仲間に対して情に厚い。
……が、色々あってアンゴル★モアのお供的小動物(コウモリ)“ジュゼちゃん”になる。
ジュゼちゃんの語尾は「~じゅぜ!」
〇天狗・抜殻
????????歳、不問
本来の物語の黒幕。
天狗・赤星は”愛”の暴走であり、天犬 メメの母性が赤色超巨星級の存在を乗っ取った姿。
そしてこちらが第三幕等までで暗躍していた大火の生まれた里の人間たちが顕現させようとしていた“天狗様”。
もはやその力は抜け殻でしかなく、やる気も無く、ただ失敗する事実を、未来を持つ。
死神系魔王少女アンゴル★モア ♀:
カリオストロ伯爵/ジュゼちゃん ♂:
天狗・抜殻 不問:
※兼ね役は♠を追うとやりやすいかもです。
↓これより下が台本本編です。
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~厭離穢土欣求浄土・海馬~
♠ジュゼちゃん:「牢乎(ろうこ)におどさ……頼まれて受けた仕事じゅぜが……
まさかまた“これ”案件とは思わなかったじゅぜ……。」
モア:「この感じ……」
♠ジュゼちゃん:「ああ……ここは“災厄の華”の中じゅぜ!」
モア:「さっきまでただの学園の校舎内だったのに……」
♠ジュゼちゃん:「テクスチャの張り替え……いや、ここは敢えて“反転”と呼ぶべきじゅぜか。
とにかく、この学園に集まっていた熱量を利用した芸当じゅぜ。」
モア:「熱量……アタシたち風に言うならば魔力が、集まっていたって、何か曰く付きの場所なの?」
♠ジュゼちゃん:「曰く付きも曰く付きじゅぜ。
ここは、かつて世界を終わらせた人間が作った学び舎じゅぜ。
そして、罪というのは当人だけでなく、その関係者、その所有物にまで及ぶものじゅぜ。
罪には罰を。必ず災いが降り注ぐ。世界はそう出来ているじゅぜ。」
抜殻:「──だから適正だと思ったんだよ、私“たち”は。」
♠ジュゼちゃん:「──ッ!!」
モア:「人影……?実体が無い……?」
抜殻:「久しいね。カリオストロ。
……と、魔法少女か。ほう、これはこれは、今代において最も強いと噂の“死神系魔王少女アンゴル★モア”じゃないか。」
♠ジュゼちゃん:「お前は……天狗!!」
モア:「知ってるの?ジュゼちゃん。」
♠ジュゼちゃん:「じゅぜ?!あ~~~~~え~~~~~~」
抜殻:「彼には、私の悪行を手伝ってもらっていた事があったんだよ。」
モア:「……どーゆーことかな?」
♠ジュゼちゃん:「じゅ、ジュゼもむかしは……スゥーーーーーーーーーーーーー……ちょい前まではやんちゃだったってことじゅぜ……」
モア:「そういう事、一応後で話してもらうから──」
(モア、天狗様の背後を取り──)
モア:「──ねッ!!!」
(──大鎌を振りかぶる。)
抜殻:「無駄だよ。」
♠ジュゼちゃん:「避けるじゅぜ!」
モア:「ッ!!」
(モア、距離を取る。)
抜殻:「何もしやしないよ。」
モア:「攻撃した手応えがない。
やっぱり実体が無いって事かな。」
♠ジュゼちゃん:「そうじゅぜな。
モア、アイツがこの事件の黒幕じゅぜ。
決して油断してはならないじゅぜよ。」
モア:「うん。」
抜殻:「黒幕だなんて、ははは。
違う。違うとも。
いや、最初はそうだった。そうだったはずだったんだ。」
♠ジュゼちゃん:「…………お前、まさか、乗っ取られたのかじゅぜ。」
抜殻:「ご名答。
いやはや、“藍狐(あおご)”とか言う怪異にしてやられたよ。
まさか、また“天犬 メメ”に……厳密には“あれ”の悪意に満ちた愛に喰われるとは思わなんだ……。」
モア:「……?なんか要領を得ないな……」
抜殻:「無理も無い。君たちは最も外の人間だ。
私たちの事情など知る由もない。」
♠ジュゼちゃん:「……奴は、本来はこの世界形成の際にはみ出た者たちの救世主として願われ、生まれた存在だったじゅぜ。」
モア:「……救世主……。」
♠ジュゼちゃん:「請われ、生まれる筈だった存在の名は、“大火(たいが)”。或いは“赤星(あかぼし)”。
“天を支配する太陽さえも飲み込む巨大な焔で全てを浄罪せし者”。」
抜殻:「いままで八つの世界を乗り越え、全てが赦された最後の第九世界に至る為の鍵、それが私だった。
だのに、全て狂ってしまった。それは、愛故に。」
モア:「愛……?」
♠ジュゼちゃん:「奴が誕生の瞬間を、完成の瞬間を、邪魔されたのじゅぜ。
全ては“愛する息子の為に”。」
抜殻:「それまではまだ、良かった。
幸いに、あの女の子供も、私の器として適性を持ち、順調に育っていたのだから。」
モア:「……あ。ジュゼちゃん。その息子さんの事を攫おうとしたんでしょ。」
♠ジュゼちゃん:「ギクッ」
モア:「やっぱり。」
抜殻:「ああ……あの時は最高のタイミングだった……。
“概念改竄”が可能な器。“世界を騙す”術を観た眼。“世界の終わりに抗う”傍観者。
それらが揃っていた。
あの時に首尾よく行っていれば……いや、考えても無意味か……」
モア:「アタシには何が何だか分からないけれど、
貴方が黒幕では無いとしたら、一体誰がこの状況を作ってるの?
