元木 航 (岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域)
花を咲かせた植物への接ぎ木により、本来なら花を咲かせない条件にある植物の開花が誘導されることがある。接ぎ木によって引き起こされるこの開花誘導現象は、植物における花成シグナルの伝達を理解するために盛んに研究されてきた。接ぎ木による開花誘導は、育種や採種に役立つ早期開花誘導技術として利用できる可能性がある。しかし、現状では接ぎ木による開花誘導が困難あるいは不安定な植物も多く存在し、その利用は一部の植物に限られている。演者らは開花誘導に長い時間を要するアブラナ科野菜であるキャベツ(Brassica oleracea L.)を、ダイコン(Raphanus sativus L.)に接ぎ木することで安定して早期に開花させる技術を開発した。その鍵となったポイントは、花成ホルモン「フロリゲン」の供給能力が高いダイコン系統を選抜育成し台木として用いたことであったため、我々は本法を「GRAFT法(Grafting onto Relatives capable of Abundant Florigen Transmission)」と名付けた。本発表では、接ぎ木による開花誘導の過去の研究を概説するとともに、演者らの研究成果とそのアブラナ科作物の育種や採種への応用可能性を解説する。