空間数理情報研究室 (中西研究室) は,社会空間で起きている現象の統計数理分析を通じて,データ社会における公平で多様な交通・都市の実現を目指しています.
すぐに実践に結びつく,いわゆる役に立つ成果は魅力的ですが,当研究室は現状把握もまた重要なものと考えています. 誤った・不十分な現状把握に基づく将来予測,そしてその将来予測に基づく施策は,思わぬ逆効果を生む場合もあるからです. 結果的にうまくいかなかった施策を批判することにならないためにも,まずは現状をよく理解しようという姿勢が求められます.
当研究室が理論やデータに基づいて研究することは,最終的にはこの問いに集約されます. そして,この問いに対する答えは,起こりうる事象の影響の大きさだけでなく,得られるデータの解像度(詳細さの度合い)に強く依存します.
従来は「必要なデータ量が集まれば,現象を確からしく捉えることができる」と思われていました. たくさんデータを集めれば,物事が正しく理解できるということです. これ自体は間違いではありませんが,複雑な人間社会を対象とする場合には正確ともいえません. 統計理論は,一般的な感覚と同じように「データをたくさん集めるほど,より詳細な事柄が分かるようになる」という側面も示しています. すなわち,集まったデータに応じて,可能な現状把握のレベルが異なるという考え方です.
このような考えに基づくと,データが増えつづける現代社会においては,良くも悪くも思いもよらぬことが分かるようになる可能性があります. したがって,多くの知見を得るためのみならず,公平で多様な社会を発展させるためにも,より丁寧に現象を理解する必要があります. そこで,以下に示す観点で研究を進めています.
これまでの成果は,中西の個人ページや過去の学生の研究をご覧ください.
データ社会における都市や交通の計画を考える際には,これまでの当たり前をひとつずつ再検討する必要があります.
一例として,将来の鉄道やバスの利用者数を予測したいとします. その際の基礎となるのは,現在のデータから現在の利用者数を予測するモデルです. ところが,このようなモデルの信頼性は,モデル式の良さだけでなく,どのくらいたくさんの,多様なデータを利用できるかにも依存します. そこで,問題ごとに必要なデータの大きさを理論的に検討するとともに,現実的に十分なデータが得られない場合の方策も検討します.
また,人やモノの移動を出発地-目的地の行列形式で表したものをOD表と呼びます. 現在では,ある個人のある1日の行動において,多数の目的地を把握することは難しくありません. このように取得データが詳細になったときに,従来の行列形式では表せない情報が発生します. 得られた貴重なデータを活用するためにも,新しいモデルが必要とされています.
理論は日進月歩で,データも日々蓄積されていきます. したがって,従来の研究とまったく同じ対象を分析しても,最新の理論やデータを用いれば新しいことが分かります. たとえば,高速道路上のすべての車両の走行軌跡を取得する試みがあります. このデータを用いると,従来の交通流理論の検証はもとより,新たな理論の構築や現象の詳細な解明が可能となります. 結果的に,渋滞抑制や工事時期の決定などの交通制御のあり方を改善することができます.
一方で,多種多様なデータの利用可能性が高まるにつれて注意が必要なことも増えています. たとえば,地区ごとの学歴,収入,犯罪率のようなセンシティブなデータを無考えに地図上に可視化すれば,それらの因果関係について誤った理解を助長する可能性があります. 社会をよりよくしていくための議論に必要な情報を示すことは大切ですが,その際の公平性やプライバシーを確保した提示方法の検討も重要な課題です.
研究自体も多様でありたいと考えています. 単なる思いつきが大きなテーマに繋がることもあります(繋がらないことの方が圧倒的に多いですが,多数の試行/思考を繰り返すことが大切です). 良いアイデアを思いついた方や中西と雑多な話をしたい方はぜひ研究室に遊びに来てください.
メッシュ内滞在者属性の多様性評価手法の開発 2025.03
連続走行軌跡によるドライバー異質性を考慮した車線変更行動の類型化 2025.03
都市利便増進協定を活用した持続的な公共空間の維持管理に関する研究 2025.03
空間的異質性を考慮した金沢周辺の不動産賃貸市場の分析 2025.03
全車両軌跡データを用いた交互合流および合流位置の分析 2025.03
都市の実態に即した余暇施設へのアクセシビリティの計測 2025.03
金沢近郊における地名の表出・染出現象の把握と分析 2024.03
交差点角地への進入経路選択の実態把握と要因分析 2024.03 [地球社会基盤学類長賞]
金沢周辺の飲食店立地の空間分布とその時系列変化に関する分析 2024.03
入店待ち車列による損失時間計上の試行的研究 2024.03
都市全域の詳細メッシュデータによる居住地別構成に着目した滞在人口分布の分析 2023.03
連続走行軌跡の時系列クラスタリングによる車線変更挙動分析 2023.03 [地球社会基盤学類長賞]
石川中央都市圏における不動産市場の地理的分割の実態把握 2023.03
(高山雄貴准教授の東京工業大学への転職に伴う所属)
修論
1名 2025.03
5名 2024.03
修論
ベイズ法による土地利用モデルのパラメータ推定 2022.03
全車両軌跡データを用いた交通流基本図のベイズ推定 2022.03
エレベータの呼びを導入したオンデマンド型の車両運行計画問題 2022.03
先進的車両軌跡データを用いた追従・車線変更挙動の異質性分析に基づくシミュレーションによる交通状態推定 2022.03
駅周辺道路の偏角に着目した道路網の分析 2021.03
Day-to-day simulation model for evaluating highway lane management with rideshare vehicles 2020.09
空間相関を考慮した歩行者流の速度-密度関係の分布パターンの抽出 2019.03
災害時の状況を考慮した救援物資配送問題 2019.03
相乗り車両に関する高速道路レーン管理のシミュレーションモデルの構築 2019.03
プローブカー軌跡を用いた流率密度関係の推定と実データに基づく検証 2018.03
Wi-Fiパケットセンサーを用いた長期・広域観光周遊パターン行動のモデリング 2018.03
波形記録式航空レーザスキャナによる地物数と位置の同時推定に関する研究 2016.03
動画像を用いた人物位置推定手法の双子実験による性能検証 2015.03
卒論
車両軌跡データからの道路ネットワーク生成 2021.03
エレベータの呼びを導入した自動運転車の運行計画問題 2020.03 [学士論文優秀賞]
Newell型モデルのパラメータ推定による時間帯別の車両追従挙動分析 2020.03
方向統計学を用いた道路ネットワークの分析 2019.03
P2P型長距離ライドシェアの成立に関する実証分析 2018.03 [学士論文優秀賞]
Wi-Fiパケットセンシングによる長期・広域観光周遊パターンの特徴抽出 2018.03
非定常到着分布による歩行者通行量の時空間的特徴の抽出 2017.03
空間相関を考慮した歩行者流の基本図に関する検討 2016.03 [田辺賞]
一般状態空間モデルを用いた歩行者挙動モデル推定に関する研究 2014.03
目的地の設定を必要としない歩行者挙動モデルの開発 2013.03
(*) 東京大学・東京工業大学における実質的な指導