TAKIGUCHI Yu Home Page
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瀧口由宇 博士課程3年
所属:北海道大学 大学院理学院 統計物理学研究室
E-mail:takiguchi.yu.a7[at]elms.hokudai.ac.jp
研究分野:ネットワーク科学,統計物理学
キーワード:複雑ネットワーク,平均場理論,相転移,感染症モデル,ネットワークゲーム理論
所属学会:日本物理学会,日本数理生物学会,日本人間行動進化学会
*Yu Takiguchi, and Koji Nemoto, "The SIS Competition Model for Conflicting Rumors".
フェイクニュースが訂正情報に一掃される条件は何か,互いに相容れない噂はどのようなメカニズムで共存するのか,これらの問いに答えることは,ソーシャルメディアが発達した現代において重要な意味をもちます.これまで噂の拡散は感染症モデル,意見や価値観の集団的な変化はオピニオンモデルを用いて研究されてきましたが,この両方を統合する枠組みはほとんどありませんでした.
そこで本研究では,噂の拡散と価値観の変化の両方を扱うことができるトイモデルとしてSIS競争モデルを提案しました(図1).このモデルでは,人々が耳に入った噂に影響されて価値観を変えたり,反対に人々の価値観に影響されて噂の広まりやすさが変わったりします.このように噂の拡散と価値観の変化の相互作用を扱うことができる点が,提案モデルの特徴です.
我々は線形安定性解析を行い,このモデルのすべての定常状態とその局所的安定性を求めました.
SIS競争モデルでは,従来のモデルでは表現できなかったメカニズムで噂が共存します.例えば,ある訂正情報が,デマをデマだと知っている人にとってはとるに足らないものであっても,デマを信じていた人にとっては衝撃的であり,そのような人がすぐさまデマを訂正する側に回る場合,デマと訂正情報という矛盾した噂が共存し得ます.この場合では,噂の感染力が低いほうがかえって噂が広まるという逆説的な現象が生じます(図2).デマを信じている人がいるからこそ訂正情報は広まるため,訂正情報の感染力が高すぎてデマを一掃してしまうと,訂正情報の拡散も止まってしまうからです.
我々はさらに,価値観の変化がめったに起こらない場合について,特異摂動法を用いることで,最終的にどちらの噂が生き残るかを決定する閾値を解析的に導出しました.このモデルは多数派同調を明示的に組み込んでいないにもかかわらず,多数派ほど有利になる現象が自発的に生じます.この結果は,感染力が高い噂であっても,初期時刻でそれを信じている人が少なければ,感染力の低い噂に排除され得ることを示唆します.
各人はA, Bどちらかの価値観をもっていて,自分の価値観を支持する噂を広める(Infected)か,黙っている(Susceptible).
横軸は価値観Aを支持する噂の基本再生産数,縦軸は各状態が占める割合.価値観Aの噂(赤太線)は,基本再生産数が1を下回っていても,価値観Bの噂と共存することで生き残ることができる.
*Yu Takiguchi, and Koji Nemoto, "Approximate master equations for the spatial public goods game", Physical Review E 109, 024304 (2024).[arXiv]
ネットワーク上の公共財ゲームは,協力行動を促進するメカニズムを研究するために用いられてきた基本的なゲームです(図1).このゲームのダイナミクスは複雑であるため,先行研究では解析的なアプローチは避けられ,もっぱらモンテカルロシミュレーションによる数値計算が行われてきました.
本研究の特色は,モンテカルロシミュレーションに代わる研究手法として,このゲームの近似マスター方程式を導出した点にあります.近似マスター方程式は注目プレイヤーの状態遷移だけでなく,その隣接プレイヤーの状態遷移も考慮した常微分方程式であり,平均場近似やペア近似よりも精度が高いことが知られています.我々は,近似マスター方程式によって得られた結果が,モンテカルロシミュレーションの結果と定性的にはおおよそ整合することを確かめました(図2).
この研究では,特定のパラメータ領域において,近似マスター方程式を用いて相境界を解析的に求めることが可能であることを示しました.具体的には,戦略決定におけるノイズが非常に大きい領域では,摂動法によって相境界を解析的に求めることができます.一方でノイズのない領域では,不連続相転移がどこで生じ得るのか調べることができます.
本研究で我々が提案した手法は,協力行動を促進するメカニズムの詳細を解明する上で有用であり,他のゲームにも容易に適用することができます.
図1:ネットワーク互恵
正方格子上の公共財ゲームのスナップショット.白マスは協力者,黒マスは裏切り者を表す.協力者は協力者同士でまとまることで生き残ることができる(ネットワーク互恵).
図2:4-レギュラーランダムグラフ上の公共財ゲームの相図*
横軸は協力が生む利益,縦軸は戦略決定におけるノイズの大きさ.カラーマップは定常状態における協力者(C)の占める割合.実線と点線はそれぞれ近似マスター方程式とモンテカルロシミュレーションで得られる相境界を表す.