東西東西・噺屋:天犬 大火の興行
─第九幕:噺屋:天犬 大火の結末─
東西東西・噺屋:天犬 大火の興行
─第九幕:噺屋:天犬 大火の結末─
[台本]東西東西・噺屋:天犬 大火の興行 ─第九幕:天犬 大火の結末─
登場人物
○天犬 大火(あまいぬ たいが)
17歳、男性
天狗の半妖で、怪談を雑談に挿げ替える“噺屋”。
皮肉屋で毒舌家で陰湿な性格。
主人公。
○ノウン・ヤン・アモーク
16歳、女性
突如転校してきた高校二年生。
世界の意志を聞き、教義とする“ヘネラリザドゥ教”の信徒であり、断罪者。
生真面目で融通の効かない性格をしているが悪い子ではない。
○鬼の骸
■■■、■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■。
赤星に乗っ取られている。
※途中で一人二役の応酬をします。
鬼嫁 弓燁と兼ね役です。
〇尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)
40歳、男性
寺生まれの“祓い屋”で大火の師匠。
軟派な発言が多いが物腰柔らかく、温和な人物だが、叱るときはちゃんと静かに叱る。
対怪異的にも物理的にも最強の人物。
〇鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)
16歳、女性
元気で純粋無垢で、要領が良く品行方正な高校二年生。
鬼の骸と兼ね役です。
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×天狗・赤星(てんぐ・あかぼし)
????????歳、不問
大火の同位体で物語の黒幕。
大火の母、メメの同位体でもあり、大火に掩蔽せし全天にて燃え燦めく赤色超巨星に近い熱量を内包する存在。
赤色超巨星に近い熱量は旧世界そのものを取り込む事により手に入れた。
また、大火の生まれた里の人間たちが顕現させようとしていた“天狗様”。
大火に対しては現し世の自分であるメメの片鱗によりかなり優しく接するが、
基本的には現し世そのものを燃料とし食い散らかしたいと考える物理的星食の怪物。
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天犬 大火♂:
ノウン・ヤン・アモーク♀:
◆鬼の骸/鬼嫁 弓燁♀:
尊海 牢乎♂:
───────────────────────────────────────
~厭離穢土欣求浄土・最奥~
ノウン:「“呼応せよ(レハギール)”ッ!!」
◆鬼の骸:「『おっと良いのかな?この身体は鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)だよ?』」
ノウン:「────くッ!!!」
大火:「怪異化ッ!!“我は全天を灼き尽くす星なり”ッ!!!」
(大火、怪異化して鬼の骸の背後を一瞬で取る)
◆鬼の骸:「『何ッ!?』」
大火:「死に晒せッ!!!!」
◆鬼の骸:「『ぐおッ!?』」
(鬼の骸、寸での所で大火の刺突を交わす。)
◆鬼の骸:「『大火(たいが)!この女を陵辱するつもりかい!?』」
大火:「そうやってテメーがオニトツギの体弄ぶンなら壊してやった方がアイツも喜ぶだろ!!!」(蹴りを入れる。)
◆鬼の骸:「『ぐおおっ!!!』」
(鬼の骸、蹴り飛ばされる。)
大火:「ぜってー、許さねぇからな。」
(大火、ノウンの方を向く。)
大火:「ノウン!!やるぞ!!!」
ノウン:「しかしタイガ!!それでは鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)が──」
大火:「分かってんだろうがッ!!」
ノウン:「────ッ」
大火:「相手が赤星(あかぼし)じゃなく、オニトツギの……
アイツの体ってんなら、俺たちが手ェ抜いて勝てる相手じゃねぇって事くらい。」
ノウン:「…………ッ」
大火:「俺ンならオニトツギを救えるとしても……その前に俺たちが死んじまったら意味無ェだろうが!!!」
ノウン:「…………クッソォッ!!!!“結晶惑星(けっしょうわくせい)”ッ!!!!」
