プロフィール

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職歴

2014-2016 京都大学大学院 人間・環境学研究科 ティーチングアシスタント(TA)2016-2021 京都工芸繊維大学 基盤科学系 研究支援員(RA)2019-2021 京都外国語専門学校 非常勤講師
2019-2020       ECC外語学院 非常勤講師
2020-2023      近畿大学理工学部 非常勤講師2020-現在 京都工繊大学工芸学部 非常勤講師2021-現在 同志社大学グローバル地域文化学部 嘱託講師

学歴


2002  札幌市立幌南小学校卒業2005  札幌市立柏中学校卒業2008  北海道札幌高等学校卒業2009  京都大学工学部地球工学科入学2012  京都大学総合人間学部転学部2014  京都大学総合人間学部卒業2016  京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻博士前期課程修了2019  京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻博士後期課程 研究指導認定退学 

研究内容 

  生態学的観点からの意味論・統語論研究 

言語についてのモデル(言語観)は幾つかありますが,多くの言語学者は「言語は(思考のための)内的な表象である」あるいは「言語は参与者間の心(頭の中)にある意味や情報を伝達する道具である」という前提に立ち,個人内での情報処理プロセスを(半ば暗黙のうちに)想定しているといえます。この観点からは,「ことばの意味」とは,形式によって話者の間で伝達される内容であるとされています.

また,Langackerをはじめとする認知言語学は環境と身体を考慮した認知科学のパラダイムであるとしていますが,その基盤である認知能力はあくまで個人の内的なものとして考えられています.ことばの「意味」とは,制約のない概念化や解釈による心的表象であるとされます.

一方で,心の機能や認知を社会的に構成されうるものと捉える社会学(cf. Ryle 1949; Coulter 1979)や談話分析,エスノグラフィー研究,あるいは認知の分散性(Hutchins 1995)を唱える認知科学の領域では,意味は相互行為の中で実現される価値のある行為であるとされます.

さらに,Gibson(1979)の「アフォーダンス理論」から始まる生態心理学は,言語によるコミュニケーションを情報処理とはみなさない,情報や知識に対しての全く異なるアプローチであると言えます.Gibsonの生態心理学的観点を継承したEdward Reedは「言語は,環境中の情報(生態学的な意味や価値)を特定し,共有するための手段である」(Reed 1996: 115)という言語観を提示しています.

しかし,「言語は話者の解釈や<見え>を直接反映している」とする心理主義・認知主義的立場でもなく,また「言語はアフォーダンスと直接対応する」というような客観意味論的,あるいは因果論的立場でもなく,言語を,他の記号(シグナル)と同じく人間が生態域の中での行動調整に用いる記号の体系とみなし,「言語はアフォーダンスを発見しやすくするために環境に施されたデザインであり,「シグニファイア(signifier, Norman 2010)である(井上 2016: 41)」とであるいう観点から,認知言語学における「際立ち(salience)」に関する議論や「参照点構造(Reference-point structure, Langacker 1991; 1993)」といった記述方法を取り入れつつも,言語行為によって実現される「生態学的意味」(実用主義的な意味)を分析対象の中心に据え,さらに語の使い分けや語順などといった形式(統語論的な側面)に関する生態学的な動機づけを考察していきたいと考えています.

最終的には,社会学,人類学などの他の人文科学系の意味観,さらに生物学・生態学などの研究で得られる知見を適切に解釈することで,認知科学における意味観の統合を目指すことが可能であると考えています.

  今までの,そしてこれからの研究との関連から

2014年に提出した北海道方言に関する卒業論文では,「ラサル構文」が持つ意味を「被動作主(鉛筆,ボタン等)が持つアフォーダンスの知覚の共有」であるとし,その形式の動機付けについて認知言語学的に「被動作主をより認知的に際立たせるために動作主が省略される」と結論づけました.

しかし今後は,ラサル構文の使い分けを指標として,主語として表れる名詞のの指示するモノのアフォーダンスの構造を考察していきたいと考えています.例えば「iTunesを開くとSafariが勝手に開かさる」のように,ラサル構文は新しい事物やプロダクトに対しても柔軟に用いることができます.言語もデザインの一部であるとみなせば,モノとそれを取り巻く言語使用とをセットで考えることで,新しい製品などのデザイン(プロダクトデザイン)のあり方を再考するのに大きな手助けとなる可能性が見えてくると言えます.

また,2016年に提出した修士論文では,アイヌ語において定表現(definite expression)であるとされる「場所表現」(中川 1984; 井筒2006等)について,特に場所名詞や地名がその土地のアフォーダンス知覚を特定させるための表現であり,その土地での行為可能性に基づく土地の利用可能性によって区別するという点で定表現(definite expression)となるということを論じました.この議論で得られた知見は,唯一無二でありかつ経験と分かちがたい場所の持つ「場所性(placeness, Relph 1977; Tuan 1979)」の議論や,オギュスタン・ベルクの「風土(milieu)」の議論とも整合すると考えています. 

  アイヌ語の言語復興に貢献するための理論言語学的基盤の構築 

言語復興に対して理論的な貢献は数多く行われていますが,単なる記述だけではなく,当該言語の創造性を復活させるにはどうすれば良いかという問題意識も必要となります.これは単に言語内理論のだけではなく,当該言語を用いるコミュニティの生活やそれを取り巻く環境も大いに関わってきます.

生態学的な観点からすれば,言語の研究の関心は,「話者の心がどうであったか」ということよりも「話者が環境の中でどのように実用的な意味を特定し,共有していたか」ということになります.つまり,言語に関する知識の集積だけではなく,生態学的言語研究を通して,言語資源としての知覚=行為の可能性を再構築することこそが,言語復興にとって理論的な貢献をするための方策と言えるのではないでしょうか.

例えば,マオリ語の伝統を受け継ぐ言語習得法であるテ・アタアランギ法は,文法や意味の知識を教え込むのではなく,「マオリ語を話す場の共有」が最優先であり,マオリ語のみによる差し言葉によって自然に言語を習得する支援をするというものです.アイヌ語においてもこうした場の創造や共有が二風谷を中心にますます活発に行われていますが,アイヌ以外の住民に対しても相互理解の観点から生態学的なアプローチはさらに説得力のある教授法として必要となってくると考えています.

部活動等

・札幌市立柏中学校科学部

・札幌南高校科学部

・京都大学グリークラブ(KUGC) 2009〜2012

・京都大学民族舞踊研究会(KVK)2009〜2012