西村 和紗 (岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域)
MIG-seq法(Suyama and Matsuki, 2015)は、低品質なDNAからNGSライブラリーを構築できる画期的な手法であるが、得られる多型数がddRAD-seqやGRAS-diと比較して少なかったため、育種学研究には積極的に用いられてこなかった。演者は、パンコムギの祖先種である四倍性コムギの研究を実施しており、効率的に多型検出が可能な手法を検討している中で本手法の存在を知った。ゲノムサイズの異なる複数の作物種にMIG-seq法を適用したところ、ゲノムサイズと検出できる多型数には関係性があり、ゲノムサイズの大きいコムギにおいてはMIG-seqが遺伝解析に有効であることを示した(Nishimura et al., 2022)。また、検出多型数を増加させるためにプライマーに縮重塩基を導入し、ゲノムサイズの比較的小さなイネ、トマトおよびダイズなどでも、連鎖解析に有効な多型数を検出できる手法dpMIG-seqを開発した(Nishimura et al., 2024)。さらに、敢えて低品質なDNAを取ってMIG-seqライブラリーを構築するプロトコルを開発し、実験にかかる時間を大幅に短縮した。多くのサンプルを短時間で扱うことができるようになったため、現在多数の共同研究を実施できている。育種学研究においては、遺伝資源の系統解析やQTLマッピングのための連鎖地図構築など、MIG-seqの様々な用途が考えられるが、金銭的、時間的コストを圧縮できたことで、戻し交雑自殖系統の選抜や、遺伝解析集団の構築にも利用できる場面が増えている。また、NGS解析用に抽出したわけではないが冷凍庫に保存されている過去のDNAなどを有効活用することが可能となり、研究室に蓄積している過去のデータと合わせて遺伝解析を実施している。本講演では、育種学研究に対するMIG-seq法の最適化に至った経緯や、コムギ遺伝資源の遺伝解析や集団構築への応用、コムギ品種「超極早生」が保有する極早生形質のゲノミック予測への利用、共同研究として実施したイネF2集団の遺伝解析への適用例などの話題を中心に、現在進めている研究について紹介する。