◆鬼の骸:「『させないよ。』」
ノウン:「────」
(鬼の骸、ノウンの目の前に現れる。)
ノウン:「な────────」
◆鬼の骸:「『その腕ごと、君の天使を破壊させてもらう。』」
大火:「に──────────ッ!!?」
(ノウンの両腕、プラスマ化し、消失する。)
ノウン:「────ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
◆鬼の骸:「『まずは一人。』」
大火:「ノウンッ!!!!!!!!!!」
◆鬼の骸:「『おぉっと、動かないでくれよタイガぁ……』」
大火:「──ッ」
◆鬼の骸:「『それ以上動いたら、この子を消す。』」
ノウン:「あ…………あ…………」
大火:「なッ!……きッ!貴様ァ!!!!」
◆鬼の骸:「『うんうん。良い子だ、タイガ。』」
ノウン:「タ……イガ……ワタシに……構うな……ッ!!」
◆鬼の骸:「『ハハハ、この体は素晴らしいな。“ANGEL(エンジェル)”さえも上回り、無効化されていた力を行使できた……。
このまま待っていれば、人々が望む、素晴らしき世界が生まれる。』」
ノウン:「タイガ……ッ!!!!」
大火:「クッソがァ!!!!!!!“我は全天を────」
◆鬼の骸:「『なら仕方が無い。この子は──』」
牢乎:「ああ。仕方が無いね。」
◆鬼の骸:「『ッ!?!?』」
(一拍、間。)
◆鬼の骸:「『なにィ!?!?』」(遠くに吹き飛ばされる。)
牢乎:「本当はタイガくんたちに任せようと思っていたけれど、仕方が無い。是非も無い。
僕が出しゃばろう。」
大火:「し……師匠……っ!」
牢乎:「やあ、大火くん。大丈夫?」
大火:「俺は大丈夫!けど、ノウンが……!」
牢乎:「ん。」
ノウン:「くっ……すまない……!」
牢乎:「なに、君が謝ることはない。
君たちはよく頑張っている。本当なら“僕たち”が対応すべきなのに……。
だから、これは謝罪と感謝の証だ。」
(ノウンの腕、一瞬にして元に戻る。)
ノウン:「な……!」
大火:「ノウンの腕が戻ったっ!これってノウンが俺にやってたヤツと同じ……!」
牢乎:「まあね。“ANGEL(エンジェル)”みたいに新しく腕を作った訳じゃないけれど、
大体同じ事をやらせてもらった。」
ノウン:「なっ!そんなむちゃくちゃな!!」
牢乎:「それが出来るのが僕だ。
……けど、ごめんね。流石に“ANGEL(エンジェル)”は不可逆の様でね。」
ノウン:「……いいや、それこそ是非もない事だ。」
(鬼の骸、起き上がる。)
◆鬼の骸:「『な……尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)ッ!!!
何故貴様がここにッ!!』」
牢乎:「安心しなよ。僕は本体じゃない。ただの式神だよ。
力の配分は本体が4、こっちが6だけどね。」
◆鬼の骸:「『くッ!!!“我は全天を灼き尽くす星なり”ッ!!!
“我が炎よ”ッ!!“灼き尽くせ”ッ!!!!!』」
(鬼の骸が放った炎が牢乎たちを包む。大火とノウン、炎に対して構える。)
大火:「ぐっ!」
ノウン:「くっ!!」
牢乎:「……。」
◆鬼の骸:「『ははは……!一切効かないかッ!!』」
牢乎:「子供たちが火傷するじゃないか。辞めろよ。」
(牢乎、炎を払う。)
◆鬼の骸:「『く……ッ!』」
牢乎:「………………ユミカちゃんの身体でそんな顔するなよ。」
◆鬼の骸:「『っ』」
ノウン:「完全に圧倒しているッ!!
これならどうにか──」
◆鬼の骸:「『ならないさ!私とこの亡骸は既に癒着しているッ!!
言っただろう!この身体を、私を殺さなければ世界反転は止められないッ!!』」
牢乎:「……。」
◆鬼の骸:「『私を無力化し、その後の事は後で考える?
無駄だ!私は私が消滅するまで何度でもこの体に還り、使い潰すつもりでいるからな!!』」
大火:「ッ!師匠!なんとかなるんだよな!?」
牢乎:「…………すまない。タイガくん。」
大火:「────ぇ」
牢乎:「あれじゃもう無理……かもしれない。」
大火:「──────」
ノウン:「そ、そんな……」
◆鬼の骸:「『ははは……はははははははは!!!!
