第2回
飯舘村「ごちゃまぜIPE」ワークショップ
(2018.06.23-24)
(2018.06.23-24)
福島県の浜通り(相双地域)に位置し、人口 6000 程の畜産業や農業を主要産業とする自然豊かな村であった飯舘村。ところが、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故の影響により、村全域に避難指示が出され、全村民が避難を余儀なくされました。
避難指示発令から約 6 年後の 2017 年 3 月 31 日に避難指示が解除され、飯舘村は復興・再生への歩みを始めました。しかし、6 年を経過してもなお原子力発電所事故の影響は大きく、避難指示解除 1 年後の現在(※2018 年 6 月)も、回復傾向にあるとはいえ村民の帰村率は15%程度となっています。帰村した村民の大部分が高齢者であり、復興・再生に向けた人材不足も深刻な課題です。
そこで、今回のワークショップでは前回のワークショップ(2017 年 11 月)の反省点も踏まえつつ、「村を 10 倍元気にする方法」をテーマに医学・看護・福祉・心理などを学ぶ学生が 6 グループに分かれ、お互いの考えを出し合いながら議論を重ね「飯舘村を 10 倍元気にする方法」を各グループそれぞれが提案することを目的としました。
1 日目(6 月 23 日(土))
◎ワークショップガイダンス
福島駅集合後に福島民報へ移動し、住友和弘先生が今回のワークショップに関するガイダンスを行いました。前回までのワークショップとは異なり、今回のワークショップからは 1 つの「テーマ」(以下、大テーマ)を設定し、その大テーマを実現するための施策を 6 グループにわかれて議論し、発表・提案。その際、各グループの発表・提案内容が重ならないようアプローチ領域(以下、小テーマ)を与えるとのこと。発表・提案後、各グループの発表・提案に対して質疑応答を設けることで、各グループの発表・提案内容をより深化したものにしていく狙いがあるそうです。
大テーマ:「村を 10 倍元気にする方法」
小テーマ:
1. 身体の健康増進(栄養面・運動面)
2. 心理面の健康増進(ポジティブシンキング・習慣)
3. イベント・交流(村内外・リアル&バーチャル)
4. 子どもたちの育成
5. 住環境改善
6. 雇用創造
◎「道の駅 までい館」、「草野・飯樋・白石小学校・飯舘中学校」見学
ワークショップガイダンス後、「道の駅 までい館」と「草野・飯樋・白石小学校・飯舘中学校」を見学しました。
「道の駅 までい館」は、2017 年 8 月に飯舘村復興のシンボルとして開設されました。村民や村外からの観光客の交流や憩いの場として利用されることが期待され、実際に様々なイベントが開催されています。施設の中には、飯舘村産の野菜や米,花などの農産物販売所やセブンイレブンが入っており、農産物の放射線測定器も完備されています。(写真は「道の駅 までい館」の外観)
「草野・飯樋・白石小学校・飯舘中学校」は、避難指示解除後 1 年が経過した 2018 年 4 月より新たにスタートしました。敷地内に認定子ども園も併設し、0 歳から 15 歳まで一貫した教育を行うことが特徴です。また、校舎内には食育プラザと名付けられた給食センターがあり、給食がつくられる過程を実際に見学することができます。ただ、依然として放射線に対する不安も残ることから、認定子ども園と小中学校に通っている子どもは多くはないのが現状です。(写真は校舎の外観)
◎いいたてホーム訪問
いいたてホームは避難指示が発令された当時、入所者を避難させるのではなく、施設で の介護を継続することを選びました。避難させなかったことで一部のマスコミ等から批判を受けることもありましたが、避難による入所者の負担を考慮したうえでの勇気ある決断でした。避難指示後もホームの職員の協力のもと、避難指示解除までの期間介護を継続することができました。
避難指示解除後の現在、いいたてホームの課題は介護職員の確保にあります。震災以前から職員不足が課題ではありましたが、震災・原子力発電所事故をうけての若年層の村外流出などが職員不足にさらに拍車をかけることとなりました。しかし、施設側も職員募集を全国規模で行うなど精力的に活動した結果、職員不足もある程度改善傾向がみられるようです。
飯舘村の復興にとって、いいたてホームの維持は重要です。今回の参加者のなかには介護を学ぶ学生もいたので、今後は実習受け入れ等の交流が図られることを期待したいです。
◎福島民報 浜通り創生局長 早川 正也氏 講演
早川氏からは、飯舘村の現状ならびに展望、今後も続く避難指示解除で各自治体がどのような課題を抱えるのかについてお話いただきました。本講演におけるお話には、「ごちゃまぜワークショップ」を今後も継続していくヒントになるものが多く含まれています。以下にその概要をまとめます。(※音声データより一部抜粋)
住民の帰還に時間を要する原因としては、個人的な要因と社会的な要因がある。個人的な要因には、放射線や原発への不安だけでなく生業の喪失,賠償・支援制度の問題,家庭の事情などがあり、これらは複雑で類型化できない。社会的な要因には、崩壊した生活圏・経済圏の再建が必要などの地勢も絡んだ特有の事情がある。しかし、2015 年 9 月に避難指示が解除された楢葉町(居住者数が 2017 年→2018 年で 818 人→2929 人に増加)を例にとれば、飯舘村も住民の帰還について楽観はできないが絶望的ではない。ただ、住民の帰還を阻む「第 2 の壁」として、急速に進む高齢化と震災・原発事故が立ちふさがることは考慮しなければならない(※「第 2 の壁」は“時間を 20 年先に進めた”との比喩あり)。この「第 2 の壁」の影響で、今後の日本で起こりうる「地方の問題」が避難指示解除自治体の目の前に迫っている。「地方の問題」とはすなわち、“地域を支えるマンパワーの不足” と“行政依存”である。この「地方の問題」を解決するためには、「第 2 の壁」をいかにクリアできるかに懸かっている。
