(a) 1 K以下のホール抵抗の磁場依存性、(b) 様々な温度のホール抵抗の磁場依存性。(c) 1 K以下のホール係数の磁場依存性、(d) 様々な温度のホール係数の磁場依存性。(e) 様々な物質で比較したホール係数[画像:arXiv]。
(a) 1 K以下のホール抵抗の磁場依存性、(b) 様々な温度のホール抵抗の磁場依存性。(c) 1 K以下のホール係数の磁場依存性、(d) 様々な温度のホール係数の磁場依存性。(e) 様々な物質で比較したホール係数[画像:arXiv]。
【 2024年1月 】PrTi2Al20の磁気抵抗の磁場異方性
私たちは物質探索を行い、四極子近藤格子系PrTi2Al20の単結晶合成に成功することができました。2 Kで強四極子転移を示すPrTi2Al20は特定の磁場方向に対して2 Tで秩序変数が変化しますが、この磁場誘起相転移の原因である相互作用の機構については決着がついていませんでした。本研究では磁気抵抗の磁場異方性を調べることでフェルミ面のトポロジーが特異であることを明らかにしました。本研究は、新たな相互作用を調べる上で新たな知見を与えるものです。本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Researchに掲載されました。
Pr3Ru4Sn13のmuSR時間スペクトルの温度依存性[画像:arXiv]。
【 2023年11月 】Pr3Ru4Sn13の磁気不安定性
私たちは新しい量子臨界性を示す物質探索を行い、新物質Pr3Ru4Sn13の単結晶合成に成功することができました。7.5 Kで部分秩序が観測されましたが、RKKY相互作用によりごく少量の不純物が周りのPrの4f電子を秩序化していることが明らかになりました。さらに、母相の磁気揺らぎは0.3 Kまで残っていること、格子定数が他のPr3-4-13系で最も小さいことなどから、Pr3Ru4Sn13は量子臨界点に最も近い物質であると結論付けられました。本研究は、特異な量子臨界性を調べる上で新たな知見を与えるものです。本研究成果をまとめた論文は、Journal of the Physical Society of Japanに掲載されました。
Hopping parameterのキャリア濃度依存性[画像:arXiv]
【 2023年7月 】ARPESによるLa系単層銅酸化物の酸素配位数効果の研究
私たちはLa系単層銅酸化物の酸素配位数効果を調べるため、単結晶T*型銅酸化物SmLa1-xSrxCuO4(SLSCO)を作製し、Arフローアニールと酸素高圧アニール試料に対してARPES測定を行うことでフェルミ面における状態変化をARPESにより観測しました。その結果、これまでに経験的に得られていた超伝導転移温度とキャリア濃度の関係がT*型では満たされないことが明らかになりました。本研究は、局所構造と超伝導の関係性を調べる上で新たな知見を与えるものです。本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Bに掲載されました。
【 2023年3月 】T*型銅酸化物におけるArアニール効果
私たちはT*型銅酸化物のアニール効果を調べるため、T*型銅酸化物La1-x/2Eu1-x/2SrxCuO4(LESCO),Nd1.60-yCeySr0.40CuO4(NCSCO), SmLa1-xSrxCuO4(SLSCO), and Pr1.60Sr0.40CuO4(PSCO)を作製し、Arフローアニールと酸素高圧アニール試料に対して粉末X線回折実験と磁化測定を行いました。その結果、アニール効果は格子定数に明瞭な変化を及ぼすことを見出し巻いた。これは、酸素欠損量をアニールにより変えたためであると考えられます。本研究は、T*型銅酸化物における酸素欠損が与える物性変化を系統的に研究するスタート地点であることを意味します。本研究成果をまとめた論文は、JPS Conference Proceedingsに掲載されました。
【 2023年3月 】Cu-K端XAFS測定によるT’型銅酸化物の電子密度と格子定数関係解明
私たちはT’型銅酸化物のアニール効果を調べるため、Pr2CuO4+α-δ と Pr1.3La0.7CuO4+α-δ に対してCu-K端のXAFS測定を行いました。T’型銅酸化物であるLa1.8Eu0.2CuO4+α-δ は、キャリアドープなしに超伝導状態を示す物質であり、その発現機構に注目が集まっています。我々は、複数のT’型銅酸化物のアインシュタインエネルギーと面内格子定数を比較しました。その結果、超伝導体は面相格子定数が大きく、アインシュタインエネルギーが低下し、キャリア濃度が増大することを見出しました。本研究により、T’型の超伝導発現には面内格子定数が大きい試料の合成が必要であることが結論づけられました。本研究成果をまとめた論文は、JPS Conference Proceedingsに掲載されました。
