こちらでは大学院で提出して高く評価して頂いた小論文や、商品開発でのエピソードなどを掲載。
企業データ分析 最終レポート
「図書館に新刊本を納品すると本が売れる」というのは本当か
今回も前回と同様に、私の所属している出版業に関する分析を行なった。編集者や作家の間では、広報活動に関する都市伝説が多い。中でも「図書館に新刊本を納品すると本が売れる」というのがある。だが図書館では本を無料で借りられるため、売上が減少するという意見もあるし、一方で一般の書店では取引上数ヶ月しか置かせてもらえないから、長く置いてもらえる図書館なら宣伝効果でロングセラーになる、との意見もある。これらの相反する意見を検証するため、まずは「オリコン年間2009」より、「新書TOP50」をデータセットに入力した(表1)。発行年6とは2006年であり、経過月とは2008年11月時点でその本が発売日からどれくらい経過したかが記入されている。つまり地アミがグリーンになっているタイトルは、経過月が1年以上のロングセラーである。また「図書所蔵数」とは、東京都23区内で最も人口が多い世田谷区の図書館にある所蔵数である。これらの1年未満の本と1~3年のものを分けて考え、それぞれの相関係数を(表2)と(表3)に記した。これを見て分かる通り、1年未満の本の売上部数と図書館の所蔵数は高い相関関係にあるが、これは図書館に置いたから売れたのではなく、売れたから図書館からのリクエストが増えたと解釈するのが妥当である。だが注意しておきたいのは、発売後1~3年経過した場合である。全ての項目に於いて相関係数が減少しているが(図1)、所蔵数と売上の関係は単にピークを過ぎただけだが相関係数はプラスの値なので、やや売上には貢献している。だが経過月と売上、所蔵数と経過月の相関係数は、共にマイナスの値になっている。このことから図書館の所蔵数の多さは1年後を境にして売上に対して負の影響を与えていることが分かる。これは発売直後に図書館へのリクエストが殺到し、過度に蔵書したが、1年後に需要が減っていてもその所蔵数を据え置きにしているため供給過多に陥り、さらに追い打ちをかけるように本の価値を著しく下げてしまっていると言える。本来なら1年経ったら所蔵数を減らすべきだろう。
もう一つのシートでは公平を期するため、Amazonのサイトより「新書・文庫」カテゴリから、3年前の2007年7月発売の本のみを無作為に抽出した(表5)。母集団は1,079であったため、必要標本数もあるサイト(http://www.rikkyo.ne.jp/web/murase/04nmotome2.xls)を参考に、母集団の性質が測定しやすいに数に設定した。私の経験では、Amazonランキングで常に100,000位内であれば、ほぼ毎日安定した売上があり、商品の回転率が早い。なので、ランキングを100,000位内とそれ以外とに区分し、それぞれの所蔵数と売上の相関係数を算出してみた(表7)。ちなみに(表5)の地アミがグリーンのところがランキング100,000位内のタイトルである。また「売上部数値」とは、売上部数のことではなく、最低順位に近いキリ番から実際の順位を引いた値である。これはAmazonのサイトでは売上部数の表示がないことからこのように対処せざるを得なかったためご了承頂きたい。これによると100,000位内とそれ以外の相関係数に大差はなく、売上を決めるのは所蔵数ではなくコンテンツだということが分かる。また(表6)の右下、データ区間1~15の頻度が「23」なのは、図書館に所蔵したものの中で100,000位内に入った本の数である。これは(表8)をご覧頂くと、その割合は16.4%と僅かしかない。ここで推測統計の話に戻るが、「図書館に所蔵するとロングセラーになる」というのは、即ち50%の確率で100,000位内に入ると私は仮定(帰無仮説)している。だがこれを計算すると0.0%となり(表8:比率の検定のセル参照)、あまりにも稀な事象が起きている、つまり帰無仮説を仮定したことが間違いだと分かる。よって結論は「図書館に所蔵する≠ロングセラーになる」ので、いくら所蔵しても絶対にロングセラーにはならないのだ。 ※データ出典:オリコンランキング、Amazon(お断り:文章内での「表」は省略しています)