有機電界効果トランジスタ(Organic Field-Effect Transistor, OFET)を指向した有機半導体の電子工学への実用が注目されています。有機半導体は、シリコン半導体に比べ、より低温で製膜でき、また、柔軟性をもつものも製作可能なため、折り曲げ可能なディスプレイや電子ペーパーや各種センサーなどへの応用が期待されています。また、可溶性有機半導体ならば、スピンコートやインクジェット方式などの溶液プロセスでの素子作製も可能となり、高温・高真空が必要な従来の真空蒸着による製膜に比べ、低コスト化・大面積化も期待できます。以上のことから、OFET用有機半導体が盛んに研究されています。

ベンゼン環が5つ連結したペンタセンは優れたFET特性を示し、FET用有機半導体の最有力候補の1つとして盛んに研究されています。しかし、ペンタセンはヘリングボーン型パッキング構造をとるため分子間でのπ軌道の重なりはあまり大きくなく、潜在的機能を十分発揮していない可能性があります。また、ペンタセンは、難溶性のため溶液プロセスには不向きで、しかも、酸素酸化や光酸化を受けやすく非常に不安定です。

以上の背景から、私たちは、光・空気に安定かつ可溶で、π軌道の重なりの大きなcofacial π-スタッキングに分子配列制御可能な有機電界効果トランジスタ用半導体の開発を目指して研究しています。

1. ビス(メチルチオ)アセン: S・・・S相互作用に基づく分子配列制御とOFET

2. 位置選択的ジボリルテトラセン:パイ共役拡張テトラセン合成の鍵中間体

☆現在と今後の展開

(1) ビス(メチルチオ)アセンに関しては、高いホール移動度が期待される2次元的なπ-スタックアセンカラムを形成するよう工夫し、光・空気に安定かつ可溶で高性能なFET特性を示す半導体を目指しています。

(2) ジボリルテトラセンとジボリルアントラセンを合成鍵中間体として、さらに、多種多様なパイ共役拡張テトラセンおよびアントラセン誘導体を合成して、FET特性、OLED特性等を発現する材料を目指しています。