「意訳」
二〇三高地はいかに険しくとも、どうして攀じ登れないことがあろうか。男子たるもの、功名を立てようとする
その決意のもとに激戦し、ついに砲弾の鉄片と将兵の尊い血が山を覆うて山の形さえ変わってしまった。誰しも皆この地を仰ぎ見るとき、嗚呼(ああ)爾(なんじ)の霊の山と、等しく仰ぎ慰めるであろう。ならば、艱難辛苦に打ち克とうという覚悟が肝要である。
(漢詞の読み方)
爾霊山 <乃木 希典>
爾霊山は𡸴なれども 豈攀じ難からんや
男子功名 克艱を期す
鉄血山を覆うて 山形改まる
万人斉しく仰ぐ 爾霊山
「意訳」
月照と西郷が互いに手を取り合って薩摩の海に身を投じたが、自分だけが生き残ってしまった。いかに運命であるとはいえ思いもよらぬことであった。
思い起こせばあれから早十余年の歳月が過ぎ去り、まるで夢のようである。今ここにあの世とこの世に住む所を異にして、たがいに相語り相見(まみ)ゆることが出来ないのは何としても残念で、悲しさに堪えず、墓前で嘆き叫ぶのである。
(漢詞の読み方)
月照墓前の作 <西郷 南洲>
相約して淵に投ず 後先無し
豈図らんや 波上 再生の縁
頭を回らせば 十有余年の夢
空しく幽明を隔てて 墓前に哭す
「意訳」
幕府の力も落ちて今にも国運が傾こうとしているとき、土佐の風雲児、坂本龍馬が立ち上がり、新しい国づくりのため、大政奉還を推進すべく京都を駆け巡った。
だがある夜、荒れ狂う風が大樹を吹き折るように、龍馬は明治維新を見ることなく凶刃(きょうじん)に倒れたが、その後、維新の大業が成ったのは、ひとえに龍馬の命を賭(と)しての働きがあったおかげである。
(漢詞の読み方)
坂本龍馬を思う <河野天籟>
幕雲日を掩うて 日 将に傾かんとす
南海の臥龍 帝京に翔る
一夜狂風 幹を折ると雖も
維新の大業 君に頼って成る
「意訳」
人の命は、夢や煙のようにはかなく、定めのないものと分かってはいるが、君の死にあってみると、唯ぼんやりと、心も暗く打ち沈んでしまう。
在りし日の君の姿をしのんで、名前を呼んでも答えてくれず、恨みだけが永く続いてつきることはない。
(漢詞の読み方)
追悼の詩 <安達漢城>
人生夢の若く 亦煙の如し
君逝きて茫茫 轉暗然
髣髴たる温容 呼べども答えず
大空漠漠 恨み綿綿
「句意」
朝早く、起き出してみると、井戸の釣瓶に朝顔がからみついて咲いており、それをはずして水を汲むには忍びず、そのままにして近所からもらい水をした。 黎明(れいめい)の横雲を破って東の空に、赤々と一直線に昇ってくる朝日のように、さわやかな気分を常に持ちたいものである。
(読み方)
あさがおに つるべとられて もらひ<い>みず
「意訳」
呉王の姑蘇臺は古びた庭園や荒れた高台になってしまったが、そのなかで楊柳だけが今年も新しい芽をふいた。水面(みずも)をわたる菱採(ひしと)りの乙女らの清らかな声を聞けば、やるせない春愁(しゅんしゅう)にたえられない。
春を謳歌した呉王の宮殿(蘇台)には、只今は西に流れる川を月が照らしているばかりである。曽(かつ)ては呉王の宮殿の美女(西施)の姿を照らしていたものだが・・・。
漢詞の読み方)
蘇臺覽古<李白>
舊苑荒臺 楊柳新たなり
菱歌清唱 春に勝えず
唯今惟 西江の月のみ有りて
曽て照らす 呉王 宮裏の人
意訳」
自分は、故郷水戸を去る決心もでき、今異郷に赴(おもむ)こうとしている。この生別はすなわち死別なのだ。
