弦理論とは/What's string theory?
弦理論とは、自然界の最小構成要素が拡がりを持ち振動する「弦」からできていたらどうなるか、と考える理論です。
標準的な素粒子理論においては自然界の最小構成要素は大きさを持たない点粒子であると仮定します。そのような点粒子の物理を記述するのが場の量子論で、それを用いて自然界における4つの相互作用のうち3つ(電磁気力・強い力・弱い力)を正確に記述する理論は素粒子の標準模型と呼ばれます。しかし、場の量子論を用いて自然界におけるもう1つの相互作用である重力を記述しようとすると制御できない発散によりうまくいきません。その原因は、素粒子が点状であるために、いくらでも短い距離を考えられることにあります。ところが、素粒子が有限の大きさを持つ弦理論においては、非常に短い距離が関係する物理的過程は抑制され、発散が起こりません。弦理論は素粒子の標準模型を超え、重力をも含む無矛盾な量子論(量子重力理論)を与えると考えられています。
弦理論が量子重力理論として真剣に考えられるようになったのは1980年代半ばですが、その後の研究によりそれが持つ豊かな物理的内容や興味深い数学的側面が明らかになってきました。共形場理論、超対称性、余剰次元・コンパクト化とカラビヤウ多様体の幾何学、大統一理論。双対性とD-ブレーンの発見、場の理論・ブラックホール・宇宙論への応用。そしてAdS/CFT対応とその物性理論・核理論・量子情報理論などへの応用など、枚挙にいとまがありません。弦理論の内容は未だに全く汲み尽くされてはおらず、現在でも非常に活発にその研究が進められており、素粒子物理学だけに留まらず物理・数学の様々な分野と相互に影響を与えながら発展を続けています。
名古屋弦理論においても、弦理論の物理と数学について様々な研究が行われています。
リンク・参考図書
弦理論や場の量子論に関する教科書やレビューが、項目ごとにまとめられています。世界各地で行われる弦理論関係の研究会のリストもあります。
Joseph Polchinski, String Theory I and II.
弦理論研究者にとって最も標準的なreference book。大学院博士課程の学生さんでも読みこなすのは大変です。
Michael B. Green, John H. Schwarz, and Edward Witten, Superstring Theory I and II .
Polchinskiの教科書が出版される前までは、弦理論に関する最も標準的な教科書でした。出版されたのが80年代後半であり、内容的に多少古さを感じる部分もありますが、現在もその価値はまったく失われていません。特に第2巻の後半2/3は必読です。これも難易度が高い。
Barton Zwiebach, A First Course in String Theory.
学部生向けに書かれた弦理論の教科書。あまり技術的な詳細に立ち入らず、弦理論の基礎事項が説明されています。名大E研の卒研生で弦理論に興味のある学生さんは、この教科書で勉強することが多いようです。
細道和夫『弦とブレーン』
日本語で書かれた弦理論の教科書としては、これを推薦します。わずか200ページ強の教科書に、これだけの内容を手際よく詰め込んだ筆者の力量には感服します。