そうだ!ロウコが無理と言った以上もう無理だ!』」
(一拍、間。)
◆鬼の骸:「『……だが、反転した世界になら居るぞ。鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)に会えるよ。』」
牢乎:「“結界・三千世界(さんぜんせかい)”。」
◆鬼の骸:「『させないよッ!!反転せよ!“鎮具破具展開(ちぐはぐてんかい)”!!!』」
牢乎:「な────」
(鬼の骸、結界を反転させ、牢乎を貫く様に展開させる。)
大火:「師匠ッ!!!!」
牢乎:「僕の術を、利用……ッされた……ッ!」
◆鬼の骸:「『いやはや、鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)は優秀だね。
まさか対・牢乎(ろうこ)の戦法を練っていたとは、末恐ろしいねぇ。』」
牢乎:「ははは……本当に優秀な弟子で……嬉しい、よッ!!」
◆鬼の骸:「『──ッ!?!?』」
(鬼の骸、膝をつく。)
◆鬼の骸:「『あ……あ……』」
ノウン:「なんだ?ヤツから溢れていた力がどんどん消えている……?」
牢乎:「僕の力に利用・干渉したという事は、僕に干渉される事もちゃんと考えないとね。
君の力の繋ぎをぐちゃぐちゃに結びつけておいたよ。」
◆鬼の骸:「『そ……そんな……無法な……』」
牢乎:「僕が『是』と言えば『是』となり、『非』と言えば『非』だ。
それでも僕は出来るんだよ。」
◆鬼の骸:「『くっ……鬼化さえも……出来ない、だと……!?』」
牢乎:「ユミカちゃんならそれさえも対策を講じていただろうね。」
◆鬼の骸:「『だ、だが……!これでロウコ!貴様は無力化し──』」
大火:「──ッ!!」(蹴りを入れようとする。)
◆鬼の骸:「『なッ!?!?』」(ギリギリで避ける。)
大火:「ノウンと師匠を無力化出来たとしてもまだ俺が居るだろうがッ!!!!!!」
◆鬼の骸:「『くっ!!!!!』」
大火:「喰らえッ!!破魔の刃ッ!!!」(短刀を投げる。)
◆鬼の骸:「『ッ!!!!!ぐあッ!!!!!!』」
(鬼の骸の足に刺さり、その場から動けなくなる。)
大火:「天狗・赤星(てんぐ・あかぼし)ッ!!!これで終わりだッ!!!!!!!!!!」
(大火、右手を更に鋭くし、鬼の骸を刺突しようと駆ける。)
◆鬼の骸:「『くおッ!!!!!!!!!!!!!!!!!』」
間。
牢乎:「……。」
ノウン:「た……タイガ……」
大火:「…………。」
間。(大火、寸での所で止まっている。)
◆鬼の骸:「『……どうした?タイガ……?』」
大火:「……ッ」
◆鬼の骸:「『ははは……そうかそうか……タイガには私は殺せないか。
自身の母も、その手で殺めてきたというのに、』」
大火:「…………チィッ!!!!!!」
(大火、下を向いている。無言で大粒の涙を流す。)
◆鬼の骸:「『嗚呼……タイガ……泣いているのかい……?
そうだね……だってこの体は、この子は、間違いなく君を愛していた。
そして、君も……』」
大火:「……。」
◆鬼の骸:「『ああ……私は感動した……
もしも君が誰も愛さなかったら、こんな事にはならなかっただろうね……。』」
牢乎:「……。」
◆鬼の骸:「『けど、新たな世界では、きっと君は幸せになれるよ。
そういう世界に作り変える。私には……いや、君と私、“赤星(あかぼし)”たちにはその権利がある。
…………タイガ、しばしの別れだ。』」
(鬼の骸、最後の力を振り絞って右腕だけをなんとか鬼化させる。)
ノウン:「ッ!!!!!!!辞めろッ!!!!!!!!!辞めろッ!!!!!!!!!!」(タイガたちの下へ駆ける。)
◆鬼の骸:「『ここで君も死ぬ。けれど新たな世界で、私と、君と、この子と、幸せに暮らそう……。』」
大火:「………………。」
◆鬼の骸:「『さようなら、タイガ。愛してるよ。』」
(鬼の骸、大火を殺さんと腕を振り下ろす。)
ノウン:「タイガッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
間。
◆鬼の骸:「ごふ……っ」
間。(鬼の骸、自身の胸部を抉り、核を掴む。)
◆鬼の骸:「『な……に……』」
◆鬼の骸:「だ……め……」(鬼嫁 弓燁として)
ノウン:「…………え……?」
◆鬼の骸:「『な……何故お前が居るッ!!!???お前は確かにッ!!!!』」
◆鬼の骸:「だ……って……約束……した……から……タイガくんを、絶対に、傷つけない……って……」
牢乎:「……。」
ノウン:「お……鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)……なのか……?」
大火:「っ」
(大火、顔を上げる。)
◆鬼の骸:「えへへ……タイガ……くん……」
大火:「お……オニトツギ……」
◆鬼の骸:「なんか……久しぶり……だね……まだ現実時間では……数時間しか、経ってないのに……」
大火:「あ……ああ……お前、本当にオニトツギなんだな!?」
◆鬼の骸:「うん……ロウコさんが……私の意識を……身体に、結びつけてくれた……みたい……
……あ、ありがとうございます……」(牢乎に向かって)
牢乎:「……こんな事しか出来なくて、ごめんね……。」
◆鬼の骸:「へへへ……
ノウンちゃん……いっぱい、傷つけて……ごめんね……?」
ノウン:「大丈夫だ!気にするな……!