さっき言っていたアオゴ?って人?メメさんって人の愛?」
抜殻:「両方だよ。
ただし、後者は暴走してしまい、それが今の惨状なんだがね。
アオゴは、自分の母であり、タイガくんの母であるメメの“愛”を、私の中で起こしたのだ。
……正直、私自身気付いていなかったよ。自分自身の変容に。」
♠ジュゼちゃん:「……なるほど、あの時の違和感はそういう事だったじゅぜか。
ジュゼがアマイヌ タイガたちと対峙する前、お前は自分が再誕する事を考えていた……
が、対峙した後は明らかに何かが違っていたじゅぜ。」
抜殻:「流石は不死身伯爵だ。そう。その時にアオゴにしてやられた様だ。」
♠ジュゼちゃん:「そして、アオゴという怪異が途中で計画を乗っ取った。
が、結局アマイヌ タイガたちが討伐。
そして、残ったその“愛”とやらが独りでに暴走という事じゅぜか。」
モア:「滅茶苦茶だね。」
抜殻:「そう……滅茶苦茶だ……滅茶苦茶なんだ……
もう軌道修正なんて出来ない。全て水の泡。水に描いた絵。
また第一世界からやり直さないといけない……。」
間。(抜殻、雰囲気が変わる。)
抜殻:「そこに現れたのが君たち、という事だ。」
モア:「ッ!!何?!急に魔力が膨張しだした!!!」
♠ジュゼちゃん:「先ほどまで実体を保てない程に消えかかっていたのに!どういう事だじゅぜ!!」
抜殻:「……どうやら、“愛”は敗北したらしい。
故に自身の核を五つに分裂させ、“災厄の華”の各所に転移させた。
そして、そのうちの一つがここ。“厭離穢土欣求浄土(おんりえど・ごんぐじょうど)・海馬(かいば)”。
私にも戦えという事だそうだ。」
♠ジュゼちゃん:「ッ!!」
抜殻:「そして幸いにも、ここには最強の魔法少女にして、かつて今回のよりも大規模な“災厄の華”を咲かせた“死神系魔王少女アンゴル★モア”が居る。
運が巡ってきたじゃないか。」
モア:「一体何を考えているの!!」
抜殻:「決まっているじゃないか!私が君を乗っ取り、君の熱量を私の物とする!!
そして!今度こそ真に“救世主”として再誕するのさ!!!!」
(抜殻、モアに迫る。)
モア:(この速度じゃ逃げられないッ!!)
モア:「──くッ!!!」
♠カリオストロ:「『─偽装・“青の守護神(アイギス・オブ・リオ)゛─』ッ!!!」
抜殻:「何!?私を阻んだだと!!!
それに──」
♠カリオストロ:「フハハハハハハハハハッ!!!」
(土埃の中からカリオストロが現れる。)
抜殻:「カリオストロ、先ほどの間抜けな小動物の姿はどうした!」
♠カリオストロ:「僕は大天才であるが故!相手を油断させる為にあの姿をしていたのだッ!!!」
抜殻:「小癪な。」
♠カリオストロ:「大丈夫かモア!」
モア:「…………。」
♠カリオストロ:「あれ?モア?」
モア:「ぷいっ」
♠カリオストロ:「え?な、何?」
モア:「守ってくれたのはありがとうだけど、やっぱりジュゼちゃんの状態の方が良い。」
♠カリオストロ:「言っとる場合か!!
