根源的な問い・興味

私の研究の根源的な興味は、我々のような生命体は宇宙でどれくらい一般的なのか、「我々はこの宇宙において孤独なのか?」を理解することです。このためには、宇宙における地球のような惑星の普遍性(どれくらい稀なのか)を把握し、生命の宿主としての惑星がどのように形成されるのかを理解することが不可欠と考えています。私の専門分野である「太陽系外惑星観測」では、太陽系の外にある様々な惑星の探索・調査に取り組むことで、最終的には、太陽系以外の場所で地球のような環境を発見する確率を評価し、地球外生命体を発見する可能性を探ることを目指します。この宇宙における我々のような生命体の文脈を理解することは、単純に好奇心を満たすだけでなく、地球上の生命の起源や過去・未来についての貴重な洞察を提供してくれると期待しています。

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マイクロレンズ法による冷たい系外惑星の探査

重力マイクロレンズ法

重力マイクロレンズ現象は、アインシュタインの一般相対性理論によって説明される天体物理学的な現象です。一般相対性理論によると、重力を持つ天体はその近くを通過する光の経路を曲げます。ある物体(レンズ)が観測者と背景にある星(光源星)の間を通過するとき、光源星からの光がレンズの重力によって曲げられ、光源がより明るく見えて観測されます。この際、通過する物体はレンズとして機能し、この明るく観測される現象を重力マイクロレンズと呼びます。レンズ物体に別の天体が付随しており、その重力がさらに光源の光に影響を与える場合、光度曲線に「anomaly (アノーマリー)」と呼ばれる歪みが観察されます。この光度曲線をモデル解析することにより、レンズに伴う星や惑星の物理的特性を推定することができます。

重力マイクロレンズは天体同士が重なって起きる現象であり、天体同士の離角は典型的にミリ秒角(360万分の1度)程度です。起きる確率は一つの星あたり100万分の1程度であるため、100万個以上の星をモニター観測する事で現象を発見できます。その中で、惑星由来のanomalyを発見する頻度はさらにその100分の1程度です。つまり、マイクロレンズ法では数千万〜数億個の星の明るさを詳細にモニターすることで惑星を発見することができます。

重力マイクロレンズ現象(連星レンズ)の概念図とその光度曲線。背景星の前を惑星を付随した天体(レンズ)が通過することで、背景星が一時的に増光して観測される。

太陽系外惑星分布とマイクロレンズ

20世紀末に太陽系外惑星が初めて発見されて以来、これまで5,000を超える太陽系外惑星が発見されてきました。これら約30年間の観測から、系外惑星の存在自体は珍しくないことが示されました。しかし、私たちの太陽系とは全く異なる物理的特性を持った系外惑星も多く発見されており、太陽系を基準とする標準的な惑星形成理論にはまだ重要な要素が欠けていることが示唆されます。

現在発見されている太陽系外惑星の大多数は、その主星(太陽系でいう太陽)に比較的近い場所に位置する高温の惑星であり、観測方法と精度の限界から、太陽系内の惑星と同様の温度を持つ惑星の分布はほとんど解明されていません。つまり、「太陽系の地球のような惑星がどれくらい普遍的なのか」はまだ解明されていません。重力マイクロレンズ法は、冷たく質量が小さい惑星にも検出感度を持つ唯一の方法であり他の系外惑星探査方法を補完する手法であるため、その惑星発見サンプルは 特に重要と考えられています。

私は地上望遠鏡で観測された重力マイクロレンズ現象の詳細な分析を通じて、いくつかの冷たい太陽系外惑星の検出に貢献してきました。近い将来、2027年には宇宙空間で重力マイクロレンズ惑星探査を行うRoman宇宙望遠鏡がNASAによって打ち上げられ、本格的に冷たい系外惑星の分布を解明されようとしています。現在、私はJAXA宇宙科学研究所でRoman計画に参加しており、科学成果創出に向けて活動に取り組んでいます。

既知の系外惑星の分布図(黒丸)。縦軸:惑星質量、横軸:軌道長半径。既知の系外惑星の大半は、主星に近い熱い惑星であり、主にKepler宇宙望遠鏡などで探査されてきた(赤領域はKeplerの惑星検出感度領域)。それに対して、Roman宇宙望遠鏡は主星から離れた冷たい系外惑星を包括的に解明する(青領域はRoman望遠鏡のマイクロレンズ法による惑星の検出感度)。太陽系内にある惑星は、Romanの検出感度領域に含まれている(Created based on Penny et al. 2019, ApJS, 241, 3)。
Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡(Credit:NASA GSFC)

参考論文

太陽系外惑星分布の年齢依存性の解明

既知の系外惑星系の年齢分布

これまでに5000個以上の太陽系外惑星が発見されていますが、これらの大部分は星団に属さない散在星(銀河系内に散在する星)に存在し、その恒星の推定年齢はおおよそ10億年から100億年の範囲にわたります。これらの惑星が形成されるタイムスケールは、原始惑星系円盤のガスが尽きる前の100万年から1000万年程度とされており、我々が観測しているのは、形成から相当な時間が経過した後の系外惑星の分布です。惑星系がどのように形成され進化するかを理解するためには、太陽のような星の約100億年の寿命を通じて、多様な年齢の星系を観測することが不可欠です。

