鐵 慎太朗 (倉敷市立自然史博物館)
1 岡山県の環境と植生
岡山県は、南部が瀬戸内海に面し、北部には中国山地の標高1,000 m以上の山が連なる。中部には標高約300~600 mの吉備高原が広がる。気候は、南部は温暖少雨の瀬戸内気候に属し、北部に向かうにつれて冷涼多雨となり、日本海気候の影響が強まる。
気候的極相は標高約600〜700 mを境界に、低海抜地には常緑広葉樹林が、高海抜地には落葉広葉樹林が成立する。常緑広葉樹林は、南部ではツブラジイを主体とする森林(カナメモチ-コジイ群集)、シイ属やタブノキなどを欠く森林(ナナミノキ-アラカシ群集)が代表的である。中部~北部にはアカガシやウラジロガシなどで構成されるカシ林などが成立する。落葉広葉樹林は、北部にブナ林(ブナ-クロモジ群集)が成立する。また、土地的極相としては、県西部などの石灰岩地に成立するイワツクバネウツギ-イワシデ群集や、鯉が窪湿原に代表される湿地に成立する草本群落や木本群落が代表的なものである。
なお、ほぼ全県において古くから土地利用が行われているため、大半の植生は代償植生である。代表的な森林植生として、アカマツ林(コバノミツバツツジ-アカマツ群集)やアベマキなどが主体の落葉広葉樹林(アベマキ-コナラ群集)がある。北部には、火入れなどで維持される二次草原がまとまった面積で存在する。
2 倉敷市立自然史博物館の標本庫(KURA)について
倉敷市立自然史博物館は、岡山県下では自然史全般の資料収集・保管、調査研究、展示、教育普及を行う唯一の施設である。植物分野では、2023年度末時点で約32万点の資料を受け入れており、そのうち維管束植物の腊葉標本255,042点が登録済みである。代表的な資料は宇野確雄氏 (1895-1984) が収集した「宇野確雄植物コレクション」である。本コレクションは標本約5万点からなり、宇野氏自身が採集した標本に加えて、海外の研究者との国外産の交換標本、国内の研究者からの受贈標本を含んでいる。