しかし年端(としは)もいかぬ弟や妹は、兄の心も知らず、袖をひいて、帰りはいつなのかと問うのが哀(あわ)れである。
(漢詞の読み方)
出郷の作<佐野竹之助>
決然國を去って 天涯に向こう
生別又兼ぬ 死別の時
弟妹は知らず 阿兄の志
慇懃袖を牽いて 歸期を問う
「意訳」
黎明(れいめい)の横雲を破って東の空に、赤々と一直線に昇ってくる朝日のように、さわやかな気分を常に持ちたいものである。
(読み方)
さしのぼる<明治天皇御製>
さしのぼる 朝日の如く さわやかに
もた まほしきは 心なりけり
「意訳」
足利勢によって攻め立てられた南朝の運命は、一本の糸、すなわち楠公一族にかかっていた。今は楠公とその一族も死に絶えて、亡びてしまっているが、その名は永く伝えられている。
限りなき寂しさを誘う秋風の中、その霊を弔うべく湊川を訪ね、大楠公の忠烈に泣いてきた。今また四条畷(なわて)の小楠公の墓の前に立って、さらに同じ感慨を以ってさめざめと涙を流すのであった。
(漢詞の読み方)
小楠公の墓を弔う <杉 孫七郎>
南朝の命脈 一糸懸かる
身は死し家は亡びて 名は永く伝う
限り無きの秋風 湊川の涙
也此の地に来って 灑ぐこと澘然
「意訳」
遠くからやって来て、晩秋の寂しい山に登ると、小石の多い道がふもとから斜めに頂上に向かって続いている。白雲のわき起こるような高い所にも人家があるとは本当に感心したものだ。
車を停めて、なんとなく夕日に照り映えた美しい楓(かえで)の林にうっとりと見とれてしまう。霜に色づけられた楓の葉は、2月に咲く花よりもまっ赤で燃えるように美しい。
(漢詞の読み方)
山行<杜牧>
遠く寒山に上れば 石径斜めなり
白雲生ずる処 人家有り
車を停めて坐に愛す 楓林の晩
霜葉は二月の 花よりも紅なり
「意訳」
遠く南朝のころからの古木は冷たい靄(もや)に閉ざされ、600年の歳月を隔てて、楠公の事跡もむなしく一場の夢と化してしまった。
このことを幾度か天に向かって尋ねてみたが、天はいっこうに答えてくれるはずもなく、ただ金剛山の麓に、寂しく夕暮れの雲が帰っていくのが見えるばかりである。
(漢詞の読み方)
河内路上 <菊池 渓琴>
南朝の古木 寒霏に鎖さる
六百の春秋 一夢非なり
幾度か天に問えども 天は答えず
金剛山下 暮雲帰る
「意訳」
太田道灌が武蔵野に狩りに出た折り、にわか雨にあい、家来達ともはぐれてしまった。おりよく茅ぶきの家があり、蓑を借りたいと頼んだが、出てきた少女が無言のまま、山吹の一枝を差しだした。
少女も語らず、花も語らず、道灌は意味がわからず、けげんに思ったまま城に帰った。後、古歌の由来を聞き、多いに恥じて歌道に精進した。
(漢詞の読み方)
太田道灌 <愛敬 四山>
孤鞍雨を衝いて 茅茨を叩く
少女為に遺る 花一枝
少女は言わず 花語らず
英雄の心緒乱れて 糸の如し
「意訳」
遠くから海亀の背のような形の島を眺めると、ちょうど仙人の住むという蓬萊山のようであり、たなびいている雲煙は、厳島神社の楼台を覆っているかのようである。
夜になって、月は長い廊下を照らして、湾の上は非常に静かであり、それに加えて、幾万もあろうかと思われる燈籠(とうろう)の明かりがちょうど星が並んでいるように波に映って美しく動いている。
(漢詞の読み方)
嚴島<浅野坤山>
遙かに鼇背を觀れば一蓬莱
靉靉たる雲煙瑞臺を擁す
月は長廊に落ち灣上静かなり
萬燈の星列波を照らして來る