ちぐはぐなリアル
ちぐはぐなリアル
東京藝術大学建築科 学部二年次 前期設計課題作品 / 2015.4~5/ 指導教員(敬称略) 乾久美子、河内一泰
TUA Year 2, Sem.1 / 2015 April-May / Instructor: Assoc. Prof. Kumiko Inui , Mr. Kazuyasu Kouchi
東京の住宅地に、小さな住宅を提案した。
「小説よりも奇」であるはずの現実に、空間を接続することを目指し、白紙の上に描いたような純粋なデザイン手法ではなくて、ありふれた要素を読み替えたり交差させる手法をとった。
住宅地を歩くと、どの家にも共通する要素が見えてくる。レンガ風のタイルや、三角屋根、建物の基礎、、そういったありふれた要素を再解釈することから設計を始めた。 まず道路側には、洋風の外壁を設け、そのペラペラなファサードを少しだけ折り曲げることで居場所を作った。(1920年代の看板建築の薄っぺらさを参照したfig.4) 小屋裏も寝室として読み替えられそうだ。この地区で良く見られた高基礎も再解釈し、内部空間と植木鉢としてみた。 こうしてだいたいの構成が決まると、普通の家のボリュームがくるべき場所は、ぽっかりと残ることになった。(fig. 3)
3. 小鳥の目線から
4. 「看板建築」は、ファサードだけが洋風
そうしたら、「道路から家に入ろうと、玄関の扉をあけてみても、ぽっかり空いた外部空間に出る」、みたいなコミカルなことが起こった。 ある要素を再解釈すると別の要素の意味合いも変わっていくのは面白いなと思いながら設計を進める。 こうして、階段の踊り場を伸ばしてトイレや物干し台をつくったり、屋根のトラスを風景をトリミングするフレームとして再解釈したり、ありふれた要素の持つ意味や働きを変えていった。
5. 階段からの光景
そうした要素を互いに関係させるように設計している。 例えば、キッチンカウンターの下にシャワールームがあって、基礎階はそこだけ天井が高い、ちょっと劇的な場所になっている。屋根階と木造階、基礎、の3つの内部空間は、外階段を介してしか行き来できないが、小さな吹き抜けで繋がっている。(fig. 6 ) 丸い食卓には引き戸と冷蔵庫が貫入している。 ガラスという見えない平面が食卓を内側の欠片と外側の欠片に分割し、自立できなくなった内側の欠片を冷蔵庫が支える(fig. 7)−−こうしてありふれた要素たちがありふれない関係性で交差しあう。
建物を取り囲む環境や文脈にも積極的に応答しながら設計を進めた。 敷地は、正面に広がる新興住宅地と、裏側に広がる木造密集地帯に接していた。(fig. 8) 開発が進む道路からは、階段を登り扉を開けると外部空間がぽっかりと空いているというコメディカルなシークエンスを想定した。 このヴォイドは敷地裏側の木造密集地帯における、風通しや陽当たりの改善、延焼の防止などのはたらきも想定している。 また、木造密集地帯の避難経路として確保されていた狭い路地に向かって、基礎の角を凹ませ、小さなコミュニティのきっかけになることを期待している。
「事実は小説よりも奇なり」と言う。
であれば、創作物である建築はどれくらい現実に迫れるのだろう?
そもそも現実の奇妙さや複雑さを見つめるにはどうしたら良いのだろうか?
こうした疑問に、この制作を通して出会えた。
この制作は大学での一つ目の設計課題であり、建物にまつわる諸条件をスキップした、実験的な提案であるということ、ご理解下さい。
最後に、ご指導頂いた教員の方々と制作を助けてくれた方々に深く感謝します。
課題の第一週目に作った小さな紙の模型