[台本]東西東西・噺屋:天犬 大火の興行 ─第七幕:天犬 大火の百鬼夜行─
登場人物
○天犬 大火(あまいぬ たいが)
17歳、男性
天狗の半妖で、怪談を雑談に挿げ替える“噺屋”。
皮肉屋で毒舌家で陰湿な性格。
主人公。
〇鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)
16歳、女性
元気で純粋無垢で、要領が良く品行方正な高校二年生。
噺屋になるべく大火に教えを請うている少女。
祓い屋としての才能は群を抜いているし、師である大火よりうんと強い。
○ノウン・ヤン・アモーク
16歳、女性
突如転校してきた高校二年生。
世界の意志を聞き、教義とする“ヘネラリザドゥ教”の信徒であり、断罪者。
生真面目で融通の効かない性格をしているが悪い子ではない。
不真面目で不良な大火によくつっかかる。
〇尊海 牢乎(とうとうみ ろうこ)
40歳、男性
寺生まれの“祓い屋”で大火の師匠。
軟派な発言が多いが物腰柔らかく、温和な人物だが、叱るときはちゃんと静かに叱る。
対怪異的にも物理的にも最強の人物。
○■■■■■
??歳、??
何かの抜け殻。
基本的に言語らしい言語は用いれず、何かを呟いている。
強大な力を有し、“何か”の意思の下動いている様子。
《》←で囲まれた台詞はちゃんと発声する必要はありません。
天犬 大火♂:
鬼嫁 弓燁♀:
ノウン・ヤン・アモーク♀:
尊海 牢乎♂:
■■■■■ 不問:
↓これより下が台本本編です。
───────────────────────────────────────
■■■■■:「いざうといざと」
弓燁:始まった以上、終わりというものはどうしてもやってくるものです。
大火:どんなに楽しくて幸せな時間も……
弓燁:どんなに辛くて泣いてしまう時間だって。
大火:…………。
弓燁:それでも、終わって欲しくない、続いて欲しいと願うのは──
間。
弓燁:傲慢でしょうか。
弓燁:強欲でしょうか。
大火:…………。
間。
弓燁:……語られない事には、それも終わったも同じ。
故に──
■■■■■:《るすまりつまてたげあいがねいこ、とっいずずず、
でまみすらかみす、まさなみなみ、はではで》
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~学校、休み時間~
(大火、机にうつぶせで寝ている。)
大火:「…………。」
(大火、以前の事を回想する。)
弓燁:『人間とか怪異とか関係無い。』
弓燁:『私は……私たちは、タイガくんが大事だから、タイガくんが大好きだから、
一緒に居たいって思ってる。』
大火:「…………。」
ノウン:「大火(たいが)。」
大火:「……。」
ノウン:「おい、タイガ。」
大火:「っ!」
間。
大火:「なんだ、ノウンか。どした。」
ノウン:「どうしたはこっちの台詞だ。
最近いつにも増してぼーっとしてるが、大丈夫か?」
大火:「…………はは、珍しいな、お前が俺の心配なんて。」
ノウン:「なっ、何を言う!仲間の心配をするのは当たり前だろ!」
大火:「仲間……か。
前は俺を滅するとか言ってたのにな。」
ノウン:「昔のことだ。それに、事情も状況も違う。
ワタシとお前は協力関係で、お前は悪いヤツじゃない。
そうでなくとも、仲間である以前に、ワタシはお前を友だと思っている。」
大火:「…………友……。」
ノウン:「……タイガは、違うか?」
大火:「…………さあ、どうだろうな。」
ノウン:「そうか。
では、ワタシはお前の友と認められる様に精進しよう!
そんなムっとした顔をするな!」
(ノウン、にこっと笑う。)
大火:「ムッとしてないが???
はぁ…………キャラ変わったなぁー……」
ノウン:「元々こんなんだろ!!
