大会長挨拶
第63回 日本社会医学会総会 大会長
八谷 寛
テーマ
「地域共生社会の理念の実現と社会医学研究」
日本社会医学会における研究はその時代時代の社会活動の結果あるいは関連して顕在化した健康危機に対して、当事者の視点と、政策や行政判断への影響を重視したものであることを特徴としていると考えます。
2019年12月に政府が最終とりまとめを公表した地域共生社会の理念は、誰もが支え支えられる立場であること、支援が必要な時には専門職による問題解決型の支援だけでなく、問題解決にこだわらない伴走型の支援を専門職さらに社会のあらゆる構成員が行える社会づくり重視するものです。健康状態の悪化、身体・精神・知的・発達等の障害等の存在はそれが認知されているかどうかにかかわらず、支援を必要とする状態であることが多く、支える支えられる双方の当事者の視点を重視した社会医学的な研究により、支援の課題を明らかにしていくことが地域共生社会の理念を実現するために重要です。また個人責任が強調されがちな生活習慣病等の慢性疾患の発症、コントロール不良の根底には健康の社会的要因、社会的孤立、好ましくない環境要因が存在し、それらへの対応が重要であるという認識が定着しつつあります。社会的処方は単に社会的な繋がりを機械的に指示することによって、問題の解決が期待できるものではなく、医師自らが地域共生社会の理念に基づく社会づくりに関与する姿勢が欠かせません。本総会においては地域共生社会の理念を共通の背景とし、発達障害を抱える人の問題とその支援、若者やホームレス、困難を抱える高齢者の当事者に寄り添い伴走する支援、多文化の背景をもつ人々と地域で支え支えられる社会を実現する仕組みづくり、そして現代社会に特徴的な化学物質過敏症という健康障害の当事者を交えての市民公開シンポジウムを企画しています。
本総会が地域共生社会の理念の実現に資する社会医学研究の発展、そしてひいては地域共生社会の実現に近づく一助となることを願っています。