現在、惑星の形成直後の分布を理解するため、散開星団などに属する若い惑星系の探査が積極的に行われています。しかしながら、若い星の数は比較的少なく、その活動性の高さから発見される惑星の数が限られているため、100万年のタイムスケールでの系外惑星の分布については依然として未解明のままです。一方で、10億年から100億年という長いタイムスケールにおける惑星系の進化も、多くの惑星が発見されているにも関わらず、その年齢に対する惑星分布が未だ十分に解明されていません。

数十億年スケールの惑星系の進化

数十億年という長い時間スケールでの惑星分布を解明する上で、星の年齢の推定が大きな課題の一つとなっています。恒星の主系列期は非常に安定し、観測データの変化も遅いため、星の年齢を観測的に決定する際には一般に大きな不確実性が伴います。さらに、この不確実性は星の金属量や質量といった他の物理パラメータと強く相関しており、これらのパラメータの変動が年齢推定に大きな影響を与えます。惑星系の分布はこれら多様な物理量に依存していると考えられるため、これらの影響を同時に考慮して年齢依存性を解明する必要があります。

この問題に対処するため、我々の研究ではベイジアン統計モデリングや階層的アプローチを用いて、星と惑星のパラメータの同時確率分布を推定する新しいフレームワークを開発しています。この数理的アプローチにより、個々の星や惑星系の不確実性を適切に扱いつつ、全体としての惑星発生率やその他の統計的特性を定量的に評価することが可能になります。例えば、ホットジュピターのような熱い巨大ガス惑星の存在確率が星の年齢とともにどのように変化するかを明らかにすることができます。

今後、観測と数理的アプローチが組み合わさることで、太陽系外惑星の時間に対する分布が観測的に解明され、我々の太陽系が現在の形に至った過程、および他の系での惑星形成と進化の過程をより深く理解することが可能になると期待しています。

太陽のような恒星が年齢とともにどのように「進化」するのか示した図(credit: ESA)。縦軸がluminosity (明るさ)、横軸がtemperature (温度)、billion yearsは10億年に対応。数十億年までは星は「主系列」に留まりほとんど観測量を変えないため、観測量から年齢を推定することが難しい。

参考論文

銀河系中心の惑星探査を行う新たな手法の提案・開発

既知の系外惑星の銀河系内空間分布

銀河系内の惑星分布は、主にその発見手法に大きく依存しています。例えば、視線速度法で発見された惑星は太陽系に近い領域に集中おり、これは比較的明るい星のスペクトルを取得する必要があるためです。一方、トランジット法で発見された惑星は比較的広範囲にわたっていますが、特定の観測プロジェクトがカバーする領域に属しています(主にKepler衛星のサーベイ領域)。マイクロレンズ法で発見された惑星系は、銀河系中心に近い領域で多く見られ、これはマイクロレンズ現象がこの領域で最も頻繁に起き、その領域をサーベイしているためです。

銀河系内での惑星形成の環境が場所によって異なる可能性が示唆されています。例えば、銀河の中心に近い領域では、星間物質の密度が高く、惑星形成が活発である可能性があります。より詳細な銀河系内での惑星分布のマッピングから、銀河系の進化に対する惑星形成の理論や惑星系の銀河系内位置依存性についての理解が深まると期待されます。

銀河系内の既知の系外惑星の空間分布(NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurtを元に作成)。発見手法毎に色付けされている。系外惑星が密集している部分は太陽系の位置に該当しており、主に視線速度法(緑)やトランジット法(オレンジ)で、太陽系近傍の系外惑星探査が活発に行われてきている。これに対して、重力マイクロレンズ法(赤)は太陽系と銀河系中心(シアンの星)の間に位置する幅広い空間の系外惑星系に検出感度をもつ。

ザララップ効果を用いた銀河系中心領域の惑星探査

NASAのRoman宇宙望遠鏡は2027年に打ち上げられる予定であり、重力マイクロレンズ法を用いて冷たい系外惑星探査に特化した観測を行います。マイクロレンズ法は、前述の通り、光源星の手前を通過するレンズ天体に付随する惑星を発見する手法です。

しかし、さらにXallarap(ザララップ)効果と呼ばれる手法を用いることで光源星に付随する惑星も検出することができます。これは、惑星が光源星の周りを公転する際に引き起こされる、微小な重心移動の影響を重力マイクロレンズの光度曲線から検出することで達成できます。このザララップ効果は質量が大きく軌道が小さい惑星に効果的であるので、銀河系中心に位置する光源星周りのホットジュピター(高温の巨大ガス惑星)の観測に最適です。

Roman宇宙望遠鏡によるこれらの調査により、銀河系中心部における惑星形成と進化に関する新たな洞察を提供することが期待されます。銀河系中心部には古い星が多く、これらの星の周りで見つかる惑星系は、惑星がその恒星の近くで形成されるのか、それとも遠くで形成されてから内側に移動するのかという問題に光を当てる可能性があります。また、恒星間の相互作用や超新星の影響を受ける頻度が高いため、これらが惑星形成にどのように影響するかを解明する手がかりを提供する​と期待されます。

このアニメーションはXallarap(ザララップ)効果を示しています。惑星が光源星の周りを公転するとき、その重力により光源星の位置を少しずらします。これにより、観測者に対して完全な一直線上に近づいたり離れたりします。観測者に近い側の星が天然のレンズとして働くため、光源星の光は惑星の公転によって周期的に焦点を合わせたりずらされたりします。この星の光の小さな変動を捉えることで、惑星の存在を推測することができます。

https://www.nasa.gov/missions/roman-space-telescope/nasas-roman-mission-will-probe-galaxys-core-for-hot-jupiters-brown-dwarfs/

参考論文