鬼嫁(おにとつぎ)からも言ってやって──……あ、今日は休みか。
……しまったな。よりによって今日か……
風邪か?」
大火:「ああ、オニトツギは──」
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~同時刻、尊海邸の道場~
弓燁:「────五重結界ッ!!!」
牢乎:「遅いよ。」
(五重結界が成立する前に破壊される。)
弓燁:「くっ!!」
牢乎:「五重結界くらいはもう無詠唱かつ瞬時に出せるようにしないと。」
弓燁:「はいっ!」
牢乎:「…………そろそろ辞めにしよう。」
弓燁:「えっ」
牢乎:「弓燁(ゆみか)ちゃんがやる気なのはとっても良い事だけど、
学校を休んでまでする事だとは思わないなぁ。」
弓燁:「……。」
牢乎:「……だいじょーぶだよ。
ユミカちゃんは凄く強いし才能もある。
慌てなくても、もっと強くなれる──」
弓燁:「駄目なんですっ!!」
間。
弓燁:「今のままでは……駄目なんです……足らないんです……!」
牢乎:「……。」
弓燁:「今のままでは、タイガくんを守れない……!」
牢乎:「……なんで、ユミカちゃんがタイガくんを守るのかな。
タイガくんは君の師匠だから、弟子である君を守るのは分かるけれど。」
弓燁:「だとしてでもです。
私はタイガくんを守る。そう約束した。それにこのままじゃまた──」
牢乎:「…………。」
間。
牢乎:「ユミカちゃん、今のままじゃ、“また”失うよ。」
弓燁:「だから──はっ」
間。(牢乎、弓燁の首元に刀の鋒を当てる。)
牢乎:「視野が狭い。そんな君に、僕から教える事は何も無い。」
間。(牢乎、刀を納める。弓燁、力が抜けその場に崩れる。)
弓燁:「────っ」
牢乎:「大丈夫?」(手を差し伸べる。)
弓燁:「…………。」
牢乎:「…………さ。学校に行きなさい。」
間。(牢乎、道場から出ようとする。)
牢乎:「あ、タイガくんお弁当持っていくの忘れちゃってたから、ついでに届けとい……」
牢乎:「…………へぇ……やるねぇ。」
弓燁:「…………!」
牢乎:「無詠唱で七重結界、か。」
弓燁:「“月の幻影は更に肥大する”。」
牢乎:「…………そうか。」
間。
牢乎:「理解したんだね。君のお父さんやお母さんが死んだ理由。君が未だに鬼の力を使える理由。そして──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
弓燁:これは、回想。誰の?
■■■■■:《のみき、のみき》
弓燁:嗚呼。わたしのか。
■■■■■:『ユミカ!!早く逃げなさい!!早く!!!』
弓燁:お父さんとお母さん。誰から逃げてるの?
■■■■■:《たなあ、たなあ》
弓燁:嗚呼。わたしか。
牢乎:『君の家系に、君の血筋に、鬼の要素は見当たらなかった。』
■■■■■:《きつそう、きつそう》
弓燁:嘘、とは違うかな。
多分、本当に、わたしの“家系や血筋”に鬼の要素は無かったと思う。
でも、ロウコさんは敢えて私にもタイガくんにも伏せていた。
■■■■■:『ユミカ!!……な……何を……!!』
弓燁:わたしは、鬼に取り憑かれた。ううん。わたしから鬼が生まれた。
そしてまずお父さんを殺そうとした。ん?お母さんが先だったかな?
■■■■■:《しろごやお、しろごやお》
弓燁:でも、それはわたしの意思じゃなかった。
だから、なんとか、ギリギリ死ぬ前に止まれた。
■■■■■:《しろごやお、しろごやお》
弓燁:でも、本当にギリギリだったから、気付いた時にはもう遅くて、『親殺し』と言われて……そのままその人は絶命しちゃったんだ。
……私は、本当に馬鹿でした。大馬鹿でした。
間。
弓燁:「どんなに呼びかけても、どんなに謝っても、返事をくれない。
私は凄く、凄く凄く後悔しました。
……本当に、私は忍耐強くも、優しくもない子でした。」
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~夜、学校内~
弓燁:「…………。」
大火:「おーい。」
弓燁:「……。」
大火:「おいって!」
弓燁:「っ。」
間。
弓燁:「……あれ、ここは……」
大火:「学校だよ。
任務中だろうが、しっかりしてくれよ。」
弓燁:「あははは……ごめんね……」
大火:「……ったく……。
どうやら、師匠に相当扱かれたみてぇだな。」
弓燁:「うん、まあ……ね。」
大火:「…………本調子じゃないなら、今日帰っていいぜ?