けど………………っ、ううん……話せて良かったよ……」(涙を流している。)
◆鬼の骸:「うん……私も……友達になってくれて……ありがとね……」
ノウン:「ああ……!!」
大火:「な……こんな時に、何話してんだよ……
早くこんな意味わかんねーの終わらせて一緒に帰ろうぜ……!」
◆鬼の骸:「無理だよ。」
大火:「ッ!」
◆鬼の骸:「タイガくんも、分かってるでしょ……本当は……」
間。
◆鬼の骸:「この核を……“天狗・赤星(てんぐ・あかぼし)”という楔(くさび)を取り除く事で……
世界の反転は阻止される……それは……揺籃(ようらん)になった“世界(わたし)”の死でもある……」
大火:「…………そんなの……あんまりじゃねぇか……」
◆鬼の骸:「……。」
(鬼の骸、吐血する。)
◆鬼の骸:「ぐはぁ…………たい、が……くん……」
大火:「オニトツギ……」
◆鬼の骸:「愛してます。」
大火:「…………え……?」
◆鬼の骸:「一目惚れでした……タイガくん、に、助けられたその時から……
……ずっと……好きでした……」
大火:「………………。」
◆鬼の骸:「タイガくんと一緒に、学校に行けて、凄く嬉しかった……
タイガくんと一緒に、ロウコさんに稽古つけてもらえたのも嬉しかった……
タイガくんと……ああ……もう……時間が無いのに、言いたいことがいっぱい過ぎるや……」
大火:「お……オニトツギ……」
◆鬼の骸:「もっと早くから言っておけば良かったなぁ……」
間。
◆鬼の骸:「…………でも、もう手遅れだから……」
牢乎:「……。」
◆鬼の骸:「タイガくんにこれ以上、辛い思いはして欲しくない……から……
私は……私自身で……」
◆鬼の骸:「『ま……まさかッ!?本気で自死するつもりか鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)ッ!!』」
◆鬼の骸:「ぐ……」(力を込める。)
◆鬼の骸:「『考え直せ鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)ッ!!
私が作った世界では君もタイガも幸せになれるんだぞ!?』」
◆鬼の骸:「そんなの……いらない……」
◆鬼の骸:「『何故だ!?意味が分からない!!!!』」
◆鬼の骸:「私は……タイガくんに……自分の意思で……一生懸命生きて欲しいの……」
◆鬼の骸:「『それでタイガがこれからも”苦しんでも良い”と言うのか!?』」
◆鬼の骸:「そ……だよ……
誰かからの幸せを享受しない……してくれないタイガくんを好きになったの……」
◆鬼の骸:「『異常だ……!君は異常だよッ!!!』」
(鬼の骸・鬼嫁 弓燁、にへらと笑う。)
◆鬼の骸:「えへへ……うん……私……おかしくなっちゃったみたい……」
(鬼の骸・鬼嫁 弓燁、大火たちを見る。)
◆鬼の骸:「ロウコさん……ノウンちゃん……そして……タイガくん……」
牢乎:「……。」
ノウン:「……ッ」
大火:「……っ」
◆鬼の骸:「さようなら……!」(笑顔で)
◆鬼の骸:「『やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!』」
間。(鬼の骸、核を破壊され、完全に機能停止する。)
(大火、弓燁の亡骸を抱えあげ、抱きしめる。)
大火:「…………。」
間。
ノウン:「……終わったのか……?」
牢乎:「ああ、各所のアカボシの核も無事に破壊出来たみたいだ。」
ノウン:「……ほ……とりあえずは一息……だな……」
(ノウン、大火たちを見る。)
ノウン:「…………。」
牢乎:「死傷者、一名。大健闘だ。」
ノウン:「ッ!!」(牢乎の方を睨む。)
牢乎:「……なんだい、断罪者。何か言いたい事──」(ノウンに殴られる。)
ノウン:「大いにある。が、この一発で抑える。」
牢乎:「…………はは……ありがとね……」
ノウン:「……。」
間。(地響きが鳴る。)
ノウン:「ッ!?!?なんだ!?!?」
牢乎:「どうやら、厭離穢土欣求浄土(おんりえど・ごんぐじょうど)の崩壊が始まる様だね。
もしもこのまま脱出出来ず、崩壊に巻き込まれたら、僕たちも諸共にこの世界から消えてしまうだろうね。」
ノウン:「まずいではないか!!!タイガッ!!!!」
間。(大火、弓燁を抱き抱えてノウンたちの方を向く。)
ノウン:「……タイガ……?」
大火:「ノウン。」
間。
大火:「ここでお別れだ。」
