「意訳」
自分が胸に抱え持っている盛んな意気込みは厳しく雄大で(何人にも愧=は=じることなく)大空に満ち溢れている。わが日本帝国において自分以外に誰が天皇陛下の御威光を盛んならしめる者がいるであろうか。
今、この高楼に上って幾杯かの酒を傾けながら古今の英雄・豪傑をあれこれ物色してみるに、誰も彼も自分の眼中に入って、ものの数でもなく思えるのである。
(漢詞の読み方)
某楼に飲む <伊藤 博文>
豪気堂堂 大空に横たわる
日東誰か帝威をして 隆んならしめん
高楼傾け尽くす 三杯の酒
天下の英雄 眼中に在り
「意訳」
江南地方には春が千里四方に満ちていて、いたる所で鶯(うぐいす)が鳴き、緑の若葉は赤い花に映りあってまことに美しい。水辺の村にも山あいの村にも、酒屋の旗が春風(はるかぜ)にひらめいているのが見える。
思えばあの南朝のころには仏教が盛んで、この地にも480もの寺院が建てられていたというが、今もなお多くの楼台がその名残(なごり)をとどめ、煙るような霧雨の中に聳(そび)え立っているのがあちらこちらに見える。
(漢詞の読み方)
江南春望 <杜 牧> こうなんしゅんぼう <とぼく>
千里鶯啼いて 緑紅に映ず せんりうぐいすないて みどりくれない
に えいず
水村山郭 酒旗の風 すいそんさんかく しゅきのかぜ
南朝 四百八十寺 なんちょう しひゃくはちじゅうじ
多少の楼台 煙雨の中 たしょうのろうだい えんうのうち