俺一人でやっからよ。」
弓燁:「駄目だよそんなの……って、え?一人?ノウンちゃんは?」
大火:「お前……本当に大丈夫かよ。ノウンは少し所用だとさ。
だから俺たち二人だけ。」
弓燁:「…………そっか……。
じゃあ尚更!タイガくんだけ残して帰るなんて無理だよ!!」
大火:「はいはいわーったよ。
じゃーちゃっちゃと済ませて、二人で帰るぞ。」
弓燁:「……うん!」
間。(大火と弓燁、学校内を散策する。)
弓燁:「なんか、二人きりって久しぶりだね。」
大火:「ああ?そーだな。
ノウンが入って、三人体制になって大分楽…………だった記憶はねぇな……」
弓燁:「あははは……そうだねー……」
大火:「あーあ。俺たちまだまだ半人前なのによぉー無茶だよなー」
弓燁:「……そういえば、私が来る前って、タイガくんが一人でやってたの?」
大火:「まーそうだな。基本的に師匠は他の案件で引っ張りだこだし、
本来はここ、“隠世(かくりよ)”から“現し世(うつしよ)”への入口がちいせぇから、
そんなに強いやつが出てくる事は滅多になかったしな。」
弓燁:「…………。」
大火:「俺は出来ればラクしたかったけどなー……」
弓燁:「……“月の幻影は更に肥大する”。」
大火:「あ……?」
弓燁:「ねえ。タイガくん。」
大火:「な、なんだよ。」
弓燁:「ここから逃げようよ。」
大火:「はぁ?何言ってんだよ。
ラクはしてぇけど別にサボろうってワケじゃ──」
弓燁:「そうじゃなくて!このままじゃタイガくん──」
■■■■■:《たけつみたけつみたけつみ》
大火:「──ッ!!?」
弓燁:「──ッ!!?」
■■■■■:《ングガイタ、ンクガイタ》
大火:「なんだアイツ……ッ!!この間の藍狐(あおご)よりも禍々しいじゃねぇかッ!!!」
弓燁:「あ…………あれは……ッ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某所にて~
牢乎:「……そろそろ始まったかな。」
ノウン:「何がだ。」
(ノウン、その場に現れる。)
牢乎:「おや、お早い登場で。」
ノウン:「……それで、何の用なのだ、タイガたちの師匠殿。」
牢乎:「気安く“牢乎(ろうこ)”で良いよ。
今回呼んだのは他でもない、君の……君たち“ヘネラリザドゥ教”の真意を、その口から直接聞こうと思ってね。」
ノウン:「ワタシたちの……真意?」
牢乎:「西の最果てから陸を越え、山を越え、海を越え、なぜこんな辺境に来たのかな、と。」
ノウン:「それは勿論、天使の預言により、ここで災厄の華が芽吹く前に摘む為だ。」
牢乎:「ほう。それはタイガくん達には?」
ノウン:「……?言ってないが?」
牢乎:「では何故、僕には教えてくれるのかな。」
ノウン:「上の者が、貴方に問われた事には全て答えよと言われたからだ。」
牢乎:「……そうかい。」
ノウン:「…………話は終わりか?
であればワタシはタイガとオニトツギの下へ向かいたいのだが。」
牢乎:「君たちと交わした盟約に伴い。
全てを話そうじゃないか。」
ノウン:「全て?」
牢乎:「ああ、今回の異変。その発端。“敵”の目論見と、“世界”の企み。
そして、これから起ころうとしている事。」
ノウン:「…………何……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~学校内~
■■■■■:《ングガイタ、ングガイタ》
大火:「おいオニトツギ!!なんか知ってんのか!!」
弓燁:「……ッ!!」
大火:「おい!オニトツギ!」
弓燁:「────」
大火:「しっかりしろオニトツギッ!!!」
弓燁:「────はっ!!」
弓燁:「はあッ!!」(正気に戻って結界を展開する。)
■■■■■:《───────────》
(■■■■■の周りを囲む様に九重の結界が展開される。)
大火:「な……ッ!!九重結界ッ!?しかも無詠唱だとッ!!
オニトツギ!!いつの間にそんな力!!!」
弓燁:「あれは私たちの手に負える相手じゃないッ!!!!
逃げようッ!!!!」
大火:「チィッ!!またそういうヤツかよッ!!!!!」
(大火と弓燁、その場から離れようとする。)
■■■■■:《いかっけうゅじうゅき・んてんは》
弓燁:「え────」
大火:「なッ!!?」
■■■■■:《ははははははははあ》
(大火の周りに九重結界が展開される。)
大火:「なッ!!?俺の周りに結界を再展開だと!?」
■■■■■:《ははははははははあ》
大火:「オニトツギ!!お前先に逃げ────あ……?」
弓燁:「────そん──────────な」
大火:「オニ……トツギ……」
■■■■■:あなたの視界に入ったのは、
結界によって上半身と下半身が分離した、君の姿だった。
大火:「オニトツギッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某所にて~
ノウン:「──なッ!!なんだと!?
