特別インタビュー①

社会福祉法人多摩棕櫚亭協会 当事者グループSPJのみなさま ~


座談会「私たちの働く、暮らす、生きる」

 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会の利用を通して、現在働く当事者のグループSPJを運営している事務局のおふた方と法人理事長の小林由美子さんに、多摩棕櫚亭協会の就労移行支援事業所ピアスでお話を伺いました。多摩棕櫚亭協会は主に精神障害を持つ方々への就労・生活支援を行っている法人です。SPJはS(棕櫚亭)P(ピア)J(事務局)の略称です。病をオープン(障害者雇用)にして就労されている6名の方が中心メンバーで、毎月土曜日茶話会を開いて職場の悩みなどを語り合っているとのことです。今日はメンバーのおふたりを中心に、働きながら日ごろ感じていることを語っていただきました。


司会)今日はピアスにお招きいただきありがとうございます。まずはお二人はどの様な仕事をしていますか?

Nさん)私は一般企業で清掃の仕事をしています。二度目の就労で今の職場は働いてから10年になります。掃除場所は大きな本社ビルですが、細かい事を言われないので自分なりの気遣いや工夫がしやすい職場です。

Sさん)8年前、社会事業大学でPSWの資格を取り、縁あって多摩棕櫚亭協会に週3日非常勤で採用されました。3年ほど前から常勤職員となりました。

司会)ところで7年ほど前に障害者権利条約が批准されて、健常者を中心とした社会の側がその意味を問われています。条約には精神医療の強制治療の廃止も書かれてあり、最近は日弁連も強制医療廃止の決議を上げました。その事についてお二人はどう思われますか?

Sさん)僕は強制入院になった10代の頃の記憶がずーっとトラウマになった時期がありました。その頃のことは思い出すと辛いものがあります。

Nさん)私は具合が悪いことは自分でわかっていたので任意入院ということで、強制入院は経験してないです。

司会)私の勤める施設で水を飲み過ぎて命の危険がある人がいて、強制入院の手続きを取ったことがあります。権利条約を語りながら強制入院をさせてしまったという複雑な思いがありました。

Sさん)でも本人自身が認めなくても必要だったら入院を進めざるを得ないこともありますよね。命に関わることなのでそういう時に必要なんですね。あらためて強制入院に対して考えをあらたにしました。

司会)それではここからはおふたりに社会が何を配慮したらよいのか、働かれている当事者の立場からお話を伺いたいと思います。まずお二人は障害者雇用枠で働かれているのですか?

Nさん)障害者雇用枠で1日6時間、週5日勤務の30時間勤務です。オープン※で働いています。(※障害を職場に開示すること。)

Sさん)僕も障害者雇用でオープンです。週5日のフルタイムで40時間働いています。

司会)障害者雇用の拡大も求められていますが、実際、福祉施設でもあまり障害者雇用が進んでいない現状があるように感じられます。東社協知的発達障害部会の中でも、障害者雇用をどう進めていくかという議論は今のところありません。

Nさん)進められない原因があるのですか?

司会)施設では障害者就労の職員の知識がないままに障害者雇用の話が出てきて、進まなかったんです。

Nさん)毎日働いていて、どうやって一緒に働いたらいいかは見えてこなかったのでしょうか?

司会)そうですね。法人の方針もはっきりしていませんでした。多摩棕櫚亭協会では組織的な議論の上で障害者雇用を進められたのでしょうか?

小林さん)多摩棕櫚亭協会は就労支援をしている法人です。企業にお願いするだけでなく私たちも雇用していこうと、精神保健福祉士の資格を取られたSさんを雇用しました。法人にとって初めての経験で、Sさんと一緒に作っていった感じです。週3日から初めて少しずつ日数を増やしました。お休みを取りやすくしたり時間を短くしたり、かなり個別的な対応をしました。

Nさん)私は棕櫚亭の就労移行支援事業所ピアスを通して就労した仲間3名と一緒に働いています。会社の中で障害者の清掃担当グループという形で会社に認めてもらっています。障害を持たない社員と一緒に働いているという感じではないですが、一般社員とはいい距離感を持って働けていると思います。会社には事務にも障害者雇用の人がいます。会社はどうしても利益優先で儲ける人が偉いという価値観ですから、私たちがその行き過ぎにブレーキをかけることができればバランスが取れると思います。

小林さん)Nさんの会社は自分のペースを大切にしながら働くことが出来る清掃部門と、将来、正社員登用が準備されている事務部門があります。Nさんは社会活動に参加したり自分らしい生活を送るために、今の働き方を選択されています。

Nさん)週40時間の正社員をゴールにしなくても、自分らしく生きればいいと思っています。ただ働く上で障害年金がもらいにくい形になっています。そのあたりを国がどうするか企業がどうするかちゃんとしていかないと、働く当事者はとても困ります。

Sさん)僕は障害者を雇うことがむしろ企業の利益になっていくと思っています。今は多様性という考えが求められているので、障害者が職場に入ることで人との接し方が変わって、障害者に接するよう、一般社員もお互いに気遣える。そんな柔らかい人間関係を結ぶことにも役立っているように思います。もちろん経営側が求める仕事力みたいなものは身につけないと思います。働く側と経営する側で、その要求度の落としどころを探していく、そんなことも必要だと思います。高齢の家族の世話など生活上への配慮をしてもらうことも、とても助かっています。今まで僕らが「休んではいけない」と思っていたことを、「休んでいいよ」と許してくれる会社の理解が進めば、もっと障害者雇用がすすむと思います。雇用の方法もより働きやすい職場になるかとも思います。

