不安障害でお困りの方へ
不安とは?
大辞泉によると不安は、
これから起こる事態に対する恐れから、気持ちが落ち着かない様
であるとしています。
脳は
未知なる状況
コントロールを失う
状況を知覚すると、不安という反応をするのです。
未知なる状況とは、
何が起こるのかはっきりわからない
不確定要素が存在している
状況です。
人は不安に対処するために、
自分の言動
他人の言動
環境
をコントロールして、平常心を取り戻そうとするのです。
様々な理由で、この不安が過剰反応することがあります。
不安の過剰反応は、思考と行動を極端化させます。
不安症全般に渡り、このような不安対処の悪循環が見られるのが一つの特徴です。
詳しくは下の動画をご覧ください。
人前で話すことが不安(社交不安症)
社交不安障害(Social anxiety disorder、以下SAD)は、
人前で話すことでの評価を極度に恐れる
その内容が社会的文脈に釣り合わない
常に回避や忍耐を強いられる
状態を指します。
50~80%の社交不安症を持つ人は、他の不安症、大うつ病性障害、物質使用障害が併存しているという説や、SADがうつ病に先行して発症する例もあります。
Hofmannらは、SADを持つ人は、他者からの要求水準があまりに高く、それに達しない自分を批判する傾向があるとしています。
その背景には、自分を現実よりもよく見せたいという欲求があったりもします。
また、
不安な感覚や自分の言動にばかりに注意が向く
ポジティブな情報(例:聴衆の中にうなづいて聞いている人がいる)を見過ごす
ことで、より不安になるという悪循環を指摘しています (Hofmann et al., 2007) 。
人から評価される、見られているという感覚は、自分を聞き手よりも下の位置に置くことになります。
自分が相手を観察する側になること、自分の「イケていない部分」以外を見ることなども必要です。
心理療法は、ビデオフィードバック(実際に話している場面を録画し、自己評価と話しぶりが一致するかを検証する)に効果があるとの報告があります。
自分の話ぶりは、客観視するのが難しいので、録音や録画(多くの人はいやだと思いますが)をしてみて、自分の想像より良い部分、悪い部分を見直してみるということです。
何もかもが不安(全般性不安症)
全般性障害(Generalized Anxiety Disorder、以下GAD)とは、
仕事、家族、経済など、広範囲に過剰な不安が1日の半分以上ある
それが6ヶ月間続く
不安を制御できない困惑が生活に支障を来している
状態を指します。
Wellsは、GADを持つ人は、過剰な不安に辛さを感じつつも、
心配しなかったらもっと嫌なことが起きるのではないか
心配しているから、恐れていることが起きても驚かずに済む
と考える傾向があるとしています。この心配が新たな不安を産み、心配を続けてさらに不安が継続していくことが悪循環であると言われています (Wells et al., 1999)。
心理療法においては、
心配が役に立っているのかを検証
注意を不安からそらす注意トレーニング
身体的緊張を緩和するリラクセーション
が有効であるとされています。
一番受け入れがたいこと、最悪なことを書き出したり、言葉にして見ると、意外と冷静になったり、考えすぎだったことに気づいたりします。
不安な感覚に耐えられない(パニック症)
パニック症とは、
パニック発作を経験した後に、一ヶ月以上にわたり発作が起こることへの不安(予期不安)
またはパニック発作を原因とする行動の変化が継続している
状態を指します。
パニック発作とは、
動悸
呼吸苦
めまい
胸痛
発汗
気が遠くなる感覚
などを伴います。
一般的には、パニック発作のピークは10分ほどであり、30分ほどで消沈することが多いです。
パニック症にはうつ病との併存率も高く、GAD、SAD、OCDとの併存する場合があります(Myers et al., 1984)。
Salkovskisによると、パニック症を持つ人にある悪循環は、
呼吸できない苦しさに不安を感じる(例えば、死んでしまうのではないか?などの考え)
それがさらなる発作を産む
結果的として不安が増大していく
ことだとしています (Gelder et al., 1993)。
Andrewsは
以前の発作の感覚に似ている
発作をコントロールできない
と考えることで、
実際に不安や発作が起こる
結果的に「コントロールできない」という考えが上塗りされていく
悪循環を指摘しています (Andrew et al., 1998)。
動悸や過呼吸をパニック発作とは思わず、内科、循環器科を受診し、器質的異常が発見されず、精神科や心療内科に紹介される方もいます。
回復するためには、
パニック発作は危険ではない
これまでに回避していた状況を把握する
不快な身体感覚に直面する練習をする
自然に発作(不安)が消沈する経験をする
などをしていきます。
認知行動療法における不安
認知行動療法では、不安や症状をどう解釈するかを「考え」、心のアラームとしての「感情」、感情と連動して反応する「身体」、アラームと止める手段を「行動」と捉えます。イラスト:新明一星
身体:闘争逃走反応
不安は、目の前にある問題をいち早く解決させるために、
運動機能高めるための筋緊張
呼吸量の増加
いてもたってもられない感覚(動悸、熱感、そわそわ、むずむず感)
などの感覚をもたらします。
もし、目の前から火の手が登ったとすると、
火を消すのか
逃げるのか
を瞬時に判断しないと、命の危険や建物を失う可能性があります。
このように、戦うのか、逃げるのかを即決することを、
闘争逃走反応 (fight or fright response)
と呼びます。
このような不安の症状は、様々な身体疾患の症状と重複します。
認知:「もし、かも、どうしよう?」
不安の背景には、きっかけとなる思考(考え)があります。
もし
かも、
どうしよう
などは、不安を引き起こす典型的な考えです。
もし、取り返しがつかないことが起こったらどうしよう?
きっと嫌われてしまうかもしれない
と考え、不安になり、落ち着かなくなる経験は、誰にでもあることだと思います。
不安に付随する考えは、多くの場合、抽象的であり、非現実的であることも少なくありません。
行動:特徴的な行動パターン:戦うか、逃げるか?
人は不安を減らすために、
状況をコントロールする
逃げる
何もせず放置する
を選択しています。
具体的には、
不安の原因を明らかにすべくインターネットを調べつくす
人前であがらないためにスピーチの練習を繰り返す
不安でいることを悟られないように平常心を装う
などが例としてあげられます。
これらが即、害となるわけではありません。
過剰に完璧に不安をコントロールしようとすると、
余計に不安に意識が向く
逆にストレスが強まる
ので、結果的には不安が強まるという悪循環が生じます。
認知行動療法での不安の捉え方
曝露療法は、あえて普段は避けている不安に向き合います。
不安に耐える力を身につけていくトレーニングです。
CBTにおいては不安症、強迫性障害、PTSDなどにも用いられています。
不安に曝露するメリットは、
自ら能動的に不安に直面していくと自然に不安が軽減していく経験ができる(馴化)
不安に向き合っても恐れている事象が発生しない経験をできる(制止学習)
ことです。
不安に効率よく向き合っていくには、曝露療法を継続することが重要です。
あまりに弱すぎる不安では、不安になれる練習にならない
あまりに強すぎる不安では、圧倒されてしまい不安をしっかりと経験できない
その日限りで中断すると、結局不安には向き合えないという考えを強めることになる
不安は心痛なものですから、曝露療法は辛いものというイメージが先行しています。
曝露療法がポジティブな経験になるように計画をしていくことが大切です。
不安は、新しいこと、普段と違う行動を取るときにも生じます。
治療し、症状が改善した後でも応用できる方法です。