そんな事があり得るのか!?」
牢乎:「けれど君は事実、見てきた、いいや、観てきたんだろ?」
ノウン:「……しかしッ!!
では妖(あやかし)とはなんなんだ!?隠世(かくりよ)とは一体!!!!」
牢乎:「抜け殻だよ。終焉を迎える前に新生したこの世界のね。
そして、妖(あやかし)は抜け殻になった世界の住人。
元々は人間だよ。」
ノウン:「………………ま、まさか──」
牢乎:「妖(あやかし)だけだよ。君たちの言う“魔の者”はこの世界の機構だ。
安心して欲しい。」
ノウン:「いや、そこは何も安心出来ないし出来れば消え去ってくれて良いのだが。」
牢乎:「それもそうだね。」
ノウン:「…………では、“怪異化”とは何故起きるのだ?」
牢乎:「抜け殻とは言え、世界は世界だ。
世界の運営、その為の熱量を使い切る前に終わったんだ。
その熱量、エネルギーがまだ余っていた。」
ノウン:「……まさか……その熱量を持ってして世界に干渉を……?
更に言えば人間単位で妖(あやかし)……かつての人間が干渉をしているのか……??」
牢乎:「そう。この世界の、自分の同位体に影響し、干渉し、そしてこの世界に顕現する。
それが“怪異化”。」
ノウン:「………………なるほど……
藍狐(あおご)という妖(あやかし)が自分の事をタイガの“双子の弟”と、
言っていたが、間違い無くタイガに兄弟はいなかった。
最初はヤツの出まかせかと思ったが……そういうことか……。」
牢乎:「きっと元の世界で双子だったのだろうね。
で、この世界の彼は“怪異化”し、完全に自我を無くしてしまったんだろうね。」
ノウン:「…………。」
牢乎:「負の感情を熱量として取り込み、虚であった身体に貌(かたち)を与え、自身の同位体を探す。
現し世(うつしよ)、この世界に妖(あやかし)が顕現する理由だろうね。」
ノウン:「ではタイガやオニトツギが部分的とは言え怪異化するのは危ないのではないか?」
牢乎:「お。さすがだね。ご明察の通りだよ。でも黒幕的にも、タイガくんは大丈夫。
…………ただ、ユミカちゃんは……」
ノウン:「…………まさか──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~学校内~
■■■■■:《ははははははははあ》
弓燁:「あ…………ぁ…………」
大火:「オニトツギ!!!!」
弓燁:「たい、が……くん……にげ……て……」
大火:「馬鹿!!!ンなこと出来るかよッ!!!!」
■■■■■:《ンクガイタ、ンクガイタ、てけすた、てけすた》
大火:「──ッ!!うるせぇよッ!!!!
怪異化ッ!!!反転し!穿てよ結界ッ!!」
■■■■■:《あああああああああああああああああああが》
(大火、半妖化して結界を反転させ、■■■■■を貫く様に展開させる。)
■■■■■:《あああああああああああああああああああが》
大火:「東西東西(とざいとうざい)ッ!!!」
(大火、周りに陣が展開する。)
弓燁:「た…………い……が……」
大火:「御託は良い!!!助けろ!!!!鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)を助けろッ!!!!
じゃなきゃ俺は何の興行も行えないッ!!!!」
■■■■■:《め……だ……めだ……めだ》
大火:「クソックソックソッ!!!!
なんで俺は……ッ!!!
死ぬな……!!!死ぬなオニトツギッ!!!!!」
■■■■■:《めだめだめだめだめだ》
(■■■■■、大火に向かう。)
大火:「ぁ──────ッ!!!」
弓燁:「かんぜん……けんげん……」
間。
大火:「…………なんだ……?」
弓燁:「「──────ッ」」
(弓燁、■■■■■の攻撃を防ぐ。)
■■■■■:《!?!?!??!?!!??!》
弓燁:「「はぁあああああああああああッ!!!!!」」
■■■■■:《ああああああああああああああああああああああ》
大火:「な……ッ!オニトツギッ!!身体が治って……それにッ、お前その姿ッ!!!」
弓燁:「「ハァ……ハァ……ハァ……大丈夫……?タイガ……くん……」」
大火:「完全に……鬼に……!!」
弓燁:「「あ……はははは……バレちゃった……」」
大火:「お前……意識は……オニトツギなのか……?
