現在の暗号研究は多岐にわたっています.一言で暗号の研究といっても,暗号の材料になる数学的構造を見つける研究,暗号技術の安全性証明についての研究,暗号技術のソフトウェア・ハードウェア実装の研究,実装された暗号技術の評価の研究,暗号技術を組み合わせた情報システムの研究,さらには,暗号技術に関する教育や心理学の研究など多様です.
本研究室は理論計算機科学 (Theoretical Computer Science)とよばれる学問の大枠から暗号を研究します.理論計算機科学は,計算や情報の表現・処理・伝達を数学的にモデル化し,その性質や限界を厳密に解析・証明する学問分野です.本研究室では暗号技術の安全性を数学的に定式化し安全性を証明します.数学的な議論が中心のため,プログラミングをすることはあまりありません.数理論理(量化子∀と∃),線形代数,代数,整数論,確率の基本的な知識,アルゴリズム理論や計算量理論の手法を駆使して研究を進めます.
本研究では毎週の研究ディスカッションにより研究活動を進めます.また,研究ディスカッションに加え,毎週のセミナーで理論計算機科学の基礎を学びます
本研究室の研究ディスカッションの指導方針は学部生と大学院生で異なります.
学部生の研究ディスカッションの指導方針について
研究ディスカッションでは,教員側から暗号理論に関するトピックを紹介します.関連する書籍や論文の内容を発表や討論しながら,研究テーマを決めて研究を進めます.学部生の研究テーマについては暗号以外であっても,互いに興味がもてるテーマであれば選んでも構いません.教員側の興味は暗号理論以外には計算量理論やアルゴリズム理論であるので,これらの分野に関連するトピックがテーマの候補として挙げられます.
大学院生の研究ディスカッションの指導方針について
大学院では主体的な研究活動が求められます.本研究室では大学院生の研究テーマに関しては自身で見つけることとします.自分なりの研究テーマを見つけて研究すること期待します.研究を進めるために必要な理論計算機科学の知識(暗号理論,アルゴリズム理論,計算量理論,情報理論など)についても必要に応じて各自で習得する必要があります.これらの知識習得に関しては個別には指導しませんが,本研究室では理論計算機科学の基礎を学ぶするセミナーを開催する予定です.
本研究室のセミナー参加については,学部で就職を希望する学生については任意とします.大学院進学希望者の学部生と大学院生は毎週の参加が原則です.
セミナーの方針について
暗号理論は数学に加え,アルゴリズム理論や計算量理論など理論計算機科学を土台に議論されます.本研究室では大学院進学希望者の学部生と大学院生については,週一回の輪講形式のセミナーを通してアルゴリズム理論や計算理論などの理論計算機科学の基礎知識を習得を目指します.
アルゴリズム理論については,アルゴリズムの正当性の証明や計算量解析の手法の習得を目指します.正当性に関しては直感的に正当性を満たすというレベルでなく,厳密に正当性を証明できることを目標とします.また,計算量の解析では漸近記法の定義を厳密に理解し,時間計算量を評価できることを目標にします.正当性の解析,漸近的計算量の解析は暗号理論の議論でも用いられます.
計算理論についてはオートマトン,計算可能性理論,計算量理論の知識習得を目指します.計算理論でオートマトンやチューリング機械などの計算機モデルを学ぶことで,計算機モデルの計算能力の感覚を身につけます.暗号理論の分野によっては,計算機モデル(チューリング機械や回路族)の違いを意識しなければならない場面に出くわすことがあります.また,計算量理論でも用いられる多項式時間帰着とよばれる手法を利用して,計算問題の下界を導く技術を習得します.暗号が破れないことを証明することは,暗号を破るために必要な時間の下界を与えることで証明できます.
セミナーで用いる文献の候補
セミナーで用いる文献の候補として次が挙げられます.
アルゴリズム理論
アルゴリズムイントロダクション 第4版 T.コルメン,C.ライザーソン,R.リベスト,C.シュタイン(著) 近代科学者
計算理論
計算理論の基礎 原著第3版 1 オートマトン理論 Michael Sipser(著) 共立出版
計算理論の基礎 原著第3版 2 計算可能性の理論 Michael Sipser(著) 共立出版
計算理論の基礎 原著第3版 3 複雑さの理論 Michael Sipser(著) 共立出版
総合理学実習,卒業研究,大学院での配属を志望される方へ,研究室配属を希望する際に留意していただきたいことについてそれぞれ説明します.
総合理学実習では暗号理論に関するテキストを輪講し,暗号技術における安全性モデルとその安全性証明について理解を深めます. 輪講では,事前にテキストを予習し,その内容を参加者に説明します.説明の際には教科書やノートを見ても構いません.研究室の実習における輪講で用いる専門書の候補としては次が挙げられます.
現代暗号への招待 ライブラリ 情報学コア・テキスト16 黒澤 馨(著) サイエンス社
暗号について扱ったセキュリティ関係の書籍はたくさんありますが,暗号技術の安全性証明を扱う書籍は多くはありません.総合理学実習で読む上記の書籍は,暗号技術の安全性証明を扱う入門的な教科書です.まずはこの書籍の輪講を通して,本研究室の適性を判断してみてください.
学部生で研究室配属を希望する方は,総合理学実習を通して暗号理論の雰囲気を把握することをおすすめします.また,本研究室の研究室実習に参加できなかった方も,研究室実習で使用した暗号理論のテキストをご一読されることをおすすめします.研究内容の詳細や雰囲気を知りたい方はぜひ連絡してください.
本研究室を配属希望希望の方は下記科目の履修を推奨します.
線形代数学I・線形代数学II・統計学B・数学序論・離散数学・代数学I・代数学II・情報数学B
上記の科目を履修していない場合でも,数学に苦手意識がなければ問題ありません.
本研究室では計算量理論の手法を用いて暗号にアプローチし,公開鍵暗号技術の理論研究を中心に行なっています.下記の書籍は,和書の中で当研究室で行っている研究内容に最も近い和書です.
暗号理論入門 安永 憲司(著) 森北出版
公開鍵暗号の数理(シリーズ応用数学2) 森山 大輔,西巻 陵,岡本 龍明(著) 共立出版
大学院で配属希望を希望される方は,これらの書籍のいずれかをご一読され,暗号技術の安全性証明がどのように行われるかの雰囲気を把握されることをお勧めします.書籍の内容に興味がもてる方であれば,当研究室の研究の方向性に適応できる可能性があります.
本研究室の指導方針をご理解いただいたうえで,大学院における研究室配属を希望される方を歓迎いたします.大学院で本研究室を志望される方は出願前に必ずお問い合わせください.