下出 敦夫 (Atsuo Shitade)

大阪大学 産業科学研究所 ナノ機能予測研究分野 (南谷研究室) 准教授

Atsuo Shitade, "Spin accumulation in the spin Nernst effect", Phys. Rev. B 106, 045203 (2022); arXiv:2205.05872.

スピン流論文第2弾はずっとやりたかったスピンNernst効果.第1弾 [Shitade and Tatara, Phys. Rev. B 105, L201202 (2022).]を2021年12月に投稿してすぐに簡単だと気付いて,2022年1月には原稿がほぼできていたが,簡単すぎて第1弾が出版されるまで投稿しなかった議論をどこまでどのように書くかずっと悩んだけれども,穏当な表現に落ち着いたと信じたい.実際には査読では何もつっこまれず,残念だった気がしないでもない.5年半ぶりの単著.

Atsuo Shitade and Gen Tatara, "Spin accumulation without spin current", Phys. Rev. B 105, L201202 (2022); arXiv:2112.11043.

スピン流論文第1弾.多々良さんの論文 [Tatara, Phys. Rev. B 98, 174422 (2018).]を応用すればずっとやりたかったスピンNernst効果を理解できるはずだと理化学研究所にいた頃から注目していて,まずはスピンHall効果について重い腰を上げて手を動かしてみた.当時の同僚で日本に戻ってきた藤本さんにどういうFeynman図を計算すればよいか教わったら,信じてスピン流を送り出せてもいないのにスピンになってた. これは久々のPhys. Rev. Lett.や!と意気込んだが,査読でスピン蓄積に着目した数値計算が大量にあることを指摘され,まあ仕方ないなというところに落ち着いた.

Atsuo Shitade and Yasufumi Araki, "Magnetization energy current in the axial magnetic effect", Phys. Rev. B 103, 155202 (2021); arXiv:2102.09236.

高エネルギー論文第2弾.第1弾 [Shitade, Mameda, and Hayata, Phys. Rev. B 102, 205201 (2020).]を投稿してすぐにメールで質問を受けたのだが,どう見ても査読者になったので返信できないまま続けて論文を書いた.家田さんに別件 [Shitade and Minamitani, New J. Phys. 22, 113023 (2020).]でセミナーを依頼され,出張したいという強い気持ちで訪問して荒木さんに相談した.計算はすぐにできたのだが,磁化エネルギー流であるという理解にいたるまでに時間がかかり,量子異常の泥沼にはまってしまったのもいい思い出.図が9枚もあるのは自己最多.


Akito Daido, Atsuo Shitade, and Youichi Yanase, "Thermodynamic approach to electric quadrupole moments", Phys. Rev. B 102, 235149 (2020); arXiv:2010.13999.

多極子論文第4弾.第2弾 [Shitade, Daido, and Yanase, Phys. Rev. B 99, 024404 (2019).]の共著者の大同さんが電気四極子についてまとめ上げてくれた.2019年9月のJ-Physics 2019 International Conferenceで競合他社と雑談したのも今は昔.13年ぶり2度目の第2著者なので緊張した.

Atsuo Shitade and Emi Minamitani, "Geometric spin-orbit coupling and chirality-induced spin selectivity", New J. Phys. 22, 113023 (2020); arXiv:2002.05371.

2019年11月に分子科学研究所に着任して初めて書いた論文.着任して2週間後にSanta Barbaraで行われたSpintronics Meets Topology in Quantum Materialsに参加し,初めてお会いした同僚の廣部さんからカイラリティ誘起スピン選択性という現象について教わり,投稿まで3ヶ月で漕ぎ着けた.所内で研究しているグループがあるという意味で社会性も高いと思う.相変わらず曲がった空間で遊んでおり,分野を変えたわけではない.色々な不運によって出版まで9ヶ月かかった.最後に査読者からもらったコメントが印象的だったのでここに残しておきたい.