ちゃんと鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)なのか……??」
弓燁:「「……んー……ちょっと混み入った話なんだけれど、
私は、元々、こうなんだよ。」」
大火:「……はぁ……?ど、どういうことだよ……。」
弓燁:「「ねえ、タイガくん。」」
大火:「……なんだ。」
弓燁:「「今の私は、通常と異常、どっち??」」
大火:「ああ???お前がどんな姿になっても、異常じゃねぇぞ!!
オニトツギ!お前は妖(あやかし)だとしても人間だし通常だ!!!」
弓燁:「「ふふ……ありがとう。
とりあえず、あれをどうにかしようよ、タイガくん。」」
■■■■■:《ンクガイタ、ンクガイタ、てけすた、てけすた》
大火:「……おうッ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某所にて~
ノウン:「この世界の鬼嫁 弓燁(おにとつぎ ゆみか)はとうの昔に消滅しただと!?」
牢乎:「うん。彼女は怪異化しきった上で、自分を封じ込めたんだ、自分が怪異であるという記憶と共にね。」
ノウン:「完全完成は阻止したのではなかったのか。」
牢乎:「タイガくんが、完全完成した彼女を人の形に戻したんだ。」
ノウン:「そんなこと……あり得るのか?」
牢乎:「ははは……何度も言うけれど、有り得た以上、事実だ。
そして、あの時の興行で、封じ込めた記憶も開いた。
だから、怪異化が出来る。」
ノウン:「オニトツギの、鬼であった過去を今に再演し、実際に顕現させる術という、
“限定顕現(げんていけんげん)”は嘘……?」
牢乎:「いや?一概に嘘というワケでもない。過去は過去でも、一つ前の世界のね。」
ノウン:「…………。」
牢乎:「どうだい。ユミカちゃんは僕たちに嘘を吐いた。
それでも仲間だと思えるかい。」
ノウン:「当たり前だろ。」
牢乎:「……。」
ノウン:「ワタシたちは共に戦い、共に語らい、共に過ごした仲間だ。
そうでなくとも、ワタシは彼女を友だと思っている。
タイガと同じく……仮に魔の者……いや、人から反転し、妖(あやかし)で────」
間。
ノウン:「………………まさか……“敵”の目論見は──」
牢乎:「気付いたかい。」
間。
牢乎:「僕でも成し得なかった。
“完全完成した妖(あやかし)を人間に戻せる力”……
いいや、正しくは“妖(あやかし)を人間に反転させる力”を持つ天犬 大火(あまいぬ たいが)を利用した、“世界反転”。
羽化した世界と、抜け殻の世界を反転させる事だよ。」
ノウン:「なにッ!!?ではこの世界はどうなる!?」
牢乎:「勿論、世界の熱量を吸われ、抜け殻の世界、黄泉の国へと変わる。
そして生きとし生ける物である僕たちは貌(かたち)を失い、抜け殻の世界が朽ちて終わるまで──」
間。
牢乎:「成長も先も無い、死ぬことも出来ない虚ろな生を続けるのさ。」
ノウン:「何故そんな事が分かる。」
牢乎:「僕の知り合いに、実際に黄泉の国を見てきてもらったからだよ。
ただまあ、そんな世界でも強い自我を持ち、状況を変えんとする者もいるワケで。」
ノウン:「それが、今回の敵であり、黒幕か。
……そうか。“月の幻影は更に肥大する”とは、
月の幻影……抜け殻の世界、旧世界の勢力が増しているということか。」
牢乎:「そう。そして、多分今日はその日だ。」
ノウン:「何ッ!?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~学校内~
大火:「改(あらため)ッ!!東西東西(とざいとうざい)ッ!!!」
(大火の周りに更に大きく陣が現れる。)
■■■■■:《めだめだめだめだめだあああああああああああああ》
弓燁:「「静かにッ!!」」
(弓燁、剛力で■■■■■を床に埋める。)
■■■■■:《!!!!》
弓燁:「「演目を見るときは、携帯はマナーモードに、笑い声はともかく、話し声はお控えに、ね、ですっ!」」
大火:「皆々様、ご機嫌よろしゅうございりまする。
私、天犬 大火(あまいぬ たいが)と言うものでございまする。
表では馬鹿過ぎて留年して高校一年生、後がなし。裏では祓い屋家業。
さらにその裏の姿は“噺屋(はなしや)”……噺屋:天犬 大火、この状況を打破せし者ですッ!!!。」
■■■■■:《りおどいらね、りおどいらね》
大火:「今宵、皆々様に語るは────」
弓燁:嗚呼。あの時も、こんな感じだった気がする。
初めて君の興行を見た時も、こんな感じで頼れる顔をしていた。
弓燁:最初は“雑談噺(ざつだんばなし)”で、次が“怪談噺(かいだんばなし)”。
その次は二人でやった“推理ショー”、その次はノウンちゃんの“英雄譚”で……
■■■■■:どれも楽しい思い出だった。
大火:「さて彼奴の珍妙で共通しているところが多々あります!!!