奴は今、赤色超巨星級の熱量を有している!
全力を出さねば本当にまずいぞ!!」
モア:「それも、そうかもね!
『─“死告の天秤(デス・サイズ)”─』!!」
抜殻:「二対一。分が悪いが……
それでも、私は負けられない……負けられないのだよッ!!!」
(抜殻、構える。)
抜殻:「『過去を抜錨する』ッ!!
出でよッ!!“改造されし炎の巨人の剣”!!」
モア:「巨大な、燃える剣?!」
♠カリオストロ:「ッ!!モア避けろ!!あれを防ごうなんて考えるな!!!」
抜殻:「でやぁああああああああああッ!!!!」
モア:「──ッ!!」(避ける。)
♠カリオストロ:「空間が燃えているッ!!!
なんだあれは!!!まるでマルミアドワーズじゃないか!!!!」
モア:「マルミ、何?!」
♠カリオストロ:「とにかくあの刃先に触れるな!!魂ごと焼き消されるぞ!!!!」
モア:「分かった!!
じゃあ──」
モア:「『─“判決・銃殺刑(エグゼキュシオン・ガンダウン)”─』ッ!!!」
(二挺拳銃が両手に、無数の銃弾が備えられたベルトが腰に顕現する。)
モア:「遠距離で!!はああああああああああああああああああああああッ!!!!」
(モア、弾丸を連射する。)
抜殻:「無意味だ。」
モア:「なっ!!弾丸が溶け──蒸発している?!」
抜殻:「常人であればこの剣が顕現した時点で蒸発を超え、プラズマ化している。
流石は世界さえも砕く魔法少女だ。」
モア:「それ、全っ然嬉しくないから!!」
抜殻:「私に敗れ、我が力になるが良い!!!」
(抜殻、剣を振り下ろす。)
♠カリオストロ:「『─偽装・“赤の守護神(アイギス・オブ・エリ)”─』ッ!!!」
抜殻:「何ッ!?!?」
(“改造されし炎の巨人の剣”、消失する。)
抜殻:「剣が消えた、だと!!」
♠カリオストロ:「“青の盾”は絶対防御の能力。“赤の盾”は完全停止の能力。
お前の能力を完全停止させてもらったッ!!!」
抜殻:「なんだと?!」
♠カリオストロ:「理不尽と思うか?
当然!この能力はかつて存在した魔法少女の能力!!
魔法少女の能力に道理は通じないッ!!!」
抜殻:「くぅッ!!!」
モア:「『─“死神は告げる、終焉の始まりを(デッドカウンター・スタート)”─』!!!」
抜殻:「──ッ!!!!」
モア:「『“大鎌(だいれん)”!!─“終焉の魔王(アンゴル=モア)”─ッ!!!」
抜殻:「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」
間。
(抜殻、真っ二つになる。)
モア:「ふぅー…………終わったー……」
♠カリオストロ:「そうだな。
…………ぐっ!!」
(カリオストロ、膝を着く。)
モア:「ジュゼちゃん!!」
♠カリオストロ:「流石に……あの二人の力を借りるのは……無理しすぎたか……」
モア:「……もう消えたりしないでね?」
♠カリオストロ:「当然だ、僕は君のお供ポジ、だからな……。」
モア:「……ふふ。さ、早くジュゼちゃんに戻って!」
♠カリオストロ:「……君ねぇ……。」
抜殻:「油断大敵なんじゃないか?」
モア:「きゃっ!!!!」
(モア、黒い靄にまとわりつかれる。)
♠カリオストロ:「ッ!!!モアッ!!!!!!」
抜殻:「カリオストロ、君がそうやって力尽きるのを待っていたよ……。」
♠カリオストロ:「天狗!貴様!!!
何故モアの“デッドカウンター”を受けて存在している!!!
あれはマルミアドワーズと同じ──魂さえも消滅させる一撃なのに!!!」
抜殻:「ああ。消えたよ。私の魂の八割がね。
カリオストロ。君は抜け目の無い奴だ。君を油断させるにはこれくらいしないといけないと思ってね。
ギリギリ二割、切り離してなんとか生きながらえたよ。」
♠カリオストロ:「くっ!!!くそ!!!!動け……!動け僕の身体!!!!」
抜殻:「さて、アンゴル★モア。君の身体を頂こう。」
モア:「うっ……あっ……あっ……」
♠カリオストロ:「モア!!!モア!!!!!!しっかりしろ!!!!!!!」
モア:「ジュゼ……ちゃん……あっ……アタシが……おっ……おかしくなっちゃう前に……」
抜殻:「余計なことは言わないでくれよ。」
モア:「あああああっ!!!!!」
♠カリオストロ:「モア!!!!!!!!!
