情報をデザインする
学会や研究室のセミナーでは、なんの資料もなしに発表に臨むことは少なく、スライドやポスターといった媒体(メディア)を使って、研究成果などの報告を行ないます。それは、話し手にとっても聞き手にとっても、視覚的なメディアが情報伝達の大きな助けになるからです。人は、多くの部分で視覚に頼ります。言葉でいくら説明されるよりも、写真やグラフ、模式図を見るほうがよっぽどわかりやすいですし、口から発する言葉だけでなく、言葉を視覚化することは理解の助けになります。また、当然のことながら、研究という分野では、データ(研究結果)を見て議論することは必要不可欠です。このようなことから、研究発表において、よりわかりやすく、そして正確に情報を伝えるために、視覚的なメディアは欠かすことができません。
一方で、情報を受け取る人には視覚の能力や感覚、感性に多様性が存在します。色覚多様性や視覚過敏はその代表的な例です。そのため、受け手の多様性に配慮を欠いた資料は、正確な情報伝達を妨げるだけでなく、受け手に多大な負担や不快感を与える恐れがあります。また、視覚的配慮に欠ける資料は、多かれ少なかれ、どのような人にとっても読みづらい、見づらいなどのストレスを与えてしまいます。視覚メディアのユニバーサルデザイン化を進めることは全ての人にとって見やすい資料を作ることであり、多様性社会におけるコミュニケーションの基盤となります。
1枚のスライドには一つのメッセージだけを書くとか、とにかく大きな文字がよいとか、極端なプレゼン資料を推奨するものもあります。たしかに、これらは間違ってはいないかもしれません。文字は少なく、大きいに越したことはありません。しかし、実際の研究の現場では、情報を正確に伝えて議論を行なうために、ある程度の量の情報を詰め込む必要があり、資料が図や写真、文章が多くなってしまう方がふつうです。したがって、ある程度情報が多くても、受け手が正確かつスムーズに理解できるような情報デザインのテクニック(多くの情報を整理し、きれいにまとめ、見やすくするテクニック)が必要になるのです。情報デザインはたくさんの情報を正確に伝えるために必要不可欠なツールなのです。
資料作成におけるデザインには、大きく2つの役割があります。一つは、情報を整理して、理解しやすい形にすることで、受け手にストレスを与えず、正確かつ効率的に情報が伝わるという役割。もう一つは、見栄えのよいキャッチーな資料を作成することで、より効果的に情報を伝達し興味を引きつける役割です。研究を発展させる上ではより多くの人と議論することが重要であり、資料の「見栄えのよさ」、「美しさ」、「アイキャッチ」も少なからず役割を果たします。学会のポスター会場で、見栄えのよいアトラクティブなポスターの前に立っていれば、思いもよらない人が足を止めてくれるかもしれません。「読みやすさ」、「見やすさ」、「見栄えのよさ」が三位一体となったとき、多くの人を惹きつける伝わる研究発表メディアが生まれます。