我々の身の回りには様々な現象があります。例えば、物は下に落ちていきます。例えば、空はどこの国でも青いです。例えば、標高が高い場所にいくと水は100度を待たずに沸騰します。これら自体を知っている人は多いと思います。しかし、これらはなぜそうなったんでしょうか?そう考え出すと実は我々の身の回りは不思議で溢れているのかもしれません。これらの不思議な現象に対して、理由を問うのが「物理」という学問になります。私は、この物理を武器に、宇宙の進化や起源を問う「宇宙論」という分野で研究を行っています。例えば、現在の宇宙は加速度的に膨張していることが観測されています。加速度は力が働かないと現れませんから、宇宙に斥け合う力が働いていることになります。宇宙には星や銀河のような構造がたくさんありますから、重力で引かれ合うはずです。なのに、加速膨張している。これは、宇宙論の未解決問題の1つとなっています。これに対して、重力理論 (アインシュタインの一般相対性理論) を拡張し、解決を試みるのが私の研究の1つです。最近では、ブラックホール連星の合体に伴う時空の揺らぎ「重力波」が観測できるようになったことから、ブラックホールの研究も行っています。
中学校の理科(エネルギー分野)では、我々の身の回りにどのような現象があるのかをまず見られるようになることを目標に現象を見ています。例えば、回路がどうやってできているのか?、物体がどう動くのか、太陽がどう動いているのか、宇宙にはどんなものがあるかなど様々です。学術的には、現象自体の認識と定性的な部分を簡単に扱っています。
高専(高校、大学低学年)では、エネルギー分野で習った事柄を、式(数学)を使って掘り下げていきます。例えば、物体が重力によって落下する運動なら何秒後に速度がいくつになるのか落下位置がどこになるのかこれらを式で求めていきます。これには、①式をどのように表すか、②それを数学としてどう計算していくか、の2つの要素が必要になるため大変になっていきます。その代わりにその物体が落下することで何が起こるのか予言できるようになります。この部分は物作りをする際、設計をするのに非常に重要な見方になります。ということで高専では、物理が一般科目として導入されています。私は、このような視点で高専生に物理を教えていました。
理論に基づいた予言を行なったり、実際に実験や観測を行うことが、学問的には、その現象の背景にある理論体系の片鱗が垣間見るきっかけになってきます。大学の物理までいくと、実際に現象の背景にある物理を扱い始めます。理論物理と呼ばれる分野です。先ほどの落下運動を例にすると、地球の作る重力場(いわゆる万有引力)によって物は地球の中心に引きつけられることで、落下運動を起こしていることに目が向けられるようになります。この重力は、直接押したり引っ張ったりすることで生じる接触力ではなく、遠隔的に作用する場によって生じる力であることがわかります。では、この場とは一体どんなものがあるのか?どんな性質があるのか?とどんどん進んでいきます。最終的に辿り着く先がなんであるかと問い始めます。こうして研究に行きつきます。とてもワクワクしますよね。
研究というととても難しそうに聞こえるかもしれませんが、一般人の生活で求めていることと本質的には変わりません。学問を劇的に発展させるような研究は常人ではできませんが、研究はできます。研究は料理に似ています。少し味付けを変えたり、材料の配分を変えたりするだけで料理は美味しくできます。研究も同じで、あるものを少し変え、変える前と比較をします。そうすることで、変えたあるものの重要性や普遍性が見えてくるわけです。これを繰り返していくことで学問は進展してきたと私は考えています。この文章を読んでいるあなたは面白いと思えたでしょうか?思えたのなら、あなたもぜひ理論物理に触れてみてください。きっと楽しいと思います。
小中学校の理科で学ぶ物理では、現実に起こる現象、触れる機会の多い対象に重きを置いています。例えば、高電圧に触れたらあぶないということは大人なら知らない人はいないと思いますが、子供達は知りません。あるいは、可視光がエネルギーを運んでいて、皮膚に当たると暖かく感じることができますし、太陽光パネルにあてれば発電することができます。このような大人にとって当たり前と思えること「科学リテラシー」を身につけてもらうことが大きな目標になると思います。そのため、座学で知識を勉強することももちろん大事なのですが、実験を実施して体験していくことが重要になります。
兵教大では、このような観点で実験をベースとした実験授業を実施しています。初等理科実験では、器具の扱いや安全の確認はもちろんですが、その実験で生徒が獲得する知識と技術について意識させ、どのように伝えるべきなのか考えてもらっています。また、与えられた実験に対して、どのような比較・関連づけ・条件制御を行うべきなのか自ら考えられるようになってもらうことも理科科目の使命となりますので、それをどのように生徒に養わせることができるか考えてもらっています。中等理科実験では、初等に比べて複雑な、あるいは可視化できない実験も多くなってきます。とはいえ、初等レベルから大きく難しくなることはそこまでなく、定性的な特徴を探る実験が多いです。そのため、理科が暗記科目化しがちになっていきます。高校受験もあるため、そのような意識になってしまうのもわかりますが、高校に上がって急に難易度が上がったと感じる大きな要因となります。学生にはそのように生徒をさせないため、論理立てた説明を心がけてもらい、どのような目的で実験を行い、その結果からその実験の対象となった物体あるいは現象について何がどこまでわかったことになるのか考えてもらっています。
高校物理では、数学を道具にして現象を理解したり、定量的な評価していくようになります。第一原理計算とは言わないまでも、考えたい現象をまず理解して、それをどのように式に落とし、どうなるかを計算しなくてはなりません。しかも、電磁気や電磁波といった目に見えるとは限らない状況や現実で実験できない状況も出てきます。(例えば、ビルの屋上からの自由落下などは危ないのでできません。)実験に関しては、高額な実験器具の導入が必要になったり大学受験の兼ね合いで、実施できない高校も多くなります。そのため、小中学校の理科に比べて理解度がかなり下がっていきます。この状況の中で、高校物理を教えるのはかなりハードルが高いと思います。覚える知識も多くなる中で、大事になるのはエッセンスが何かを意識することです。例えば、物理基礎で習う質点の力学を考えるとわかりやすいです。ここで習う項目は大きく分けると、等加速度直線運動、直線運動から平面運動への拡張、力のつり合い、運動方程式、力学的エネルギーの保存という風になっています。たぶん教科書ではもっと細かく章分けがされると思いますが、上記の項目を理解するための準備や応用に当たると思います。なので、なぜそれが大事なのか、それをするためにどうしたらいいのかを話すようにし、エッセンスとなる部分の説明と大事な問題の解説に注力するのがいいと思います。そこまで体系化をしないと生徒が授業を聞いて理解できる状態までもっていくことはできないと思います。私が受けた教育を振り返ると、この体系化は個人に任されていたように思います。しかし、高校の当時にこの体系化ができていたかと言われると全くできておらず、暗記しただけになっていました。(大学で物理学科に進学したことでこのギャップを受けて、劣等感と物理の魅力両方を受け取ることとなりました。)兵教大で行っている高校物理の授業では、体系化をした形で高校物理を教え、その上で体系化する意識や訓練すべきことを話しています。