『─偽装・“死告の(デス・サ)”─』──ゲホッゲホッ!!!!」(吐血する。)
抜殻:「無理はしない方が良いよカリオストロ。
君の生命が希薄になり始めている。このままでは本当に消えてしまう。」
(モア、抜殻に精神を乗っ取られる。)
モア:「『それは、私が望む事では無いからね。』」
♠カリオストロ:「も、モア……!」
モア:「『カリオストロ。私はなんだかんだ言って君を高く評価している。
どうだ?また私の下へ降らないか?』」
♠カリオストロ:「…………。」
モア:「『そうすれば、この少女とも一緒だ。
悪い話じゃないだろ?』」
間。
♠カリオストロ:「断わるッ!!」
間。
モア:「『そうか。それは残念だ。
であれば──」
モア:「『─“死告の天秤(デス・サイズ)”─』。」
♠カリオストロ:「……ッ」
モア:「『まずは君を始末するよ。』」
♠カリオストロ:「くっそぉ……!!」
モア:「『じゃあね。』」
モア:「させるわけないじゃない。」
モア:「『……なに……?』」
(モア、抜殻とも椛とも違う“誰か”が喋る。)
モア:「この子に好きな人殺しなんてさせられないわ。
だから──出てって。」
抜殻:「ぐあああああああッ!!!」
(モアから放たれる強烈な覇気と共に抜殻も外に放り出される。)
抜殻:「私の支配を脱しただと?!」
♠カリオストロ:「モア……?」
モア:「……。」
(■■、カリオストロの方を見る。)
モア:「……性格は全然似てないけれど、ちょっと顔は似てるかも。
……いや、でもこんなに目垂れてないしなぁ……。」
♠カリオストロ:「き、貴様!誰だ!
モアを助けてくれたようなのでとりあえず感謝はするが!!!」
モア:「あははは!警戒したり感謝したり大変な人だなぁ。
ま、詳しい事は面倒だから省くけど、まあ、これだけ。」
(モア、抜殻を見据える。)
モア:「……“わたし”は四世界を跨ぐ紅の終焉の魔王。
この子との縁を手繰って、一時的に存在座標を変更し、ちょっぴりだけ世界を救いに来たわ!」
♠カリオストロ:「なん……だと……!」
抜殻:「ッ!!!まさか!!オリジナルのッ!!!!!!」
モア:「天狗。いいえ、“あなたたち”が何を企み、何をやろうとも、“わたしたち”は負けないわよ。」
抜殻:「くっ!そんな無茶苦茶な道理が通って溜まるかッ!!!!
正しき世界の明日を!あの日あの時潰えた栄光を!!諦められるものか!!!
何より!!貴女も──貴様も突然閉じてしまった世界の住人だろ!!
なぜそちら側の味方をする!!!!」
モア:「“あなたたち”の大義なんかより、幼気な少女の恋路の方が断然大事だっての!!
“わたしたち”も、“あなたたち”も、もう過去なのよ!それを受け入れなさい!!!」
(■■、手を上げる。すると無数の魔法陣が展開される。)
モア:「『三次元魔法、重複・複数展開。』」
♠カリオストロ:「な……なんだ……!この膨大な魔法陣は……!!
この世界の物ではない……この世界の法則ではない……!!!」
モア:「本当はわたしもデスサイズを使いたいところだけれど、あれ使ったらこの世界もっとヤバくなっちゃうので、この程度にしておくわ。
さようなら、この世界の“災厄”さん。」
モア:「『フィニール』。」
抜殻:「諦められるものか!!!!!受け入られるものかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
(抜殻、消滅する。)
間。
(■■、手をパンパンと払う様な仕草をする。)
モア:「よし、これで完全に消えたわね。」
♠カリオストロ:「…………。」
モア:「いやはや、出しゃばり過ぎた。
けど、これでなんとかなりそうだし、結果オーライ?かな?」
(■■、カリオストロの方を見る。)
モア:「じゃ、カリオストロさん。」
♠カリオストロ:「!」
モア:「わたし、もう行くわ。
この子を……椛(もみじ)ちゃんをよろしくね。」
♠カリオストロ:「言われずともだ!」
モア:「ふふ……」
間。
モア:「とりあえず、こちらももう。」
間。
モア:これにて終幕。
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