ごあいさつ

冒頭から私事ですが、現在の大学に赴任以来、「心理学研究法」という授業を担当しており、その授業で最初に行っているのが、ポパー流の仮説演繹法の説明と「科学的理論とは何か」という問いかけです。この授業の担当以来、自分が論文を書くとき、投稿論文を審査するときに、「理論」を常に意識するようになりました (それまで意識せずに論文を書いたり審査したりしていたのかとツッコミを受けそうですが)。また、私のように思考心理学を専門にしていると、人間がどのように科学的推論を行っているのかも興味の対象になります。そうすると進化の過程で、条件づけで獲得が可能な「法則」に満足せず、どのようにしてその「法則」を説明しようとする「理論」をホモ・サピエンスが求め、構築できるようになったのかなど、疑問は尽きません。


昨年より、世界は新型コロナウイルスという大変な厄災に見舞われ、日本も例外ではありません。感染で亡くなられた方々には心からお悔やみ申し上げ、また経済活動の制限によって著しい困難に追い込まれた方々には苦境を拝察する次第です。心理学に携わる私たちも、行動が随分と制限されて、なかなか研究活動や実験等ができません。私たちは、これまでの研究から理論のどのような面がまだ検証されていないかなどを考えながら実験や調査を計画しますが、その実験・調査を自由にできないことが続いております。しかし、すでにその理論を検証した膨大なデータがあるならば、それを丹念に検討すれば、ひょっとしたら実験をしなくても新しい理論が出来上がる可能性があります。今こそ思弁的活動によって理論を発展させるときなのかもしれません。言い古された例ですが、ニュートンが万有引力の法則を考えたのも、ペストのパンデミック中でした。


学会もなかなか対面で行うことができません。現時点で対面とオンライン両方のハイブリッドで行う予定ですが、感染状況が悪化すればオンラインのみと考えております。ワクチン接種がすすみ、感染リスクが大きく下がって、多くの方々に晩秋のなにわにお越しいただければと心から願っております。


20216吉日

第67回大会準備委員会

準備委員長 山 祐嗣 (大阪市立大学)