それは上下逆さまで前後ろも逆さま!そしてやることと言えば私たちの物まね!
私はそんなことをする厄介な妖(あやかし)を一つだけ知っております!!!」
弓燁:勿論、大変な事も沢山あった。
私たちの実力以上のを相手に勝たないといけない場面ばかりだった。
けれど、私たちは一人じゃなかったから、なんとかなったよ。
■■■■■:それでもやっぱり、どれも楽しい思い出だった。
間。
■■■■■:けどさ。
■■■■■:それって、本当は君の思い出じゃなかったはずなんだよ。
弓燁:それは……
間。
弓燁:そうかもね……。
大火:「今回の敵であり、黒幕、その正体は!!」
間。
大火:「天邪鬼(あまのじゃく)ですッ!!」
■■■■■:《!!!!!!!!!ッ》
大火:「その在り方は妖(あやかし)とも精霊とも決めがたい!
他者の心中を察することが巧みで、口まね、物まねなどをして、人の意図に逆らったりする怪異です!!!」
■■■■■:《うがち、うがち、うがち、うがち》
大火:「さあ!ともすれば、彼奴の弱点も分かるってもんですよ!!!!
オニトツギ!!やれ!!!!!」
弓燁:「「了解ッ!!!」」
弓燁:「「はあああああああああああああああああああああああッ!!!!!」」
(弓燁、■■■■■を踏み抜く。)
■■■■■:《ああああああああああああああああああああああああああああああああああ》
大火:「サァサァ、皆々様!これにて終幕としましょう!!
……先(せん)づ今日はこれ切り……!!」
間。
弓燁:「「敵の気配消滅、確認……!」」
大火:「ふぅー……おい!オニトツギ!大丈夫か!」
弓燁:「「うん、大丈夫だよ。」」
大火:「……………………。」
弓燁:「「……?」」
大火:「いや、なんでもない。
それより、今日はさっさと帰っちまおう。
まだ妖(あやかし)の気配はするが、ンなことよりサッサと師匠ンところ行って──」
■■■■■:《ッーブブ、ッーブブ、ッーブブ》
大火:「なんだ!?確かに気配が消えたのにッ!!!」
弓燁:「「────ぁ」」
大火:「──────────オニトツギッ」
■■■■■:君はわたしに心臓を穿ち貫かれる。
さっきは鬼に完全完成した事で、なんとかなったみたいだけど、
これはもう絶対に助からないよ。
弓燁:「「ぁ……ぁ……ッ」」
大火:「オニトツギッ!!オニトツギッ!!!!!」
■■■■■:《?にな》
大火:「────は……?」
■■■■■:《?のたしうど》
大火:「…………お前────」
弓燁:「「駄目。」」
■■■■■:《ぁ────》
弓燁:最初は“雑談噺(ざつだんばなし)”で、次が“怪談噺(かいだんばなし)”。
その次は二人でやった“推理ショー”、その次はノウンちゃんの“英雄譚”で……
■■■■■:どれも楽しい思い出だった。
弓燁:勿論、大変な事も沢山あった。
私たちの実力以上のを相手に勝たないといけない場面ばかりだった。
けれど、私たちは一人じゃなかったから、なんとかなったよ。
■■■■■:それでもやっぱり、どれも楽しい思い出だった。
間。
■■■■■:けどさ。
■■■■■:それって、本当は君じゃなくてわたしの思い出のはずだったんだよ。
弓燁:ごめんね。
弓燁:だけど。
弓燁:それでも──
弓燁:「「──これは私の思い出だよ。」」
(弓燁、■■■■■の心臓を潰す。)
■■■■■:《……な…………ん……そ》
(■■■■■、絶命する。)
弓燁:「「ぐ…………」」
(弓燁、鬼化が解け、倒れる。)
大火:「オニトツギ!!」
弓燁:「………………あぁ……たい、が……くん……」
大火:「オニトツギ……!そんな……ッ!