Moreover, if weaknesses cannot be allowed in the theoretical advances we attempt I believe that we should not publish theoretical papers at all. There are always and there will always be certain aspects of a theory that cannot withstand all tests. The ideal is of course to put forward something that is untouchable, however, thus far there is nothing theoretical at all, anywhere, that goes above that cut. However, if there is something to be learnt from a theoretical consideration, it is definitely worthy to be published. Especially under the pretext that written publications represent one of our channels to communicate and debate scientific progress. It is not about the truth, it is about finding the best ways to understand nature.

Atsuo Shitade, Kazuya Mameda, and Tomoya Hayata, "Chiral vortical effect in relativistic and nonrelativistic systems", Phys. Rev. B 102, 205201 (2020); arXiv:2008.13320.

2019年12月に京都大学で行われたQuantum kinetic theories in magnetic and vortical fieldsに参加し,豆田さんの論文 [Liu, Gao, Mameda, and Huang, Phys. Rev. D 99, 085014 (2019).]について教わる過程で得られた副産物を論文にまとめた.私の理解が不足した状態で原稿を書くということを繰り返したのでかなり時間がかかってしまったし,京都大学にいたときに色々 [Toshio, Takasan, and Kawakami, Phys. Rev. Res. 2, 032021(R) (2020).]教わった兎子尾さんにも迷惑をかけてしまった.高エネルギー物理ならではの問題意識や制約を学べたので楽しかった.

Atsuo Shitade and Youichi Yanase, "Magnon gravitomagnetoelectric effect in noncentrosymmetric antiferromagnetic insulators", Phys. Rev. B 100, 224416 (2019); arXiv:1906.12031.

多極子論文第3弾.2018年11月に加藤さんに招いていただいた駒場物性セミナーで,同期の塩見さんに質問されて始めた.対称性的には出るから面白くないと思っていたのに,やってみたら普通の磁性体では出なかったので驚いた.とはいえ禁止されているわけではなく,うまく設計すれば出なくはない (測定可能とは言っていない)ので,落としどころに困った.

Atsuo Shitade, Akito Daido, and Youichi Yanase, "Theory of spin magnetic quadrupole moment and temperature-gradient-induced magnetization", Phys. Rev. B 99, 024404 (2019); arXiv:1811.05596.

多極子論文第2弾.スピン磁気四極子の2つの公式 [Batista, Ortiz, and Aligia, Phys. Rev. Lett. 101, 077203 (2008); Gao, Vanderbilt, and Xiao, Phys. Rev. B 97, 134423 (2018).]の矛盾が気になっていたので,昔流行ったスピンHall効果の知見を掘り起こした.もう1点,温度勾配によって磁化が誘起される現象についても先行研究 [Dyrdał, Inglot, Dugaev, and Barnaś, Phys. Rev. B 87, 245309 (2013).]の不備とスピン磁気四極子の重要性を指摘した,とても"自分らしい"論文.学部時代に"電磁気学I,II" (太田 浩一, 丸善)の計算を全部追ったことを思い出しながら,多極子を単なる群論の言い換えで終わらせないという気持ちで書いた.

Atsuo Shitade, Hikaru Watanabe, and Youichi Yanase, "Theory of orbital magnetic quadrupole moment and magnetoelectric susceptibility", Phys. Rev. B 98, 020407(R) (2018); arXiv:1803.00217.

多極子論文第1弾.ゲージ共変な勾配展開を真面目に計算したので何かに使えないかと悩んでいたときに,スピン磁気四極子の論文 [Gao, Vanderbilt, and Xiao, Phys. Rev. B 97, 134423 (2018).]を読んで,軌道磁気四極子をやろうと思い立った.当然ではあるが,すぐに本人たちが同じ内容の論文を出してきた [Gao and Xiao, Phys. Rev. B 98, 060402(R) (2018).].磁気四極子の熱力学的定義と電気磁気感受率の関係をまず第一に置いて,短い数式数行で簡潔に示しているので,読みやすい...と思う.