いいから。彼女の一言で初めて優先席に座った。知らない景色が見える。目には映っていたはずなのに。今初めて感じる。交差点の信号でバスが止まった。アイドリングストップでエンジンが止まる。街の声が聞こえる。もう、あのときの不安はない。私の口から、いや心から言葉が漏れ出る。ありがとう。
本作品は、部誌企画140字小説において書下ろしされた一作である。
私たちは普段、視覚に大きな信頼を寄せている。しかし、それは一面的な風景でしかないのだろう。他の五感を駆使することで、初めて本文が言うように「知らない景色が見える」のだろう。
見えるというのは、ただ目でものを見るのではない。それは、感覚の開放であり、聞くこと、話すこと、それらと密接に繋がっているのだと言えよう。
(2026/03 初代会長記)