松岡 俊将(京都大学)
菌類は、真核の従属栄養生物で、きのこ・かび・酵母の仲間を含む。菌類は、難分解物質の分解や、動植物との共生・寄生を通じて、物質循環や他の生物の成長・生存といった様々な生態系機能を駆動している。菌類の果たす機能やその効率(例えば分解可能な有機物やその速度)は種によって異なっており、群集組成(どのような種がいるか)によって発揮される機能も変化する。そのため、生態系機能やその維持管理を考える上では、群集の集合プロセス(どのように群集が形成されるか、環境と群集組成の関係など)や、群集と生態系機能の関係を評価し、定量的に予測可能にしていくことが重要である。
しかし、菌類は局所的にも多様性が高く、さらに栄養体である菌糸は微細なため我々の肉眼では捉えることができない。そのため、野外のいつどこにどんな菌類がいるのかといった基礎的な情報すら、動植物と比べてまだまだ乏しいというのが現状である。近年ではハイスループットなDNA解析技術や、動植物群集や他分野で培われた解析アプローチの普及が進んでおり、菌類においても、野外観察を通じた環境-群集-機能の相互関係にアプローチできるようになってきた。
本発表では、まず野外の環境傾度に伴ったサンプリングによって菌類の多様性と機能の繋がりのマクロなパターンを捉えるというアプローチについて、私のこれまでの研究例(と私が常駐している芦生研究林とそこでの取り組み)を含めて紹介(何がわかって、何が分からないか)を行う。その上で、これから菌類の多様性や機能を考える上で、遺伝子・細胞・個体・集団・群集など異なる階層や視点・アプローチを組み込むことで見えるものや面白そうな方向性について聴衆の皆さんと議論を行いたい。