ノウン:「ッ!?ど、どういうことだタイガ!!!」
大火:「俺も“赤星(あかぼし)”だって事だよ。
そして……オニトツギと同じ“噺屋(はなしや)”だ。」
ノウン:「はぁ?お前何を言って────ッ!!タイガ!お前まさか!!」
大火:「師匠。」
牢乎:「ん。」
大火:「今まで、本当にありがとうございました。」
牢乎:「……ん。」
大火:「俺の事を愛さないでいてくれて、ありがとうございます。」
間。
大火:「俺は……師匠の事、大好きでした。」
牢乎:「…………そうかい。」
大火:「本当に、ありがとう……師匠。」
ノウン:「何を独り合点しているんだ!!!
お前も早くこっちへ来い!!一緒に脱出するぞ!!!!」
大火:「九重結界。」
(大火たちとノウンたちの間に巨大な結界が壁の様に展開される。)
ノウン:「タイガッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
大火:「……ノウン。」
ノウン:「タイガ!!!!!開けろ!!!!!!タイガ!!!!!!!!!」
大火:「ユミカをよろしくな。」
ノウン:「──────ッ」
(タイガ、去る。)
ノウン:「タイガ!!!タイガ!!!!!!!辞めろッ!!!!!!!!」
ノウン:「タイガァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
牢乎:「………………。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(大火、弓燁を抱えながら更に最奥へ向かう。)
大火:「…………。」
大火:「なあ、オニトツギ。俺、全然分かんなかったんだけど、お前が俺の事好きって。」
大火:「俺、まだちょっと疑ってんぜ?
だって、ほら。師匠はぜってー俺が師匠の事好きって気付いてた感じだったじゃん。」
大火:「……俺ってそんなに鈍感なつもりはねーんだけどなぁ……」
間。
(大火、自身の胸部を抉り、赤く燃える心臓を抜き取る。)
大火:「が……ッ!!い゛……い゛てぇ……!!
がは……ッ!し、心臓を抉り取るって……こんなにいってぇのかよ……!
お前……よくこんな事出来たな……!」
間。
大火:「オニトツギ……これ、お前にやるよ……
俺……お前には生きてて欲しいって思うんだ……
俺が、やっと救えた命……だからな……
しかも、俺ンこと好きらしいし……」
間。
大火:「……ま。でも、お前ちょっとセンス無ェよ。
俺なんかを好きンなるなんてよ。
だから、俺ンことなんか忘れて、もっと良い男捕まえてくれ。」
間。
大火:「……だけど、ありがとう。すげー嬉しかった。」
間。
大火:「あー……色々とありすぎて……“怪談”っつーにはちょっと、ぶっ飛びすぎだよなー……」
間。
大火:「──故に、」
間。
大火:「東西東西(とざいとうざい)。」
牢乎:世界が、明転する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~真っ白な空間~
大火:「…………。」
間。
大火:「…………よう。どうだったよ。」
間。
大火:「ああ?もっと明るい話をして欲しかった???
しゃーねぇーだろ。俺はあれが手一杯だったんだからよ。」
間。
大火:「……チッ、うっせーなー
反省してま~す」
間。
大火:「ホントホント!ホントだよ!俺だって出来りゃあもっとハッピーエンドが良かったよ!!!」
間。
大火:「あ?やり直し?やんねーよ。てか、流石にそれはズルだぜ。」
間。
大火:「……ま、ずっと見ててくれてありがとな。」
間。
大火:「あ??駄々捏ねんなよ!」
間。
大火:「は……?」
間。
大火:「ちっ、しょーがねーなぁ~~~~
良いよ。じゃあやってみろよ。但し、俺を──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~一ヶ月後。朝、通学路~
牢乎:あれから一ヶ月後。
(ノウン、登校中。気持ちが沈んでいる。)
ノウン:「…………。」
◆弓燁:「……あ!」
(弓燁、駆ける。)
◆弓燁:「ノウンちゃーん!!」
ノウン:「ん。鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)。」
◆弓燁:「おはよう!」
ノウン:「ああ、おはよう。
……もう、体調は良いのか?」
◆弓燁:「うん!元気元気!ロウコさんも学校行って良いってさ!
