研究紹介

研究分野と研究スタイル

私の専門分野は天文学(あるいはほぼ同義語で、宇宙物理学)の理論的研究です。

宇宙物理学は、その対象が惑星から恒星、銀河、さらには宇宙全体まできわめて多岐にわたる分野です。従って宇宙物理学の中でも細分化が進んでいますが、私は比較的広い分野で研究を行っています。これまでの研究分野は主に以下の3つほどに大別できます。

  1. 宇宙全体の歴史や成り立ち、物質構成などを明らかにする宇宙論の研究。主に天文観測とその理論解釈により、宇宙モデルの重要パラメータを決めたり、暗黒物質や暗黒エネルギーと言った未知の成分の謎に迫るための研究をしてきました。暗黒物質粒子が対消滅する際に出すガンマ線の検出可能性を調べたり、すばる望遠鏡を使って大規模な遠方銀河の分光サーベイを行い、銀河の三次元分布と運動から、宇宙膨張の加速の謎に迫る研究などです。

  2. 銀河の形成と進化ビッグバンの直後、一様で何も構造や天体がなかった宇宙に、銀河や恒星がどのように生まれ、現在の姿まで進化してきたのかを、理論と観測をつき合わせることで研究してきました。すばる望遠鏡やハッブル望遠鏡などで捉えられた遠方の原始的な銀河の個数や性質を、理論モデルと比較することで銀河形成のメカニズムに迫るような研究です。また、銀河の中心には太陽質量の百万倍を超える巨大なブラックホールがあり、それが高エネルギー現象を引き起こす活動銀河核の宇宙進化なども研究してきました。

  3. 恒星の爆発現象が引き起こす高エネルギー天体現象の研究。恒星の一生の最期に起こる巨大な超新星爆発は、中性子星やブラックホールといった超高密度天体を残し、様々な高エネルギー現象を引き起こします。ガンマ線バーストや高速電波バーストといった「謎の突発天体現象」も、星の爆発に関係した現象であることが明らかになってきました。最近では重力波観測が脚光を浴びています。こうした極限的な天体現象のメカニズムを解明し、また、こうした明るい天体現象を使って遠方(つまり昔)の宇宙を探るといった研究をしてきました。

また、観測との関連で言えば、電波から光赤外、X線、ガンマ線に渡る様々な波長の電磁波や、宇宙線やニュートリノといった素粒子観測、そして重力波とも密接に関連した理論研究を行ってきました。

このように結構いろいろな研究をしていて、研究テーマや興味の対象も時とともに変わるので、何が専門かと言われると答えづらいところがあるのですが、私の研究テーマを簡潔にまとめるなら、

  • 根源的で興味深い天文学上の謎を明らかにしたい(例:ガンマ線バーストや高速電波バーストのような謎の天体の正体は?暗黒物質、暗黒エネルギーの正体は?高エネルギー宇宙線やニュートリノはどこでつくられる?)。

  • 興味深い天体現象(ガンマ線バーストや活動銀河核など)を、宇宙全体や銀河進化の大きな流れの中で理解する。また、それらを道具として使い、銀河や宇宙全体の進化、あるいは宇宙論的な謎を解明したい。

  • 最終的に、宇宙全体の成り立ちと進化を、その中で起きている多様な天体現象と有機的に結びつけた形で、物理学をベースとして深く理解する。

といったところでしょうか。このような視点で、そのときの興味に応じて、新しい研究テーマにも積極的に挑戦することを心がけています。最近では、生命の起源や生命/人類が発生する条件などに関心を持ち、宇宙論的な視点でこうした問題にアプローチすることも始めました。

理論研究といっても様々なスタイルがありますが、私の場合、一貫しているのは「最新の観測データに密接に関連した理論研究を行う」という点です。第一原理から出発した純粋理論研究や大規模な数値シミュレーションも大切ですが、私の場合はむしろ最新の観測データが提起する新たな謎を、理論的なアイデアや比較的現象論的なモデルで解釈したり、あるいは理論予言を検証するための新しい観測計画を観測家と一緒に提案して実行したり、という研究が主になっています。アイデアが本当に新しければ紙と鉛筆で行ったオーダー評価だけで論文を書いたりすることもありますし(理論屋として一番の快感です!)、比較的精密なモデルを作って観測データと詳細に比較することで新しい知見を得るといった研究もします。理論家のなかでも、観測研究者に近い理論家と言ってよいでしょう。

私の信念は、理論と観測(または実験)が車の両輪のようにかみあって初めて科学は発展するというものです。天文学は現在も最新観測データが続々と生み出されて、理論と絡みながら発展し続けている大変魅力的な分野です。