都市計画などへの適用を視野に入れて、様々な都市現象やそれに関わる人々の行動・意識の分析を扱って研究をしています。

方法論としては、GIS(地理情報システム)による空間データの視覚化・分析や、アンケート等の社会調査から得られたデータを統計的手法により分析するなど、定量的な根拠に基づくものが中心です。


都市空間におけるモノ・コト・ヒト等にかかわる情報・データを活用した定量的に分析によるエビデンスを大切に考え、得られた結果を、今後の都市計画・まちづくりに研究結果を役立てていきたいと思って研究しています。

ここでは、私がメインとなって進めている研究についてご紹介します。

■ 買い物弱者問題 | Disadvantaged  Shoppers' Problems

近年、地域の高齢化や店舗数の減少等が要因となり、買い物に不便や困難を感じる人々が地域で増加する「買い物弱者」の問題が各地で進行しています。

特に、十分な食料品を入手・購入する事が出来ず、十分な量や栄養価の食品が摂取できずに、健康被害に繋がってしまう問題はフードデザート問題(FDs)問題とも呼ばれます。

この買い物弱者問題に着目し、「買い物弱者になるのはどのような人々か?」、「地域における買い物弱者の状況は?」、「既存の対策は、地域の問題の解決に向けてどのような効果を果たしているか?」といった観点からの研究を行っています。

これまでの買い物弱者問題では、「店舗までの距離」を指標として、「店舗までの距離が遠い人々≒買い物弱者」と考えられてきましたが、それ以外にも買い物弱者を買い物弱者たらしめる要因は他にも様々あると考えています。

そこで、店舗までの距離のみにとらわれず、多面的な観点から、地域の買い物弱者問題の評価を行ったり、その評価ための方法の開発等の研究を行っています。

買い物弱者研究1: アンケート調査による買い物弱者問題の調査

地域住民の方々の日常の買い物行動の様子や、ご自身の周りの買い物環境に対する評価について訊ねるアンケート調査を多数の地域で実施しています。

その地域には、どのような種類の買い物弱者にあたる方がいるのか、その様な買い物弱者にあたる人はどのような属性の人々なのか、どんな買い物環境がその要因になっているのかを中心に分析しています。

さらには、特に食料品の買い物弱者になってしまう事で食事摂取に悪影響が出てしまわないのか、地域で実施されている対策の効果・対策を求めているのはどんな人々なのか、といった事を分析します。


関連業績:関口達也,  樋野公宏(2020)「食料品の買い物環境に対する多様な主観的評価が購買行動や食品摂取に及ぼす影響」, 都市計画論文集, 55(3), pp.1013-1020 関口達也, 樋野公宏,  石井儀光(2019)「遠郊外住宅団地における買い物支援策に関する一考察 -埼玉県日高市こま武蔵台を対象とした食料品の購買行動・意識調査の解析から-」, 日本建築学会計画系論文集,  84(760), p. 1423-1432. 関口達也,  樋野公宏,  石井儀光(2016)「店舗の質・距離に対する満足度を用いた高齢者の食料品の購買行動分析 -“潜在的買い物弱者”に着目して-」, 都市計画論文集, 51(3), pp.372-379     など

買い物弱者研究2: アンケート調査と客観データの組み合わせ

アンケート調査から明らかにする事の出来た、人々の買い物環境の主観的な評価の傾向を、客観的な情報やデータと突き合わせ、両者の関係をうまく説明できないかを検討する事も重要です。

人々の評価と密接に関わる要素(例:身の回りで買い物をする店舗の数・距離など)が明らかになれば、都市計画をはじめとする様々な仕組みを用いて、市街地の在り方を適切に誘導・規制してあげることで、人々が望ましいと考える市街地になる様な生活環境の整備が可能です。

その様な観点から、人々の主観的評価である「人々の買い物環境に対する評価の良し悪し」を、「身の回りの店舗の数・距離・多様性」や「店舗までの経路にあるアクセスの抵抗となる要素(急な坂や広幅員道路の横断、歩道の整備状況など)」などの客観的な都市的要素の分布・存在状況から推定をするための定量モデルの開発にも取り組んでいます。


関連業績:T. Sekiguchi, N. Hayashi, H. Sugino, Y. Terada(2017) ”Modeling the  Relationship between Subjective Evaluation and Objective Conditions on Shopping  Environments”, Proceedings of 2017 International Conference of Asian-Pacific Planning Societies, pp.156-159関口達也, 樋野公宏, 石井儀光(2016)「店舗の質・距離に対する満足度を用いた高齢者の食料品の購買行動分析 -“潜在的買い物弱者”に着目して-」, 都市計画論文集, 51(3), pp.372-379 

