中野 亮平(北海道大学)
植物の真の生き様を考えるとき、微生物の存在を切り離して語ることはできない。たとえば、病原性微生物による感染は植物の生育に甚大な被害をもたらし、一方で、アーバスキュラー菌根菌や根粒菌との共生は、特にリンや窒素が不足する土壌環境において植物の生存を支えている。興味深いことに、病原菌や共生菌との相互作用のいずれにおいても、「植物免疫機構」と呼ばれる分子システムが重要な役割を担っている。植物免疫は、異なるライフスタイルを持つ微生物をいかにして認識し、一方では感染や増殖を阻害しながら、もう一方では感染や共生を促進しているのか。その分子メカニズムはいまだ多くが謎に包まれており、世界中で活発な研究が進められている。
一方で、最近では「それ以外の微生物」の重要性にも注目が集まっている。すなわち、常在微生物(あるいはコメンサル微生物)と呼ばれる微生物群の存在である。常在微生物が形成する微生物コミュニティ(植物マイクロバイオータ)は、病原菌や共生菌のように目立った表現型を引き起こすわけではない。しかし近年の研究により、これらの微生物が植物の生長や生理のあらゆる側面に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある。そして、植物免疫もまた、これら常在微生物からの影響を受けていることが分かってきた。植物は、その免疫機構を多方向に駆使することで、微生物との平穏な共存を実現しているのである。
私たちの研究室では、このような常在微生物コミュニティと植物が一体となった「ホロバイオーム」がどのように機能し生きているのか、その真の生き様を解き明かすことを目指している。特に、植物免疫を介した根圏常在微生物との相互作用の分子メカニズムを明らかにすることで、根の免疫機構が野外環境で果たす生理生態学的な意義に迫りたいと考えている。