節夫さんと私

○ 第1回 竹上一彦(農民運動長野県連合会会長)


 私は農業高校卒業後1年間小諸の県農業専門学校で養豚を学び、19歳で同じ集落の仲間2人と共同で養豚経営に取り組みました。それと同時に農民組合にも参加しました。その運動は米価闘争を中心に、米、みかん、豚肉輸入自由化など政治活動が多く、社会党系、共産党系などと支持政党別の活動であり、なにか不自然でした。

 今から約30年前、農民運動全国連合会(農民連)全国大会が東京で行われました。上伊那では私と飯島光豊氏2人が参加しました。小林節夫さんは「農民運動の全国センターを考える懇談会(略称「農民懇」)代表としてあいさつし、「『物をつくってこそ農民』私たちの要求は、政治活動は重要だが一政党の政治活動ではない。自由だ。国民の食糧などいろいろ生産し、生活を豊かにする要求で一致する運動である」との提案があり、本当にびっくりし感動しました。

 上伊那に帰り、何か良い特産品はないか何回も会議を開きました。その中で飯島さんから、昔ながらの「白毛もち」と呼ばれるもち米があることを知りました。味はとても良く美味しいもちであるが、草丈が長く終了が少なく作りづらいが、上伊那農民組合としてやろうと決めました。種は伊那の農業者からひとにぎり分けていただき、1aからはじめて今では7㏊、米にして650俵まで増えました。稲わらは、大相撲の土俵の材料となっています。

 農民連発足時の提案は、その後の仲間の運動と経験で太くなっています。税金のテキストは、より寶うふとなり、全農民の要求に応えられます。新型コロナウィルスの感染拡大は、食糧自給率を挙げることが緊急の課題になっていることを示しています。

 先日、農民連の関東ブロックの会議がありました。その中でもいろいろな話題がでました。テレビを見ると料理番組がとても多い。けれど、その材料を誰がどのようにつくっているかはほとんど出てきません。「つくる人の心を大事にするっていうことがないならダメだ」と節夫さんはよく言っていました。誰でも食べなければ生きていくことはできません。食べる物は何より大切であり、作る人だけではなく、消費する人も一緒に考えていかなければならないと言い、消費者との交流会などでは非農家の人たちにも野菜などをつくることを勧めていました。

 自民党の農政は、農産物を輸出して儲けろと言います。ところが輸出の中身は加工品が多く、それらは外国から輸入された安い原料でつくっています。農業農民のことを考えてのことではありません。農業を、人の命を守る糧としてまた日本の大地を守るものとして考えたりはしていません。

 今、世界で食糧が足りていない人は8億人といいます。中東の国々は食糧自給率が10%以下、紛争も一番多いです。自給率の低い日本が世界の国々から食糧を輸入すれば、ますます飢餓人口を増やすことに手を貸します。

 日本は山があって水が豊か、気候も穏やかでどこでも農業ができる好条件を持っています。しかもおいしいものができる。本来なら里山を活かし、農地を耕して生産し、働く場も人々の生きる糧も作り出せる条件を持っています。それは、広大な平地での大規模農業だけがあればいいというのとは全く違います。

 国連は今、家族農業の10年を定め取り組んでいます。世界の食糧生産の8割は家族農業です。大規模農業だけが世界の人々を養うことはできません。アメリカから来る小麦は、大規模農業で作られ収穫前に大量のラウンドアップ(除草剤)をかけて手間を省いています。ラウンドアップはその毒性がアメリカでも裁判に訴えられています。日本の子どもたちの給食に出るパンにも残留が検出されています。

今私たちは米粉の麺つくりにも取り組んでいます。

百姓はすごい。災害があっても、また来年も耕すという粘り強さ、我慢強さを持っています。そのことが大切にされ、発揮できる世にしなければ。また働く人が最も尊ばれなければならないと節夫さんはよく話されていました。

節夫さんの偉業に学び、今後に生かすためにも文庫実現が大切だと思います。

 (2020.12)

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