買い物弱者研究3: GPSを活用した、移動販売車の利用実態分析

移動販売車の運行は、買い物弱者問題に対する主要な対策の一つです。食料品等を車載して、地域の各所で停車する事で、住民の方々に買い物機会を提供します。

従来は、公園や公共施設等の公共空間に長く停車して客を待つタイプの移動販売が主流でしたが、近年では、利用希望者の自宅近くに停車して個々人に買い物機会を提供するタイプの移動販売車も増えてきています。後者のタイプの移動販売車の利用実態は、きめ細かい運行形態である分、その利用実態を示すデータも収集が難しく、これまであまり明らかにはされていませんでした。

そこでGPSを移動販売車に搭載させてもらう事で、移動販売車の移動履歴を把握しました。これにより、移動販売車が「いつ」、「どこ」で停車していたかを知る事が出来ます。

また、移動販売車の運行元から、(購入者がわからない形で)商品の販売履歴を表すレシートデータを提供してもらい、このGPSの移動・停車履歴と組み合わせる事で、「いつ」、「どこで」、「何が」、「どれくらい」買われているかを知る事が出来ます。

どのような場所で移動販売車が利用されているのかを、店舗までの移動の障害の分布との関係を分析したり、利用地点の特徴と購入量・購入品目には関係があるかといった事を分析します。これらの分析により、移動販売車が地域の買い物弱者をどのように助けているのか、その一端を把握することにつなげています。


関連業績:T. Sekiguchi, K. Hino (2021) "How Mobile Grocery Sales Wagons Can Help Disadvantaged Shoppers in Residential Areas around Central Tokyo: Characteristics of Spatial Distribution of Usage Places and Purchased Items",  Sustainability, 13(5), 2634; https://doi.org/10.3390/su13052634 ・関口達也, 樋野公宏(2019)「東京都心縁辺部における移動販売事業の利用場所・利用者の特性」,  地理情報システム学会講演論文集, 28,D-1-2(CD-ROM)・関口達也, 樋野公宏(2018)「位置情報と購買履歴データを活用した移動販売車の利用実態の分析 -利用場所・商品の特徴に着目して-」,  地理情報システム学会講演論文集, 27, D-7-1(CD-  ROM)

   【移動販売車の利用実態の把握の方法】

                (図出典:関口ら2018より)

      【利用地点と利用品目の関係】


■ 人々の移住意向と地域環境 | People's migration and regional environments

人々の地域への移住意向のうち、「自発的な移住」に着目しています。

人々の自発的な移住意向には様々な要因に影響を受けます。例えば、その地域が便利かどうか、その地域に十分な雇用があるかどうか、地域に愛着を持っているか、などです。

個々人の移動が地域に及ぼす影響は些細なものですが、膨大な数の人々が同様の移動傾向を見せる事で、「都市現象としての移住現象」となり、"都市の一極集中"や”地域の過疎化”といった都市問題に繋がります。

この様な都市問題の解決に向けた一つの方策として、移住意向をと関連する地域環境要因について明らかにして、その地域環境要因を政策的に望ましい方向に誘導する事が考えられます。

そこでこの様な都市現象の根本となる「個々人の主観的評価」に着目して、「Uターン意向に影響する地域環境要因とその水準の特定」などの研究を行ってきています。


関連業績:T. Sekiguchi, N. Hayashi, H. Sugino, Y. Terada(2019) "The Effects of Differences in Individual Characteristics and Regional Living Environments on the Motivation to Immigrate to Hometowns: A Decision Tree Analysis” , Applied Sciences9(13), 2748  doi.org/10.3390/app9132748 

   【移住意向の構造分析の結果】

■ 都市現象と人々の地域に対する評価・行動の定量解析 | Various urban phenomena  and People's behaviors / evaluations

人々は、都市における様々な事象・現象を作りだす存在であり、その事象や現象と、人々の地域に対する評価・行動は密接に結びついています。様々な都市現象や都市内の事象に着目し、研究を行っています。

都市現象・事象とは?と思われるかもしれません。

例を見ていただく方がわかりやすいと思いますので、以下に例を示します。

研究事例1:住宅系市街地に形成される商業集積と都市計画(右の矢印をクリックすると説明文が展開します。)

都市における多様な用途の建築物は,地域地区制度などの都市計画的な仕組みにより、その立地の可否について地域ごとに一定の計画的制約条件による制限をうけています。

 これは商業店舗についてもあてはまります。商業店舗は、商業系の用途地域が指定されている所に多く立地をしますが、住宅系の用途が指定されていても,その地域の商業的立地条件が比較的良好である場合には,出店をす可能性があります.その様な中で、ある地域において住宅・商業の両用途が一定の比率で混在するようになり,比較的長期間にわたりそのような状況が維持される場合,その地域は住商混在市街地として捉えられるようになります

この様な住商混在市街地は、様々なところで見られます。その特徴から、他の市街地にはない魅力的を持ちうる反面、互いの立地がうまくなじまずに地域生活において問題の要因になりかねない場合もあります。そのため、住宅用途と商業用途が一地域の中で適切な形で共存できる様な都市計画を図っていく必要があります。

