日本のアザミウマ研究おいて,画期的な図鑑,岡島秀治・桝本雅身著「日本原色アザミウマ図鑑」(全国農村教育協会,2022)が出版されている。同書は,日本産のアザミウマ類を網羅するように掲載した図鑑である。アザミウマ類が微細な昆虫で,一般市民にはあまり馴染みがない昆虫であるのに,この大著は昆虫研究における金字塔といえる図鑑である。著者らの膨大な研究成果として本書が出版される大きな意義の一つは,アザミウマ類が,農作物に甚大な被害をもたらす害虫であることに由来する。害虫の防除のためには,まず「敵を知れ」と,本書によって,種の同定,そして,その生態的特性を知ることができる。害虫防除は,当然,容易ではないが,本書によってもたらされる知識や見方が,農作物被害を抑えるヒントとり,対策が明瞭化するはずだ。実際,私たちの研究は,岡島秀治・桝本雅身の両先生の図鑑がなければ,出発できなかった。
このサイトで紹介していくアザミウマ類の生態研究は,害虫学という側面からではなく,「花にいるアザミウマは何をしているのか?」という素朴な疑問からスタートしている。「花と昆虫」という生態的関係においては,従来から,アザミウマ類を送粉昆虫として捉える研究がなされてきた。確かに,一部のアザミウマ類は,送粉も担っている。だが,それは,植物側からのだけの見方だ。生態的相互関係として「花とアザミウマ」を検討するとき,両者の関係を維持する仕組みはいかなるものか?アザミウマ類は,花で,どんな利益を得ているのだろうか?花は,いかなる利益をアザミウマから得ているのだろうか?