私は、化石記録と現生動物の解剖学・発生学・機能形態学・生理学・生態学に関する情報を統合し、動物の「かたち」がどのように変化し、なぜ特定の方向へ進化してきたのかを研究しています。
特に、発生過程、生態・機能、個体間変異と進化可能性をつなぐことで、形態進化にみられるパターンと、それを生み出すメカニズムや制約を実証的に明らかにすることを目指しています。
1. 化石と発生をつなぐPaleo-Evo-Devo
ー 形態進化の発生メカニズムを探る
現生動物の発生過程と化石記録に残された形態変化を統合し、進化の過程で新しい形態がどのように生み出されてきたのかを研究しています。
特に、骨の突起・孔・溝・粗面など、軟組織との対応関係を示す骨学的相関(osteological correlates)に注目しています。現生動物の比較解剖学・発生学的データから、これらの骨格形態がどのような軟組織と対応し、個体発生の過程でどのように形成されるのかを検討します。その知見を化石記録と統合することで、形態進化の背景にある発生学的メカニズムや制約の解明を目指しています。
これまで、カメ類における頭骨形成過程の比較から頭骨形態の多様化を検討してきたほか(Tokita, Watanabe et al., 2021)、恐竜― 鳥類系統における顎関節と中耳構造の進化を、化石記録と現生爬虫類・鳥類胚の比較発生学的解析を統合して研究してきました(Watanabe et al., 2026)。
2. 生態的転換にともなう筋骨格系・感覚系の進化
― 適応と制約は、からだの進化をどう方向づけるのか
四肢動物は、陸上・水中・樹上・地下・空中など多様な環境へ進出する過程で、筋骨格系や感覚系を変化させてきました。私は、形態と生態の対応関係だけでなく、生態適応と系統的・発生的制約がどのように相互作用して形態進化を方向づけるのかに関心を持っています。
特に、主要な生態的転換において従来あまり注目されてこなかった構造や、複数の器官系の進化的な連動に注目しています。形態統合、モジュール性、発生拘束、表現型可塑性などを考慮しながら、共通した環境圧のもとで、どの構造が変化しやすく、どの構造が保守的に維持されるのかを明らかにすることを目指しています。現在、カメ類を中心に、爬虫類の二次的水生適応にともなう聴覚系の進化的再編について研究を進めています。
3. 新生代哺乳類の進化フェノミクス
― 生物の「変わりやすさ」は時代とともに変化するのか
生物の形態進化を理解するには、平均的な形態変化だけでなく、集団内にどのような個体差が存在し、それらがどのように共変動するのかを捉えることが重要です。私は、化石と現生種の大規模形態データを用いて、表現型変異、形態統合、モジュール性が地質学的時間の中でどのように変化してきたのかを研究しています。
特に新生代哺乳類は、現生種と比較可能な豊富な化石記録をもち、分類群によっては多数個体を含む標本群や、古生態学・保全古生物学で蓄積された大規模データを利用できます。これらを時系列で比較することで、環境変動や生態的転換、絶滅にともなう表現型変異の量や共変動構造の変化を明らかにし、形態進化を方向づける制約と、その背景にある進化可能性(evolvability)の長期的な変化に迫ることを目指しています。
4. 日本産化石十脚甲殻類の分類・進化・古生態
― デジタル形態学から化石甲殻類を再検討する
カニやエビなどの十脚甲殻類は、現代の水圏生態系を構成する主要な動物群の一つですが、その化石を専門とする研究者は限られており、分類や形態に関する基礎的な検討が十分でない分類群も残されています。日本には新生代を中心として豊富な化石記録があり、より古い時代まで遡ると、既存の分類体系では位置づけが難しい標本もみられます。
私は、脊椎動物の形態研究で培ってきたμCTスキャン、3D可視化、微細形態解析などの手法を化石十脚甲殻類へ応用し、従来用いられてきた分類形質を再評価するとともに、これまで十分に観察されてこなかった形態情報から新たな分類形質を探索しています。こうした分類学的基盤を整備したうえで、形態、産出年代、堆積環境などの情報を統合し、十脚甲殻類の進化や古生態、生物地理の変遷を明らかにすることを目指しています。
5. 自然史資料の3Dデジタルアーカイブと探究学習への応用
― 野外での発見を、デジタル技術で記録・共有する
近年、学校教育では探究的な学びが重視される一方、フォトグラメトリをはじめとする3Dスキャン技術の普及によって、身近な自然を立体的なデジタルデータとして記録・共有することが容易になってきました。3Dデータには、自然環境や自然史資料を将来にわたってデジタル記録として残すだけでなく、対象をさまざまな方向から観察したり、野外で得られた発見や子どもたちの学習成果をオンライン上で共有したりできる可能性があります。
私は、こうした3D技術を専門家による研究だけでなく、小中学生の探究学習や自由研究にも活用できる仕組みをつくることを目指しています。特に、野外での観察・問いの発見と3Dデジタルアーカイブを組み合わせた教育実践を通じて、自然史資料を観察・記録・比較・共有する新しい探究学習の方法を検討しています。また、学校教員や教職・学芸員課程の学生が活用できる3Dアーカイブの手法や教材の開発を進め、野外での自然史研究とデジタル技術を融合した教育・博物館活動への展開を目指しています。
現在、この取り組みの一部は安藤財団の自然体験活動支援事業の助成を受けて実践しています。
・マクロ解剖および形態計測
・発生学実験(各種染色・組織学的解析等)
・3D形態データの取得および解析
(μCT・DiceCT・フォトグラメトリー・3Dスキャナー・3D再構築ソフトウェアAvizo / Amira / 3D Slicer・共焦点レーザー顕微鏡)
・画像解析(ImageJ等)
・統計解析(Rstudio等)
・系統比較解析・進化過程解析(祖先形質復元等)
・フィールドワーク(国内外の博物館標本調査・野外調査)
主な研究対象
恐竜を含む爬虫類、鳥類、両生類、哺乳類などの現生・化石脊椎動物を中心に、頭部形態とくに頭蓋顎顔面や聴覚器官の進化に着目した比較研究を行っています。
また、日本産十脚甲殻類(カニやエビ)などの無脊椎動物化石も対象としています。
本研究および教育普及活動等は、国内外の大学・博物館・研究機関・地域団体との連携・協力のもとで進められています。
共同研究・連携機関
・東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
・東京大学 大学院新領域創成科学研究科 自然環境学専攻
・江戸川大学 メディアコミュニケーション学部
・国立科学博物館 生命史研究部 進化古生物研究グループ
・国立科学博物館 生命史研究部 人類史研究グループ
・千葉県立中央博物館 地学研究グループ
・Museo Argentino de Ciencias Naturales Bernardino Rivadavia / CONICET (Argentina)
研究協力・標本利用機関
・東京大学総合研究博物館
・国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ
・神奈川県立生命の星・地球博物館 動物学グループ
・千葉県立中央博物館 生物学 (動物) 研究グループ
・千葉県立中央博物館 博物館学研究グループ
・我孫子市鳥の博物館
・足立区生物園
・島嶼生物学研究所(株)
・きやまファーム(株)
・ゆすはらジビエの里(株)
・NPO法人 小笠原野生生物研究会
・NPO法人 水元ネイチャープロジェクト
・葛飾区生物多様性推進協議会
・環境省自然保護官事務所等
・地方自治体の自然保護担当部署等