La0.86Eu0.86Sr0.28CuO4における核磁気緩和率と電気抵抗の逆温度依存性[画像:arXiv]
【2022年6月】キャリアのモビリティに付随したスピン揺らぎ
私たちはT*型銅酸化物高温超伝導体La0.86Eu0.86Sr0.28CuO4(LESCO)に対して、核磁気共鳴法(NMR)及び電気抵抗測定を行い、La-NMRで観測されたスピン揺らぎはキャリアのモビリティに付随したスピン揺らぎであることを見出しました。LESCOは酸素高圧アニールによって超伝導が発現し、アニール前だと半導体の振る舞いを電気抵抗は示します。今回、半導体のエネルギーギャップとスピン相関が近いことが分かり、モビリティに付随したスピン揺らぎの同定に至りました。このスピン揺らぎが存在すること、すなわちキャリアがスピン揺らぎを伴って動きまわることがクーパー対形成に重要な役割を果たしていると考えています。本研究成果をまとめた論文は、Journal of the Physical Society of Japanに掲載されました。
CeRh2As2における(a) H || cと(b) H || abの核磁気緩和率の温度依存性[画像:arXiv]。
【2022年4月】局所的に空間反転対称性が破れた超伝導体CeRh2As2の2次元磁性
私たちは局所的に空間反転対称性を持たない結晶構造のCeRh2As2に対して、核磁気共鳴法(NMR)を行い、2次元磁性を示すことを見出しました。特に、核磁気緩和率より、低温では反強磁性スピン揺らぎが発達することが分かりました。このような2次元磁性は重い電子超伝導体ではめずらしく、特異な超伝導において重要な役割を担っているかもしれません。本研究成果をまとめた論文は、Journal of the Physical Society of Japanに掲載されました。
CeRh2As2(左)、CeCu2Si2(中央)、CeRhSi3(右)の結晶構造[画像:arXiv]。
【2022年2月】縺(もつ)れ結晶に起因した“超伝導反強磁性”状態を発見
私たちは局所的に空間反転対称性を持たない結晶構造のCeRh2As2に対して、核四重極共鳴実験(NQR)を行い、超伝導相の内部に反強磁性相が存在することを発見しました。反強磁性相内部に超伝導相が出現する物質の報告は多数ありますが、その逆は大変稀な例です。私たちはこのような特異な電子状態の原因として、局所的な空間反転対称性の破れ、つまり縺れ結晶であると考えています。本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Lettersに掲載されました。
YbCu4Niの結晶構造と開発したシステムの概要[画像:news]。
【 2022年1月 】超強相関金属YbCu4Niを用いた磁気冷凍によるサブケルビン温度環境の生成
私たちは低温で巨大な電子比熱係数を持ち、熱伝導率の良い金属であるYbCu4Niに対して、磁気冷凍材料として応用を試み、よく利用されている4He冷凍機において0.2 Kまで冷却することに成功しました。最近、1 K以下の環境には3Heを利用することが多いですが、希少であるため、その価格が高騰しています。一方で、極低温の環境は、理学のみならず、工学・医学などで幅広く利用されています。そこで、私たちはYbCu4Niに注目し、強相関デバイスの作製を目指してきました。本研究により、伝統ある重い電子系の物理に対して磁性材料としての活路を見出した意義は大きいと考えています。 本研究成果をまとめた論文は、Journal of Applied Physics に掲載されました。
電荷移動ギャップと面内格子定数の関係。下図は提案しているバンド構造[画像:arXiv]。
【 2021年12月 】La1.8Eu0.2CuO4とNd2CuO4に対する異なる還元アニール効果
私たちはアニール前後のT’型銅酸化物高温超伝導体Nd2CuO4とLa1.8Eu0.2CuO4対して、Cu K-edgeのX線吸収測定を行いました。T’型銅酸化物は母物質で超伝導転移を示す物質があり、その発現メカニズムに注目が集まっています。私たちはアニールによりキャリアが増大する傾向にあることに着目し、格子定数とアニール効果によるキャリア増大量の関係をX線吸収測定で調べました。すると、面内格子定数が大きいほどキャリア量の増大が大きいことが分かりました。この結果から、バンド構造にアニールは変化を与え、ギャップの大きさがキャリア量増大に関係していると提案しました。 本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Bに掲載されました。