俺はまた……ッ!!」
弓燁:「守ってくれてありがとう。」
大火:「…………は?」
弓燁:「私を、人って……通常だって……言ってくれてありがとう……」
大火:「何当たり前の事言ってんだよ……
ンなことよりもう喋るな……!大丈夫だ……師匠ンところへ行けば──」
弓燁:「無理だよ。」
大火:「──────ッ」
弓燁:「分かるでしょ……?」
間。
弓燁:「………………噺屋(はなしや)になれたかな、私……。」
大火:「…………。」
弓燁:「………………そう、だよね…………あーあ……私、出来の悪い弟子、だったね……」
大火:「そうだ……お前はまだ噺屋(はなしや)になれてねぇ。
出来の悪い弟子だ……!!」
弓燁:「……。」
大火:「俺はお前にまだ教えてねぇ事が沢山ある!!
だから死ぬな!!!」
弓燁:「……。」
大火:「俺は認めねぇ!!認めねぇからなァ!!」
(大火、手を合わせる。)
大火:「とざいと────」
■■■■■:「させないよ。」
大火:「なッ……まだ……ッ!!しつけーなマジでェ!!!!」
■■■■■:「皆々様、ご機嫌よろしゅうございりまする。」
大火:「ッ!!この感じ!!カリオストロの時のッ!!!」
■■■■■:「やあ、久しぶり。
会いたかったよ、天犬 大火(あまいぬ たいが)。」
大火:「クソッ!それどころじゃねぇってのに!!!」
■■■■■:「けれど、今回は君に用があるワケじゃないんだ。
……いや、本来であれば、君だったんだけどね……。
代役が見つかった。」
大火:「ッ!!まさか!!!」
■■■■■:「そう。完全完成した“概念改竄(がいねんかいざん)”を扱える者。」
大火:「ッ!!」
(大火、弓燁を庇う様に構える。)
■■■■■:「もう遅いよ。」
大火:「──ッ!!」
弓燁:「…………。」
大火:「オニトツギから花が……ッ!!」
■■■■■:「本当は完成した君の身体を贄とし、“災厄の華”を開花させる予定だった。
それが彼女に挿げ替えられただけさ。
いやはや、正直嬉しいよ。君に新世界を見てもらえる様で。」
大火:「“災厄の華”ってなんだ!!
ンなもんにオニトツギを巻き込むなッ!!!」
■■■■■:「言っただろう!もう遅いと!!
彼女は既に絶命しているッ!!!
そしてッ!!!世界の大樹へと!揺籃(ようらん)へと至った!!」
弓燁:「──────────」
(突如穴が顕れ、全員を飲み込む。)
大火:「なッ!!急に穴がッ!!!」
弓燁:「…………。」
大火:「──待てッ!!!行くなオニトツギッ!!!オニトツギ!!!!!!!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~某所にて~
牢乎:「ん。」
ノウン:「なんだ!!この瘴気はッ!!!」
牢乎:「始まったようだね、世界の反転が。」
ノウン:「ちっ!!」
牢乎:「僕たちは覚悟しておいた方が良い。」
ノウン:「なに?」
牢乎:「タイガくんかユミカちゃん、或いは両方の死を。」
ノウン:「な────」
牢乎:「さ、僕たちも向かおう。」
ノウン:「……ああ!!」
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~??????~
大火:「くそッ!!この穴どこまで!!!オニトツギはどこだ!!!!」
■■■■■:「天犬 大火(あまいぬ たいが)。」
大火:「ッ!!貴様ァ!!!!」
■■■■■:「この物語の“鉾担(ほこかつぎ)”は私であり君だよッ!!!」
大火:「ッ!?」
■■■■■:「故にこれは!!──」
■■■■■:「“天犬 大火(あまいぬ たいが)の百鬼夜行(ひゃっきやこう)”の始まりだッ!!!!!!!!!!!!!!」
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