書籍などの紹介

○ 『怒りの炎-農 星霜と夢』本の泉社 

           定価2190円(税別) 初版2005年1月15日

 雑誌『ロゴス』に掲載された書評(一労働者)

 私たち「町場」の人間は農業について知ることが少ない。食が生活の根本であり、農畜産物のほかに食を得る手段が無いにもかかわらず、である。戦後日本農業の歴史を見ると罪ある無知が支配していたと言わざるを得ない。「小規模経営」「過剰投資」「補助金漬け」「国際分業」といった政財界の日本農業への攻撃は、いつの間にか常識となっていた。戦後日本の農業史を多少ともひもとくと、そればかりが目につく。自国の農業を広い意味で保護養成することがなぜできなかったのだろう。

本書ではたびたび言及される「対米従属」という言葉をめぐっては、かつて様々に立場が分かれ論争の的であった。しかし農民の視点から使われると特別の意味を持つことに気づく。要するにそうとしか言いようがないのである。戦後、アメリカの穀物戦略のもとで余剰穀物のはけ口とするために、「キッチンカー」や学校給食法をつうじて日本人の味覚を変えることすら強制され、定着した。やがてそれはコメの消費低下、減反政策、WTO受諾トコメ政策の転換につながってゆく一連の流れになる。

 それに対してどのような闘争が展開され、あるいはなしえなかったのかを当事者として率直に記したのが本書である。回顧録という性格もあり、失礼ながら一見したところ「売れる」種類の本ではないのだが、外見を見て敬遠するには勿体ない内容の豊富さである。

 1961年に牛乳の出荷一日停止するという農民のストライキに至った「乳価闘争」の記述は本書のかなりの部分を占めている。古い話ではあるが、スリリングで引き込まれるように一気に読み通した。若き著者らにとって生命を燃焼させる闘いであったという。

 酪農家の労働は過酷で「背骨が曲がるようであった」と記す。本書に紹介されている「乳価闘争の歌」は著書の人生そのものに思える。著者はその後、足掛け13年に及ぶ共産党の衆院候補者活動に専念するため、牛を手放したというが、その苦悩と決意はどれほどであったろうか。

他にも減反の進め方を農林省と交渉した際に役人が「代掻き」(田植え前に水を満たし田面を平にする作業)を知らないことに気づいた、という話や、WTO批准が国会可決されたときに膨大な関係資料が翻訳さえされておらず、「大事なことを何も知らない者が決めている」と怒りを覚えたという話など、当事者ならではの証言は貴重である。

 著者がその結成に心血を注ぎ、代表常任委員を勤めた農民連は、1980年代の社共両党の対立を原因とした全日農の分裂の過程から誕生した経過から、共産党系農民組織として見られることが多いが、産直運動の推進などに特徴を持ち、また独自の検査機関を持っていて輸入農産物の残留農薬・遺伝子組み換え作物の検査を通じてマスコミに登場することが多い。

食と農の現状を見るとき、今更ではあるが生産者と市民が連帯する必要は痛感させられ、その方向が追及されていることは喜ばしい。著者も政党からの独立を強調しているように、政治的な垣根をこえて、それらの運動が発展してほしいと願う。(大●●二/労働者)

雑誌『ロゴス』から転載