中性子粉末回折パターンと解析に使用した結晶構造のモデル[画像:arXiv]。
【 2021年10月 】La1.8Eu0.2CuO4+α-δ の酸素還元アニールによる結晶構造変化
私たちは銅酸化物高温超伝導体La1.8Eu0.2CuO4+α-δ に対して、酸素還元アニールを行い、中性子粉末回折実験を行いました。最近、T'型構造を持つ214系銅酸化物高温超伝導体において、酸素を除去する還元アニールを行うと、希土類置換による電子ドープなしに超伝導転移を示す物質が発見されています。しかし、そのメカニズムの決定にはより詳細な情報が必要です。有力な説として、CuO2面の上に存在する頂点酸素がキャリアをトラップすることで超伝導転移を阻止している可能性があります。そこで、私たちは上記のモデルに基づいてアニール前後の試料に対して酸素占有率を決定する強力な手法である中性子粉末回折実験を行い、還元アニール後には頂点酸素の占有数が減少していることを明らかにしました。 本研究成果をまとめた論文は、Journal of the Physical Society of Japanに掲載されました。
電荷密度波状態、スピン密度波状態、対密度波状態の概略図[画像:arXiv]。
【 2021年4月 】La1.87Sr0.13Cu0.99Fe0.01O4の対密度波状態の観測
私たちは銅酸化物高温超伝導体La1.87Sr0.13Cu0.99Fe0.01O4に対して、電気抵抗率の電流印加方向依存性と、共鳴軟X線散乱測定を行いました。 2021年現在、常圧下において最も転移温度が高いのは銅酸化物高温超伝導体です。しかし、なぜ銅酸化物は転移温度が高いのかという問いに対する十分な答えはありません。 私たちは、共鳴軟X線散乱測定を行うことで対密度波状態の兆候を捉え、高い超伝導転移温度が実現する理由に電荷自由度が深く関わっていることが分かりました。 対密度波状態は電荷密度波状態の形成と共に誘起され、電荷密度波の相関長が面内格子定数の8倍になったときに対密度波状態が発現することが分かりました。 本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Lettersに掲載されました。
【 2020年6月 】PrTi2Al20における強四極子秩序変数の磁場によるスイッチング ―磁場に依存する四極子間相互作用について―
私たちは非磁性転移を示すPrTi2Al20に対して、様々な手法で秩序変数の同定をを行いました。その研究の過程で、磁場と電気四極子がカップルする相互作用を発見し、実験および理論の両面からその検証を行ってきました。その研究の背景・動機・実験結果・理論をレビューした書籍は、固体物理6月号に掲載されました。
NMRスピンエコーの強度の温度依存性。実線はZeeman相互作用と核四重極相互作用の和を使って、ボルツマン分布を仮定した理論値[画像:arXiv]。
【 2020年5月 】CeCoIn5の超低温NMR
私たちは重い電子超伝導体CeCoIn5に対して、核断熱消磁冷凍機を用いることで超低温まで冷やしたNMR測定を行いました。 低温のNMR測定において、パルス磁場による発熱効果は非常に気を付けるべき現象です。 私たちは、NMRスピンエコー強度の温度依存性を測定することで、超低温まで発熱を回避するパルス条件を決定できることを見出しました。 この条件の下、超低温のNMR測定を行ったところ、6, 8 TではFermi液体状態でしたが、5 Tでは20 mKで緩和率がピークを示しました。 これは、磁気転移を示唆する結果です。 本研究成果をまとめた論文は、Physical Review Bに掲載されました。
PrTi2Al20 における比熱とエントロピーの磁場角度依存性[画像:arXiv]。
【 2020年3月 】PrTi2Al20の強四極子秩序における磁場方位効果