では、どのようにすれば「第 2 の壁」をクリアすることができるのか。そこには 3 つの課題、“復興施策の見直し”,“被災地から国を動かす:「トップダウンからボトムアップへ」”,“必要な人材の育成・確保”がある。特に“復興施策の見直し”においては、復興施策が抱える問題点(「ハコもの」のばらまきなど)を解決する施策,すなわち“夢と現実”・“今と未来”・“人と人”を「つなぐ」施策が必要であるといえる。「夢と現実をつなぐ施策」とは被災地の課題解決にフォーカスをあてることであり、「今と未来をつなぐ施策」とは復興需要を生かして地域経済を再生させることであり、「人と人をつなぐ施策」とは高等教育機関で地元と企業を結ぶ(=若者を育む)ことである。これら 3 つの「つなぐ」施策を実行することが、自治体の抱える課題を解決へと導くのではないか。
2 日目(6 月 24 日(日))
◎グループワーク
住民参加型のグループワークを A,B,C,D,E,F の 6 つのグループにわかれて行いました。各グループとも「飯舘村を 10 倍元気にする方法」を大テーマに、6 つの小テーマに沿ってそれぞれの提案をまとめ発表しました。
◇A 班:「子どもたちの育成」
A 班は「子どもたちの育成」を小テーマに「出張寺子屋」企画を提案しました。若者世代の帰還が進まない飯舘村では、認定子ども園や小中学校に通う子どもたちが高校生や大学生と触れ合う機会がありません。そこでA 班では学生だからこそ出来ることを重要視し、福島県内の高校生や大学生だけでなく、福島県外の高校生や大学生も積極的に活用し、飯舘村内の子どもと県内・県外の高校生や大学生の相互交流を目指すことを提案しました。
◇B 班:「身体の健康増進」
B 班は「身体の健康増進」を小テーマに、「健康 G メン育成計画」を提案しました。飯舘村は、メタボリックシンドロームや肥満,高血圧に該当する住民の割合が、県内の各自治体と比較して高い傾向にあります。そこで、医療・福祉系の大学生や専門学生のボランティアによる住民参加型の「健康」に関するイベントを行い、そこで得た情報をもとに子どもたちにポスターを作成してもらいそのポスターを各家庭に配布します。その際、ボランティア学生による抜き打ち健康チェックを実施。B 班の提案した「健康 G メン育成計画」は、このような活動を通して子どもと大人の双方の健康増進への意識を高めていくことを目的としています。
◇C 班:「イベント・交流」
C 班は「イベント・交流」を小テーマに、飯舘村の活性化につながる提案を行いました。飯舘村では現在でも様々なイベントが行われています。しかし住民の中には、「イベントの情報を知らない」、「参加する意志があっても交通手段がない」等の理由でイベントに参加できない住民の方も多いようです。そこで C 班は、住民とのお話を参考に、イベントを開催する上でPR 方法を見直すことや村民のイベントに対するニーズ見直すといった改善方法を提案しました。無理にイベントを新設するのではなく、まずは既存のイベントをより良くすることが大切であるという意見を出しました。
◇D 班:「住環境改善」
D 班は「住環境改善」を小テーマに、4 つの問題点を挙げそれぞれについての改善方法を提案しました。D 班が挙げた問題点には「医療・介護」、「交通」、「教育」、「人とのつながり」があり、それぞれに特有の改善方法を提案しました。また、最後に村民の考える問題点(商業施設がない、放射線や風評被害など)も挙げ、そこから今すぐに出来ることとして、「信頼できる人が定期的に自宅訪問」、「放射線に関する正しい知識の習得・啓蒙」といったことも提案しました。
◇E 班:「心理面の健康増進」
E 班は、「心理面からの健康増進」を小テーマに学生が飯舘村にどのようにアプローチすれば村民が元気になるかを考え、その方法を提案しました。初めに村内を見学して感じたことをまとめ、そこから「まずは村民が元気になろう」の考えのもと、学生がどのように村や村民にアプローチしていけばよいかを住民とのお話を参考に議論し、その結果を提案しました。
◇F 班:「雇用創造」
F 班の小テーマである「雇用創造」は、6 つの小テーマの中で最も難しいテーマでしたが、村内の見学や住民との話し合いの結果をもとに、医療福祉,特に介護に関する議論をまとめ、それを提案として発表しました。
今回の「第 2 回飯舘村ごちゃまぜワークショップ」は、医学・看護の学生だけでなく、介護や心理,栄養を学ぶ学生も参加したため、前回と比較して内容はより濃いものになりました。しかし、村主催のイベントと日程が重なってしまい、住民の参加率は想定していたよりも悪い結果となってしまったようです。
「ごちゃまぜワークショップ」とは、避難解除後の飯舘村をどのように復興へと加速させるのかを学生の視点から考える、いわば学生と住民が主体となる企画です。しかしその企画の成功には、住民の協力はもちろん、行政の協力も欠かせません。次回以降、こういった行政間の連携不足によるイベントの重複などが起きないことを願うばかりです。
プレ・ワークショップから数えて 3 回目を迎えた「ごちゃまぜワークショップ」も、今後の方向性は未だ不明瞭な点が多いように感じます。ただ、「飯舘村を少しでも復興へ」という思いは、これまでの参加者も含めてこの企画に関与する全ての関係者の共通認識です。今後もこの思いを参加者全員で持ち続けて、「ごちゃまぜワークショップ」がより良い企画となり、飯舘村復興へのきっかけとなることを期待したいと思います。