私たち竹花研究室では、魚類のモデル生物であるメダカ属(Oryzias)を用いて、「性決定」の分子メカニズムとその進化について研究しています。とくに、性染色体(XY型とZW型)の多様性や、性決定遺伝子の変遷に注目し、遺伝学やゲノム科学、発生生物学の手法を組み合わせながら、以下のテーマに取り組んでいます。
脊椎動物において、「オスになる・メスになる」ことを決める遺伝的仕組みは非常に多様で、しばしば独立に進化してきたことが分かっています。なかでもメダカ属は、種ごとに異なる性決定遺伝子をもつグループで、性染色体の「ターンオーバー(入れ替わり)」が何度も起きています(図1)。
私たちはこのようなメダカ属の特性を活かし、各種の性決定遺伝子の起源や機能を明らかにしようとしています。遺伝子重複や機能の獲得・喪失といったゲノムの進化が、性決定のしくみにどう影響を与えてきたのか――その全体像の解明をめざしています。
図1 メダカ属魚類の系統関係と性決定機構
性を決める「きっかけ」だけでなく、性別に応じた生殖腺をつくる「性分化」の過程にも、種ごとの違いや共通点が存在します。とくに性転換個体や突然変異体を用いた解析により、性分化に関わる新たな因子の探索や、性決定・性分化の遺伝子カスケードの理解にも取り組んでいます。
たとえば、近年の研究では、複数のメダカ近縁種においてGsdf遺伝子が精巣分化に必須であることが分かってきました。このような発見を積み重ねることで、性分化を制御する遺伝子群の進化的保存性と柔軟性の両面をとらえようとしています。
私たちの研究室では、次のような手法を組み合わせて研究を進めています:
比較ゲノム解析:メダカ属各種のゲノムを独自に解析し、性決定遺伝子や性染色体構造の変化を比較。
ゲノム編集(CRISPR/Cas9)・トランスジェニック技術:標的遺伝子の機能を解析し、性決定・性分化における役割を明らかに。
RNA-seq などの次世代シーケンス解析:遺伝子発現の違いを網羅的に可視化。
国内外での野外調査:アジアに広く生息するメダカ属魚類について、遺伝的集団構造や自然環境下での性決定様式を探る。
このように、実験室での分子生物学とフィールドワークの両輪で研究を展開しているのが、私たちの大きな特徴です。