「21世紀の経済社会の展望」
21世紀も四半世紀が過ぎようとしている。この四半世紀の間に、経済社会を取り巻く諸環境は大きく変化し、それに伴って、日本ならびに世界は、深刻な経済社会的諸問題に直面し、その持続可能性を問われる事態になってきている。地球環境問題は、ますます深刻化し、自然災害の頻発や生態系の破壊等をもたらしてきている。また、少子高齢化の進展には歯止めがかからず、総人口や労働力人口の減少をもたらすとともに、社会保障制度の維持を困難にしてきている。労働市場では、非正規雇用が増加し、格差や貧困、長時間労働、過労死・過労自殺といったさまざまな問題が出現してきている。人間関係の希薄化や個人化の進展は、人びとを孤立させ、孤独死や自殺の増加、児童虐待や高齢者虐待等の深刻な社会問題をもたらしてきている。さらに、第四次産業革命ともいわれるデジタル技術の革新や近年のAIの出現は、経済の生産性を高め、人々の生活の改善につながる一方で、経済のグローバル化と相まって、巨大デジタル企業の支配、監視社会化、プライバシーの問題等、さまざまな問題をももたらしてきている。
まさに危機的ともいえるこうした深刻な経済社会問題の出現は、近代社会の論理が21世紀になっても貫徹し続けていることにその大きな要因を求めることができる。しかし、その一方で、近代社会の論理を超え、これらの諸問題の克服へとつながるような様々な動きが今日では経済社会の中で大きく広がってきている。企業においては、企業の社会的責任(CSR)が強く意識され、社会的企業と呼ばれる企業も登場してきている。ESG投資やサステナブル・ファイナンスの広がりのように、投資家の行動も自らの社会的責任を意識したものに変化しつつある。労働をめぐっては、いわゆる働き方改革を通じて、ワーク・ライフ・バランスやディーセント・ワークの実現を求める動きが広がってきている。こうした動きは、生産者サイドだけでなく、消費者サイドにおいても見られ、エシカル消費と呼ばれるように、消費者もまた、倫理的意識をもった消費行動を行うようになってきている。また、非営利組織(NPO)やボランティア活動の高まり、コミュニティの再生、デジタル技術を活用した人びとのつながりの構築等は、失われてきた人びとの間の絆をふたたび取り戻そうとする動きということができる。さらに、近年のSDGsの達成を目指した人びとの行動の広がりは、エコロジー的持続性だけでなく、相互に絡み合った社会的持続性ならびに経済的持続性を実現しようとする取組みにほかならない。
こうしたさまざまな動きがさらに進展し、今日の危機的状況を克服することができるのか、それとも危機的状況がいっそう高まっていくことになってしまうのか、現代という時代は、まさにその分岐点にあるということができる。こうした時代状況の中にあって、21世紀の経済社会がどのような方向に進んでいくのか、また、進んでいくべきなのかを問うことは、きわめて重要な課題ということができる。そこで、第61回全国大会のテーマは、「21世紀の経済社会の展望」とし、21世紀の経済社会の動向やそのあり方をあらためて問い直す大会としたい。企業、労働、消費、福祉、NPO、市場、国家、地球環境、デジタル技術、経済社会体制等、さまざまな観点からこのテーマにアプローチし、21世紀の日本ならびに世界の経済社会のあり方を展望していくことができればと考えている。