は~~~!一ヶ月ぶりの学校!楽しみ!」
ノウン:「そうか。それは良かったよ。」
◆弓燁:「えへへ……!
そういえばニュース見た?もうすぐ世界総人口80億人超えるんだってさ!
ついこの間までその半分くらいだった気がするのに、びっくりだよねー!」
ノウン:「そうだな。本当に、びっくりだな……。」
間。
牢乎:天犬 大火(あまいぬ たいが)は最後の最後で、世界を新生……というよりは“上書き”した。
彼が上書きした世界、それは二つの世界が正しく一つだった世界。
妖(あやかし)が居なくなった……旧世界に取り残された人たちを全て掬い上げた世界。
それを可能にしたのは、彼自身も赤星(あかぼし)、つまり赤色超巨星級の熱量を共有していた事。
そして、彼が世界そのものを弄れる“噺屋”だったから。
間。(牢乎、廊下を歩いている。)
牢乎:「……まあ、中には“妖(あやかし)のままで良い”と自分の意思で掬われなかった者たちもいるけどね。」
間。
◆弓燁:「…………。」(自身の胸部に少し違和を感じる。)
ノウン:「……大丈夫か?やはり胸が痛むのか?」
◆弓燁:「ううん。けど、なんだか……」
ノウン:「…………。」
間。
牢乎:そして、何故、鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)はこの世界でも生きているのか。
それは、タイガくんが、世界の揺籃の贄を彼女から自分に“すげ替えた”から。
……事実上、元々の計画通りになった形で、それを可能にしたのは“贄は噺屋”だから。
間。(牢乎、空っぽになった大火の部屋……元々誰の部屋でも無い空き室を見る。)
牢乎:「…………僕の考えた通りになった……
……まあ、ユミカちゃんが帰ってきてるから、もっと“良い結果”、なんだけどさ……」(気持ちが沈む。)
間。
◆弓燁:「ノウンちゃん。私ね。夢を見ていたの。
…………赤い髪の男の子の夢。」
ノウン:「……っ」
◆弓燁:「私、一ヶ月間ずっと寝てたってのはなんとなく起きた時に分かってたんだ。
一ヶ月……ずっと、その男の子が私に色んなお話をしてくれてたんだ。
まあ……そんなに明るい話は多くなかったけれど……」
ノウン:「……そうか……。」
間。
牢乎:この世界では、一部を除いた全ての人間が“天犬 大火(あまいぬ たいが)”を知らない。
ユミカちゃんも……全ての人間側に含まれている。
彼は自分自身を、自分自身に関する記録・記憶も燃料として、世界を循環させた。
……その残滓は、何処かに香るのかもしれない。
けれど、もう彼自身は存在しない。
間。(牢乎、空き室の扉を閉める。)
牢乎:「残された、僕たちの頭の中以外は……」(更に気持ちが沈む。)
間。
◆弓燁:「私もお話するのは好きだから、その子に明るい話をしてあげたいなぁって凄く思うの。
そう思う度に、胸が締め付けられるの。」
ノウン:「──っ」
(ノウン、弓燁の手を握る。)
◆弓燁:「の!ノウンちゃん!?」
ノウン:「ユミカ!!!だったら──」
間。(視点が遠くなり、ノウンと弓燁の会話が一瞬聞こえなくなる。)
◆弓燁:「…………良いね!そうしよう!もうすぐ夏休みだし……!
私、このままじゃ嫌だもん!満足できないよ!」
ノウン:「ああ……!!」
間。
牢乎:とにもかくにも、この世界は一人の少年の献身により救われ、新たな問題を抱えながら、今も流れている。
この噺(はなし)は……こういう“オチ”。
間。
牢乎:「……“東西東西・噺屋:天犬 大火の興行”は、これにて終幕とさせて頂きます。
また、皆々様と相まみえる日を、心より、お待ち申し上げます。」
(牢乎、一礼する。)
暗転。
───────────────────────────────────────