司会) ユニバーサルデザインがそうですね。今は障害者の視点が入って誰もが使いやすい商品でなければ利益にならない時代とも思います。職場に自閉症の方が実習で来られたのですが、障害理解のためのどんな研修を受けるよりも、一緒に働く中で自閉症の方がこういうことに困っているのだということを理解できてとてもいい経験をしました。その時、障害福祉の仕事も障害当事者の視点が入ることで支援の質が上がるんだと思います。

Sさん)棕櫚亭には叱責せずに気づかせてくれる独特の雰囲気があります。後で考えて「この問題はほかのスタッフに相談し、一緒に解決すれば良かった」と気づかされることがありました。叱責されると怒られた記憶だけが残るんですが、そういう雰囲気があると、よく頭で理解できます

Nさん)私は上司と一緒に働くことはないのですが、当事者の3人の仲間で話し合っています。

小林さん)Nさんはじめ3人は会社に頼りにされているんですよ。こうやってきちんと当事者の方々を会社の戦力として雇用していく事が大切だと思います。一般の障害者雇用の場合、数合わせで雇っている会社もあります。こうやって皆さんの支援をしていると本当に会社が当事者たちを頼りにして雇用しているのかが分かりますね。会社によっては障害者雇用を現場に丸投げするところもありますが、棕櫚亭では現場の施設長や副施設長に任せきりにせず、法人本部として私も関わるなど複数体制で当事者雇用に関わっています。

司会)これから福祉施設で雇用をすすめていく点で、そのあたりのことがヒントになるかもしれませんね。ところでSPJの活動をみんなねっとの全国大会で発表なさったとのことで、その話も少しお聞かせください。

Nさん)10月8日に行われたのですが、分科会テーマは「精神疾患からの回復をどう支援するか~就労支援を通して~」でした。Sさんと2人で発表しました。私は発病から回復していった過程や、会社での同僚の関係が良くなったことや、就労継続のためにSPJの活動が役立っていることを話しました。

Sさん)僕はどうやって病気を克服していったか3つのポイント(薬、人との出会い、リカバリープログラム)について、就職と回復が車の両輪であることなどを話しました。

司会)コロナの流行で多くの女性の非正規労働者が解雇されたそうです。障害者の方も非正規雇用の方が多いと思いますが、コロナの影響についての話はありましたか?

Nさん)全国大会ではありませんでした。個人的には勤務日が週4日になったり、週3日になったりで仕事の調整が大変で、また週5勤務に戻った時はリズム作りが大変でした。

Sさん)棕櫚亭では地域活動支援センターなびぃでもフリースペースの利用が制限されていたのですが、電話応対は続けていました。電話でストレスを解消してもらっていたようです。特に解雇という話は聞いていません。

小林さん)ただ棕櫚亭の障害者就業・生活支援センターオープナーでは、自宅待機で家族との関係がストレスになった利用者さんもいたようです。影響の大きかった飲食店で働く人は自宅待機で次を探していいと告げられたり、就活では実習先がなくなったり、ハローワークの合同面接会が中止になったりと、障害者雇用に関してコロナの影響はけっこうあります。

司会)障害者権利条約27条には、障害者が労働組合活動に参加することを保障するとあります。就労支援は当事者にとっては労働問題なので、労働組合とか労働法を支援者が広く理解してほしいと思っています。組合があるかないかというより、支援者に労働組合への理解があれば、当事者が職場で色々と困った時に地域の労働組合に相談することを勧めることもできると思うのです。では最後にみなさんの夢を教えてください。

Sさん)棕櫚亭の中にピアの部屋を作ってピア活動をしたいと思っています。将来的には家族支援をしたり、地域の「ぱらふらっと」いう自閉症の団体や、依存症の会の活動などSPJの活動をやりながら地域での活動をしていきたいと思っています。

Nさん)今日、この会で話して、働きながら発信することをやっていこうと思いました。両親の老いと病にエネルギーを注ぎながらも、私生活の充実などバランスを取りながら生きていきたい。生きていて楽しいと思えるようになりました。

Sさん)薬が強い頃はボーとしていたけど、今は感覚がだんだんしっかりしてきて小さなことでも幸せを感じられるようになったんです。あと、就労したことも生きているのが楽しいことにつながっています。

小林さん)こういう彼らの内的な実感を話してもらうことが大切だと思います。そんな場を作っていくのが私の仕事でもあるので、そんなステージを用意したい。棕櫚亭はそんな場所でありたいと思っています。

司会)今日はありがとうございました。知的発達障害部会・利用者支援研究会では高齢福祉との連携が始まっています。また東社協では障害種別や、高齢・障害の別を超えた支援のあり方が模索されています。精神障害福祉の事業所で当事者の方、理事長のお話を聞けてとても良い機会でした。これからも障害種別の垣根を越えて交流していきたいと思っています。よろしくお願いいたします。


☆インタビューを引き受けていただきありがとうございました。今回の当事者の方の声を聴く機会は、とても貴重な体験となりました。“誰かの声を聴く人が必ずいる社会”になって欲しいと改めて感じました。

☆職業生活、所得保障、障害当事者活動、就労支援、障害者雇用等々、様々な事柄についてお話を聞かせていただきました。それぞれが深いテーマです。ぜひまたお話を聞かせてほしいと思いました。


(聞き手利用者支援研究会会長 菅藤 将、保健医療スタッフ会代表幹事 林 武文)