その様な都市計画の立案の助けになるよう、複数の住商混在市街地を選定して、電話帳データと呼ばれる個々の店舗の詳細な位置がわかる空間的なデータを用いて「店舗が住宅地に集積していく過程」、「商業店舗の業種構成の特徴」、「現状の都市計画との整合性」等について検討を行いました。


関連業績:関口達也貞広幸雄 秋山祐樹(2012)「住宅地滲出型商業集積の形成過程とその要因に関する研究 -原宿地域・青山地域・代官山地域を事例とした時空間分析-」, 都市計画論文集, 47(3), pp.301-306 

研究事例2:人々の「地元」意識の解明とその形成要因(右の矢印をクリックすると説明文が展開します。)

日常生活の中で「地元」という言葉に触れる機会は多いことでしょう。しかし、この言葉について、深く考える機会は少ないかと思います。

「地元」と いう言葉から連想される場所や範囲は人に寄り非常に多様かつ曖昧です。しかし、同じ「地元」を持つ人々の間では、より強固なコミュニティ意識が生まれたりすることもありますし、近年では、「地元」をキーワードとした街づくり事業も行われる様になってきています。

そのため、その様な「地元」意識を核にしたまちづくりを円滑に進めていくうえでは、この「地元」が指し示すものについて、適切に理解をしておくひ津陽があります。

そこで、各自の「地元」として想起される場所の特徴やその空間的形状・範囲, さらに「地元」のまちづくりへの関心をウェブアンケートにより調査しました。分析では、「地元」の概念的・空間的な認識の特性の体系化や、それらの認識と、各自の「地元」に対して抱くまちづくりへの想いを定量的に整理しました。


関連業績:関口達也, 林直樹, 杉野弘明, 寺田悠希(2017)「人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性-地域のまちづくりへの活用に向けた定量的解析-」, 農村計画学会誌, 36(3),pp.465-474 

研究事例3:コロナ禍における人々のパニックバイイングの状況の把握(右の矢印をクリックすると説明文が展開します。)

パニックバイイング(Panic buying)とは、人々が社会の状況に不安を感じる中で、ふとした報道や噂等がきっかけで、備蓄等のために多くの人々が同時期に店舗に商品を求めて買い物に行き、一定期間にわたり品薄・品切れを引き起こしてしまったりする現象です。

また、多くの人が大挙して同じ店舗に押し寄せる事自体や、商品が売り切れて入手できない事などが原因となって、店舗と顧客の間、もしくは顧客間でも普段は起こりえない様々な問題が発生しうる点で、一つの都市問題と言えるでしょう。


Panic buyingは過去に世界各地でも度々発生しています。日本では1970年前後の石油危機の際に、起こったものが比較的、有名な例でしょう。 

2020年の初頭に世界的に発生した新型コロナウィルス感染症の蔓延は、各地で様々なPanic buyingを引き起こしました。原因は、都市のロックダウンに備えた人々の備蓄のための行動や、それがメディアで報道された事により更なる不安に襲われて買い物に出かけた人もいました。また、マスクや消毒薬の様な衛生用品もPanic buyingの対象になりました。

トイレットペーパーに関しては、一部で流れ始めた噂がSNSや報道等を介して日本全国に拡大し、Panic buyingを引き起こしました。


この現象に着目し、その時の買い物行動、店舗選択行動、そしてそのPanic buyingの状況下で感じた不便さについて複数の異なる特性を持つ都市の住民を対象に、ウェブアンケート調査を行い、その分析をしています。

「どのような人が買い物に出かけたのか」、なぜ人々の買い物が「時間的・空間的に集中してしまうのか」、そのような状況を介して発生した「不便の内容の体系化」や「不便を感じることになった要因」などに焦点を当て、類似のPanic Buying が発生した際に付随するトラブルの発生を未然に防ぐための知見を得るために研究をしています。


関連業績:
関口達也, 林直樹, 寺田悠希, 大上真礼, 杉野弘明(2020)「非日常的状況下でのトイレットペーパーの購買行動・意識 -店舗選択に関する空間分析と苦労・不便の内容把握を中心に-」,  地理情報システム学会講演論文集, 29, P-16(CD-ROM) 
関口達也, 林直樹, 寺田悠希, 大上真礼, 杉野弘明(2020)「非日常時における人々の日用品の購買意識・行動の特性 - 2020年2月末のトイレットペーパーの買い求め行動を事例とした実態調査-」, 都市計画報告集, 19, pp.86-93 

T. Sekiguchi, N. Hayashi, Y. Terada, M. Ooue, H. Sugino (2022) "Purchasing behavior and awareness during COVID-19-related panic buying - A case study conducted in three Japanese cities - ”, International Review for Spatial Planning and Sustainable Development , 10(2), pp.1-18