PrTi2Al20は立方晶の非磁性Γ3結晶場基底状態を持ち、TQ=2 Kで比熱の飛びを伴う強四極子秩序状態に相転移することが知られています。最近、NMR測定から[001]と[110]方向において磁場誘起の1次相転移が発見され、高磁場で別の四極子秩序相が実現している可能性が指摘されました。一方、[111]方向の磁場下では磁場誘起の相転移は観測されず、PrTi2Al20の温度磁場相図は強い異方的を持つことが分かっています。この異方的な相図を説明するシナリオとして、現象論的に導入された異方的四極子間相互作用とゼーマン効果の拮抗が秩序変数の不連続な変化を生み出している可能性が指摘されました。本研究では、PrTi2Al20の異方的な四極子秩序相の実体を明らかにするために、理論計算可能な熱力学量である比熱とエントロピーの磁場角度変化を詳しく測定しました。立方晶の[001], [111], [110]軸を含む(1-10)面内で磁場を回転させながら測定を行った結果、1 T以上の磁場を[111]方向から僅かに傾けるとTQでの相転移がクロスオーバーに変化すること、[001]方向とは対照的に[110]方向では励起状態とのエネルギーギャップが低磁場領域では大きく変化しないことが明らかとなりました。これらの特徴は、先行研究で提案された四極子間相互作用が異方的に磁場依存する模型を用いて理論計算から定性的に再現することができ、前述のシナリオを支持する結果です。本研究成果をまとめた論文はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されました。
(a) 0.1 Kにおける1/T1Tとac磁化率の磁場依存性。 (b) 様々な磁場下における1/T1Tの温度依存性。黒矢印は4.22 Tのac磁化率で決定した超伝導転移温度[画像:arXiv]。
【 2019年11月 】CeCoIn5におけるHC2近傍のH || cに対する磁気状態の探索
重い電子超伝導体CeCoIn5の超伝導転移温度は、H || cの磁場下において磁場の増大に伴って減少し、Hc2 ~ 5 Tで消失します。 上部臨界磁場(Hc2)近傍では、磁場誘起の臨界点に由来する磁気揺らぎや非フェルミ液体、また、超伝導相内において様々なプローブでFFLOの兆候が観測されており、現在も精力的に研究されています。 最近、私たちは0.1 K以上でCoサイトの核磁気緩和率とac磁化率の測定を超伝導相及び無秩序相内に対して行いました。 4.2 Tにおいて、1/T1Tは超伝導転移に伴って急速に減少しました。 一方で、0.1 Kにおける1/T1Tの磁場依存性はHc2以上である5.2 Tでピークを持ち、5.2 Tにおける0.2 K以下の温度依存性は一定の値となりました。 この振る舞いは、Fermi液体状態であることを示唆します。 加えて、5.2 Tにおいて、0.1 K以上でNMRスペクトルのブロード化は観測されませんでした。 Hc2近傍では非フェルミ液体的な振る舞いがさまざまな物理量で観察されましたが、0.1 Kまでの測定ではHc2の近傍で磁場誘起の特異な磁気状態を観測されませんでした。 本研究成果をまとめた論文はJPS Conference Proceedings誌に掲載されました。
PrTi2Al20における強四極子秩序状態の温度-磁場相図。 磁場の印加方向はそれぞれ[111]、[001]、[110]方向です。 強四極子秩序変数は2次元空間(Qz, Qx) = Q (cosθ, sinθ)におけるベクトルであり、右図に示すようにθはその秩序変数空間での方向を表します[画像:arXiv]。
【 2019年6月 】PrTi2Al20が示す磁場による強四極子秩序変数のスイッチング
結晶場基底状態が非磁性二重項であるPrTi2Al20は2 K以下で強四極子秩序を示します。 私たちはNMRおよび磁化・比熱の測定によって、強四極子秩序の対称性が1~2 Tの磁場によって不連続にスイッチするという予想外の現象を見出し、四極子秩序状態の温度-磁場相図を実験的に決定しました。 また対称性に基づく現象論的な考察により、基底状態が磁気双極子を持たない系では、外部磁場とのゼーマン相互作用と磁場によって誘起される四極子間相互作用の異方性が、同程度の大きさとなる可能性があり、両者の競合関係によって秩序変数のスイッチングが説明できることを示しました。 磁気双極子を持つ系においては、ゼーマン相互作用は磁場の一次に比例し、磁場に依存する異方的相互作用は磁場の二次に比例するので、通常は両者の競合は起こりません。 従って、私たちが観測した相転移は、結晶場基底状態非磁性である場合に特有の現象です。 さらにNMRナイトシフトの異常な振る舞いから、四極子秩序を引き起こす相互作用の起源であるc-f混成が逆に四極子秩序によって影響を受けるというフィードバック効果が、磁場誘起相転移のメカニズムに関係していることが示唆されました。 本研究成果をまとめた論文はJournal of Physical Society of Japan誌に掲載されました。